(社福)文京区社会福祉協議会、キーベース
少しクローズドな居場所『キーベース』での中間的就労プログラム『キーベースのしごと部屋』
掲載日:2019年10月17日

 

あらまし

  • ~「生きづらさを抱えた方を受けとめる地域づくり実践」をテーマに開催した、令和元年度「第1回 地域づくりをすすめるコーディネーター連絡会」において、文京区社会福祉協議会(以下、「文京区社協」)・地域福祉コーディネーターの藤本愛さんにお話しいただきました~

 

文京区について

文京区は23区のちょうど真ん中に位置し、昔から文人や医師・政治家などが多く住んでいた地域です。現在も出版社や印刷関係の企業、大規模病院の他、大学も20近くあり、地域資源として学生の力をたくさん得られることも特徴の一つです。また、「アカデミックなものを学びたい」という学習意欲が高い住民の方が多いのも特徴の一つと言えます。高齢化率は区内全体で約20%、町会加入率は6~7割程度と町会組織もかなり残っていて、文京区社協では、町会の文化を基盤とした「多機能な居場所づくり」に力を入れています。

 

文京区社協の組織は、総務係や地域福祉推進係、文京ボランティア支援センターや権利擁護センターのあんしんサポート文京、有償家事援助サービス等のささえあいサポート係、地域連携ステーションフミコムといった組織です。平成24年度から「地域福祉コーディネーター」という、地域の中に入り、住民や関係機関と協力して、課題解決に向けた住民主体の活動支援等を行うコーディネーターを配置しています。区内4圏域の1つをモデル地区として1名の配置からスタートさせ、現在はすべての圏域での複数配置がすすみ、合計10名のコーディネーターがいます。コーディネーターの役割としては、大きく「個人支援」と「地域支援」の2つを位置づけています(下図参照)。

地域福祉コーディネーターの役割 整理図(文京区社協作成)

 

オーナーの思いと地域の既存の力を活かした「キーベース」の立ち上げ

「キーベース」はマンションの一室を活用した、生きづらさを抱え、地域で孤立しがちな方を受けとめることのできる居場所です。立ち上げのきっかけは、高齢者あんしん相談センター(地域包括支援センター)からの「所有マンションの空き部屋を地域活動に活用してほしいという方がいる」との相談がスタートです。この部屋のオーナーAさんは、「会社経営からリタイアした後は自由に過ごしたい」と考えていらしたのですが、リタイアを目前に、脳梗塞で身体に麻痺が残りました。居場所に対するオーナーの想いを聴き取る中では、「自分もその居場所の参加者になりたい」「子どもや障害のある方の役に立つ活動に使って欲しい」という想いも徐々に分かってきました。コーディネーターとしては「オーナーの生きがい支援にもなるのでは」ということも考慮して進めました。また、居場所の立ち上げに向け、地元の町会や民生委員、他の居場所づくりをしている団体関係者などにも挨拶をしていきました。

 

ちょうど同じ時期、区内で空き家を使った常設型の居場所「こまじいのうち」を運営する団体が事業化を進めるため、NPO法人化を図りました。そして、法人格の取得を契機に「何か新しい取組みをしたいね」「自分達のノウハウをたくさんの人にも伝えたいね」と、「こまじいのうち」主催で、「地域交流講座」と銘打った居場所づくりのワークショップを企画することになりました。講座は、区内在住・在勤者向けで、実在の空き物件を題材にして、この空間で「何ができるか」を受講者で考えていく企画としました。コーディネーターは、講座の運営に協力してくれる学生の調整や講師探し、題材となる空き物件探しやオーナーとの顔合わせなどをセッティングしていきました。

 

この企画では、Aさんの所有する部屋も講座の題材の一つとしました。担当した受講者は、近所に住んでいる会社経営者や主婦、NPOで活動している人、障害者団体の方、在勤者などです。その際に、居場所の名称も「キーベース」に決定しました。スペースの活用方法として「①社会参加準備のための居場所」「②夜に行ける居場所」、オーナーの趣味でもある「③『写真』を絡めた居場所」の3つの提案があり、実施するとしたらどのように運営するかを考えるワークをし、講座終了後も、受講者が継続して「キーベース」運営メンバーとなりました。

企画終了後の運営に向けた会議では、まずは「①社会参加準備のための居場所」をテーマに、オープンで多様な人が集まる居場所には来づらい人にも参加しやすい場を考えていくことになりました。「障害があったり、引きこもっている人が出てこられるような、少しクローズドで、何か手作業や軽作業をすることをきっかけに、地域に出てこられるような居場所を作りたい」との想いで「キーベースのしごと部屋(以下、「しごと部屋」)」という名前をつけて、企画を進めました。

みんなで作業内容を相談中

 

関係形成する中で地域ニーズがオーナーの気持ちを動かす

運営メンバーが、「しごと部屋」についてオーナーへの相談をしたところ、オーナーに営利活動をすると思われてしまい、企画がストップしてしまった時がありました。「オーナーに私たちの思いがまだ十分につたわっていなかったね」と皆で反省して、大掃除のイベントや1ヵ月に1回の定例会議を開催しながら、半年程かけて話し合いを進めました。

 

また、コーディネーターは、障害者就労支援センターや作業所などに、障害のある方や生きづらを抱えた人達の居場所がどれぐらい必要なのか、ヒアリングしました。そこでは、「施設の外に出て地域の人と交流する場所が全くない」「少しクローズドな居場所があるとすごく助かる」という声をたくさん聴き取ることができ、その後、これらの情報をオーナーに伝えました。「地域にそんなに困っている人がいたんだ」と、オーナーの理解も得られ、企画を進めることができました。さらに、近所にある精神障害者のB型作業所の職員からも「是非、立ち上げに関わらせて欲しい」という申し出があり、一緒に関わってもらうことになりました。「こまじいのうち」のメンバーにも、引き続きアドバイザーとして関わってもらい、再度、企画内容を詰めたり、助成金申請(立ち上げ資金集め)、運営のための役割分担などを調整しながら、その後はスムーズに立ち上げることができました。

パソコンで作業

 

さらに活動を安定・発展させるために

現在「しごと部屋」には、2名程の運営メンバーの他、学生などのボランティア、B型作業所の利用者や職員、地域の中で孤立している高齢者、休学中の高校生やボランティア活動をしたい発達障害のある方などが参加しています。皆で切手を剥がす作業をして、業者に売却することで運営費に替えたり、パソコンや絵を描く画材を用意して、デザインや芸術に興味がある参加者に、「こまじいのうち」で行うイベントのチラシを作ってもらうといった作業をしています。そうした作業をしながら、ちょっと交流もして、「お茶飲み」だけでは来づらいような方が来られる居場所に…との想いでやっています。

 

実は、いま、プログラムも少しだけ増えています。最初の提案の一つでもあった「写真」を見て語り合うプログラムです。また、オーナーは映画も趣味なので、オーナーが参加者に留まることなく、「映画選び」という役割を担ってもらって、夜の居場所として映画鑑賞会をやっています。その他にも、近所の高齢者向けランチ会を企画しようという話が進んでいて、「こまじいのうち」で行われている子ども食堂とも連携した企画を検討しています。

「しごと部屋」の今後の目標は、もう少し参加者を増やすこと。それから「軽作業で得たお金をワンコインでも参加者に支払うことができたらいいな」と話しています。マンションの一室を活用していることもあり、現在は、町会掲示板にチラシを貼るなど、大きな広報はできていないのですが、逆に大きく広報されると来づらい方達が、気兼ねなく来られるような居場所にして行きたいと考えています。そのために、「キーベース」全体の目標としても、クローズドな空間を活用したプログラムづくりを進めることや、引きこもりなどの生きづらさを抱えた方を支援しているNPO団体と連携していくことを考えています。

得意なイラストを活かして

 

地域にはクローズドな居場所も必要

「キーベース」の立ち上げで大きかったのは、既に活動していた「こまじいのうち」という居場所づくりの先輩が、相談相手になってくれたということです。「こまじいのうち」の発信力を使って、「キーベース」も活動の広報ができ、また、参加する住民の目線で見ても、「キーベース」だけでなく、「こまじいのうち」のたくさんのプログラムにも参加することができます。「こまじいのうち」にとっても、自分達の後輩ができたという感じで、さらにモチベーションが上がったように感じています。

 

専門職側としても、クローズドな居場所であれば行きたいという中高生や、ボランティアをしたいけど発達障害があってみんなと同じように活動することは難しい方など、多様なニーズを受けとめられる場所が地域にできた意味はとても大きいと思っています。

 

今回の立ち上げにあたっては、障害分野の専門職と連携して、地域ニーズを把握することができました。文京区社協では、いろいろな人に声をかけ、実行委員会形式で居場所を立ち上げることが多いのですが、今回は、マンションの1室で、開放的なスペースというわけではなかったため、その形式を取り入れることができませんでした。そのため、スローペースでしかプログラムを増やすことができていませんが、「テーマを限定した居場所」も地域の中には必要だったのだということがかなり見えてきました。

運営メンバーが在勤者だったり、公募で集まったメンバーのため、元々濃い地縁を持っている方が少なく、メンバーの口コミで参加者を増やしていくことがなかなかできません。今後は町会や民生委員等、もう少し濃い地縁を持つ方や団体を巻き込みながら進めていきたいと思っています。

ボランティアも一緒に切手はがし

 

駒込地区のお祭りでこの地区を一緒に担当する地域福祉コーディネーターと

取材先
名称
(社福)文京区社会福祉協議会、キーベース
概要
(社福)文京区社会福祉協議会
http://www.bunsyakyo.or.jp/
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