稲城市社会福祉法人連絡協議会
市内の全法人が加入する『稲城市社会福祉法人連絡協議会』で地域公益活動をすすめる~『子どもの居場所づくり』から活動を展開
掲載日:2019年7月23日
2019年7月号 連載 社会福祉法人の地域ネットワーク

(前列右から)

正夢の会地域支援局相談支援部部長 青野修平さん、平尾会介護老人福祉施設ひらお苑施設長 白井仁志さん、東保育会理事長 富岡孝幸さん、稲城市社協事務局長 福島英朗さん

(後列右から)

稲城市社協事務局次長 寺尾和子さん、同総務係主任 佐藤麻美子さん、同総務係長 鵜飼達彦さん

 

平成28年9月に設立した東京都地域公益活動推進協議会は、(1)各法人、(2)地域(区市町村域)の連携、(3)広域(東京都全域)の連携の三層の取組みにより、社会福祉法人の「地域における公益的な取組み(以下、地域公益活動)」を推進しています。東京都地域公益活動推進協議会では、地域ネットワークの立ち上げのための事務費や、複数法人の連携事業開始時期の事業費の助成を行うとともに、地域ネットワーク関係者連絡会等を開催し、他の地域と情報交換できる機会をつくっています。

 

あらまし

  • 稲城市では、市内の社会福祉法人の連携による地域公益活動の取組みについて、平成28年2月から約2年間をかけて「意見交換会」を重ね、検討をしてきました。アンケートや話し合いをもとに、制度やサービスでの支援が十分でないと思われる、学齢期を中心とした「子どもの居場所づくり」をテーマに取組みをすすめることで一致し、法人単独で、あるいは複数の法人が連携して具体的な活動を始めています。活動がすすむ中、平成30年5月25日には市内に施設・事業所のある全13法人が加入する「稲城市社会福祉法人連絡協議会」が設立されました。それぞれの活動の状況を共有することで、市内全域で多様な取組みがさらに発展していくことを目指しています。

 

 

意見交換会での話し合いから「子どもの居場所づくり」をテーマに

稲城市において、市内の社会福祉法人の地域ネットワーク化のきっかけとなったのは、平成27年12月と28年1月に稲城市社協が呼びかけ、市内の社会福祉法人がともに学ぶ場として開催した、社会福祉法改正や地域公益活動に関する研修会でした。研修を通じ、参加した法人が地域公益活動に取組まなければならないという認識を一層強めたことが、ネットワーク化に向けた第一歩となりました。

 

これを契機に、稲城市社協が事務局となり、平成28年2月から、市内に施設・事業所がある法人の「意見交換会」が開催されました。それまで稲城市では、近隣の施設同士や事業種別ごとの法人のつながりはあったものの、種別を超えた集まりはありませんでした。この意見交換会を通じ、お互いの法人の取組み等について、情報共有や意見交換がすすみました。稲城市社協事務局長の福島英朗さんは、「稲城市では、組織づくりを急ぐことなく意見交換会を重ねた。顔の見える関係をつくり、活動がすすむ段階を迎えてから組織化することをめざした」といいます。

 

意見交換会では、当初、市の福祉部各課と法人とで、市施策の状況や市内の福祉課題、必要な取組みなどについて、情報交換をしました。次に参加法人にアンケートを取り、地域公益活動として取組むテーマについて意見交換を行いました。その中で、制度による支援が少なく、市内において課題が大きいと思われた、「学齢期を中心とした子ども支援」、特に「子どもの居場所づくり」に積極的に取組んでいこうと、意見が集約され、方向性が定まりました。

 

その後、具体的な活動が進みつつある状況もふまえ、「子どもが通える範囲」「法人が連携して活動できる範囲」等を意識し、市内を地域性に応じた3つのブロックに分けて、エリアごとに検討を重ねました。
約2年間で計7回の意見交換会を経て、平成30年5月25日に、市内全13法人が加入する「稲城市社会福祉法人連絡協議会(以下、「連絡協」)」が設立されました。連絡協の会長である平尾会介護老人福祉施設ひらお苑施設長の白井仁志さんは、「法人数はさほど多くないとはいえ、市内の全法人が参加し、種別を超えたネットワークができた。自法人は主に高齢者を支援対象としているが、縦割りの分野を超えた地域共生社会づくりという流れの中で、地域の共通課題である子どもへの支援に連携して取組める状況になっている意義は大きい」といいます。

 

「やのくち子ども食堂」の取組み

意見交換会の開催と並行し、複数法人が連携する活動として、平成29年度頃から矢野口地区での「子ども食堂」の取組みが始まりました。

 

矢野口地区にある東保育会松葉保育園では、地域への貢献を意識し、建物内に交流スペースを備えています。以前から卒園児を含め、地域の子どもの支援が必要だと感じていたことから、近隣の正吉福祉会地域密着型複合施設やのくち正吉苑、博愛会ハーモニー松葉(軽費老人ホーム、ケアハウス等を運営)とともに、施設の交流スペースを活用し、地域の居場所としての「子ども食堂」を実施するための検討をすすめました。

 

稲城市社協の地域福祉コーディネーターも協力し、準備段階では、矢野口地区で実施されている生活支援体制整備事業の第2層協議体「つながろう矢野口」の会議でも取組みについて説明しました。また民生児童委員、自治会役員、小学校、市生活困窮者支援制度担当者等に試食会や意見交換の場を設定するなど、地域の理解や支援を得ていきました。

 

こうした準備期間を経て、平成30年2月より、「やのくち子ども食堂」がスタートしました。民生委員等からの声掛けで、居場所が必要だと思われる子ども10~15人に対し、月2回、夕食の提供や学習、ゲーム等の交流を行っています。

 

この活動には、ハーモニー松葉のケアハウスの入居者もボランティアとして参加しており、子どもたちと世代を超えた温かい交流があります。東保育会の理事長であり、連絡協の会計監事でもある富岡孝幸さんは、「ケアハウスの入居者にとって、子ども食堂の力となっているだけでなく、自己有用感の向上にもつながっているようだ」と、活動のさまざまな意義を感じています。

 

「やのくち子ども食堂」での一コマ

 

学習支援と食事の場 子どもの居場所「くれば!」

稲城市社協の事務所がある稲城市福祉センターの周辺、百村地区を中心としたエリアでも、平成31年3月から活動が始まりました。稲城市社協、東保育会本郷児童館、永明会いなぎ苑(特別養護老人ホーム等を運営)が連携して取組んでいます。

 

福祉センターを会場に月2回開催し、うち1回は学習支援、1回は学習支援に食事と遊びをセットした場の提供をしています。毎回5~15人ほどの子どもと、約20人のボランティアの参加があります。稲城市社協の総務係主任の佐藤麻美子さんは、「これまで社協では、『子どもの学習支援をしたい』などの活動希望の相談を受けても、活動先をなかなかご紹介できなかった。『くれば!』ができたことで、子どもの支援に関心のある方に多数ボランティアとして参加していただけるようになった。子どもからもボランティアからも楽しいという感想を聞いている」といいます。また、社協から市内の駒沢女子大学へも協力を呼びかけたところ、大学側にも学生を地域やボランティアにつなげたいニーズがあったことから、保育学部の学生を中心に、毎回4、5人が参加しています。今後は協働する法人で試行錯誤しながら、より地域に求められる活動にしていきたいと考えています。

 

他のエリアでも、地域の状況をふまえて連携した取組みの検討をしているほか、子どもの支援に限らず、各法人により地域ニーズに合わせた活動も始まっています。稲城市社協総務係長の鵜飼達彦さんは、「地域公益活動の取組みがすすむ中で、地域のニーズを把握し、社会福祉法人等に的確につないでいくことが社協の役割としてますます求められていると感じる」といいます。

 

子どもの居場所「くれば!」チラシ

 

今後の「稲城市社会福祉法人連絡協議会」での取組み

連絡協では、昨年度、総会に加え、研修会や情報交換会、法人共通の課題である「福祉の仕事相談会」の開催などを行いました。

 

連絡協の副会長で、正夢の会地域支援局相談支援部部長の青野修平さんは「自法人では、法人本部のある稲城市を中心に各地域で地域ネットワークに関わっている。今後、法人内でも地域公益活動への理解をより深めていきたい」といいます。白井さんは、「昨年度の研修会では実践発表を行い、各法人の役員約70人に対し、社会福祉法人に求められる役割や市内の具体的な取組みを理解してもらう機会をつくることができた。今後、引き続き情報共有や意見交換をするとともに、『人づくり』など、共通課題に対して取り組んでいきたい」といいます。

 

今後も、顔の見える関係のもと、連携しながら地域に求められる取組みを続け、社会福祉法人の役割を発揮していくことを目指しています。

取材先
名称
稲城市社会福祉法人連絡協議会
概要
(社福)稲城市社会福祉協議会
http://inagishakyo.org/
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