中村雅彦さん(福島県視覚障がい者福祉協会 専務理事)
東日本大震災で被災した障がい者の困難さを聞き取る
掲載日:2017年12月19日
ブックレット番号:4 事例番号:44
福島県福島市/平成27年3月現在

 

日中活動のできる施設の早期再開の必要性

東日本大震災では、発達障がい者の避難所等での支援が新たな問題として取り上げられました。厚生労働省の障害福祉課地域移行・障害児支援室から、平成23 年3 月16 日、23 日、29 日に事務連絡「地震により被災した発達障害児・者等への避難所等における支援について」が発出されました。発達障がい者は慣れない場所や人が苦手なので、家族等の障がいを理解している人の支援が必要です。避難所での生活は、障がいがなくてもストレスのあるものです。自分なりのやり方や決まりが崩れるとパニックになってしまうことの多い発達障がい者にとって、避難所での生活は深刻なストレスとなります。この問題を受け、短期間に続けて通知が出たものと思われます。

 

しかし、地震や津波等で家が損壊してしまった場合は避難所で生活する他ありません。できる限り元の生活に近づける方法の1つとして、作業所等の福祉施設の早期再開が求められます。障がい者の特性をよく理解して支援する施設の職員は、障がいを持つ本人にとっても、その家族にとっても重要な存在です。また、避難所での暮らしは障がい者の体力や感覚機能を奪います。中村さんは実際に、作業所に通っていた方が避難生活の中でつまずきやすくなったり、ご飯をこぼしやすくなったりしている等の話を聞きました。そして、そういった方が避難した地域で作業所に再び通い始めて少しずつ体力や感覚機能を取り戻したという話も聞き、改めて日中活動のできる施設の役割の大きさを感じました。ですから、施設が損壊してしまった場合でも、県内・県外含め広範囲の施設と事前に提携を結んでおき、日中活動がなくなってそれまで維持できた機能が損なわれないよう障がい者及び職員を受入れてもらえる体制を整えておく必要があります。

 

また、「地震や津波等での損壊がない福祉施設は、災害発生後すぐに、地域に持っているものを全て出して“ 地域支援の場” として切り替えなくてはならない」と中村さんは話します。まずは利用者の安全を確保した上で、地域に対して何ができるかを普段から職員間で共有しておく必要があります。

 

昨日までの経験を生かして支援をしていく

聞き取りを通して、障がい者の避難における課題や、解決するためのヒントが見えてきました。中村さんはこれらの聞き取りをまとめるとともに、課題及び解決に向けた考えを提言という形で掲載し、『あと少しの支援があれば―東日本大震災 障がい者の被災と避難の記録』(ジアース教育新社)という書籍を平成24 年2 月に発行しました。行政に対しての提言も行っています。

 

平成27 年3 月で、東日本大震災から丸4 年です。福島県には、原発事故の影響で自宅に戻れない障がい者が2,500 人以上はいるとされています。中村さんは現在も、福島県視覚障がい者福祉協会の専務理事として、福島県点字図書館館長及び福島県視覚障がい者生活支援センター長として、また個人として、被災した障がい者の支援活動を行っています。「これまでは、『私がやらなきゃ誰がやる』という気持ちでできる限りの支援をしてきたけれど、本人の自立のためには線引きも考えなければいけない」と中村さんは悩みを抱えていました。これは、被災者を支援する方全ての悩みと言えるかもしれません。しかし、「昨日までの経験は全て準備で、その経験を生かして今日何ができるか、という気持ちでこれからも障がい者のための支援を行っていく」という強い思いを持って、中村さんの活動はこれからも続いていきます。

 

 

取材先
名称
中村雅彦さん(福島県視覚障がい者福祉協会 専務理事)
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