(社福)東京都社会福祉協議会
生活福祉資金・教育支援資金の貸付における昨今の課題と役割
掲載日:2019年11月12日
2019年11月号 社会福祉NOW

 

あらまし

  • 低所得世帯の子どもが十分な教育を受けられないことによる、世代間での貧困の連鎖や、格差の固定化が問題となっています。
    このため国を挙げて、世帯の経済状況に関わらず、すべての子どもが夢や希望を持って大学等に進学できるよう、支援の充実が図られているところです。
    今号では、「生活福祉資金・教育支援資金」から見える昨今の課題と社会福祉協議会の役割について、今後の高等教育の無償化もふまえ取り上げます。

 

教育支援資金の目的は、「世帯の将来的な生活の安定と自立」

近年、経済的な理由から子どもたちが進学を断念することがないよう、さまざまな制度の充実が図られています。高校進学では、国の就学支援金により授業料が軽減されています。東京都では、授業料軽減助成制度により私立高校に通う低所得世帯の子どもは、ほぼ授業料分が補助されます。大学等への進学においては、日本学生支援機構の給付型や無利子奨学金制度等が拡充されています。

 

さらに来年4月からは、「高等教育における修学支援新制度」(以下、「高等教育無償化」)が始まります。低所得世帯の学生に対し、大学等の授業料及び入学金の減免や、給付型奨学金が拡充される等、さらなる修学の支援がすすめられています。(※1)

 

社会福祉協議会(以下、「社協」)が実施する生活福祉資金貸付制度(※2)の一資金である教育支援資金は、昭和30年代から続く制度です。低所得世帯の子どもの進学や修学継続を支援するため、入学金や授業料・教材費等の貸付けを無利子で行っています。貸付により、借受世帯の将来的な生活の安定と経済的な自立を促すことを目的としています。返済は、学校を卒業した後に、基本的には子ども自身が行います。返済が終わるまでの間、区市町村社協は、民生委員等の地域の関係機関と連携して継続的な相談支援を行いながら関わっていきます。

 

※1 高等教育における修学支援新制度
住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯の学生を対象に、大学、短大、高等専門学校(4・5年生)、専門学校への修学の支援を拡充する制度であり、令和2年4月より実施される。詳しくは、文部科学省のホームページ参照。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/hutankeigen/index.htm

 

※2 生活福祉資金貸付制度
戦後の民生委員の活動から昭和30年制度創設。低所得世帯、障害者世帯、高齢者世帯に無利子、低利子で貸付と相談支援を行うことで生活の安定と経済的自立を図ることを目的とする福祉事業。
借入れには資金ごとに要件がある。詳しくは本会ホームページ参照。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/kasituke.html

 

教育支援資金の貸付の現況と、ケースを通して見える課題

進学を支援するさまざまな制度が整備されてきているなか、教育支援資金の貸付において気を付けていることは『利用できる制度は利用し、過不足ない貸付を行う』ということです。制度利用には手続きが必要であり、期日までに行わなければなりません。また、奨学金等の支給時期は入学後であり、入学金等の立替払いが前提となっています。一時的にでも資金を用立てなければならないことは、経済的に余力のない低所得世帯にとっては大問題です。したがって、利用できる制度の情報は早めに伝え、いつ、いくら必要なのかシミュレーションをし、資金計画を立てる支援が重要になってきています。

 

昨年度の教育支援資金の貸付決定件数は、1千48件です(図)。そのうち、4割が生活保護受給世帯です。世帯構成では、母子または父子のひとり親世帯が全体の72%でした。ここ数年その割合は増加しています。

 

図 教育支援資金貸付決定者の内訳(東社協平成30年度実績)

 

生活保護世帯では、ひとり親世帯が占める割合が高いことに加え、親が外国籍である世帯も多くなっています。

 

ケースを通して、ひとり親世帯をはじめ低所得世帯の多くは仕事等で忙しく、目の前の生活に手いっぱいで、子どもの将来に向き合う時間がとりにくい様子が伺えます。結果として、受験の準備や各種制度の理解が十分でないまま、手続きが遅れてしまうというケースが少なくありません。また、書類の管理や手続きが苦手であったり、学費等の納期直前にあわてての相談、学費等の額の把握ができていないなどのケースも散見されます。

 

世帯と一緒に悩み、喜びあえるために~足立区社協の取組み~

 

足立区社協説明会の様子

 

足立区社協では、区内の進学率が高くない状況等もふまえ、より多くの区民に修学の支援ができるよう、教育支援資金の広報に力を入れています。

 

以前は、進学の時期にのみ区内の広報誌に教育支援資金を掲載し広報していました。しかし、年度によって貸付件数が大きく異なることから、区民に十分な情報が伝わっていないのではと考えました。また、それまでの教育支援資金の支援により把握した世帯の課題から、できるだけ早い時期に、進学資金にかかる制度をより具体的に知り、見通しを立ててほしいと考えました。

 

そこで、区民向けに「教育支援資金説明会」を開催し、広く区民に広報する取組みを始めました。時期も高校進学者には志望校が決まる三者面談後の10月に開催し、大学進学者には日本学生支援機構の申請時期に合わせるなど工夫をしています。

 

さらに、この説明会を、昨年までは土曜日の午前中に開催していましたが、アンケートの結果、週末の夜の要望が高かったことから、今年は金曜日の午後7時からの開催にしました。その結果、父親の参加も多く一定の効果が得られたと言います。

 

参加者の関心は、「うちは貸付が受けられるか」「入学前に送金されるか」「手続きは簡単か」等でした。説明会で直接制度や学費に関する説明を受けたことで、その後の個別の貸付相談に進むことができました。相談では、卒業までの学費について、日本学生支援機構と教育支援資金の支援を受けた場合の資金計画を作成し、世帯の理解を促しました。

 

足立区社協の山本さんは、「生活保護世帯やひとり親の世帯では、周囲からも孤立してしまい、真に相談できる相手がいない場合も多くある」と言います。「子どもの進級や進学を心配したり、どうしたら子どもが自立できるのかを考えたり、世帯と一緒に悩みながら相談をすすめている」「子どもが成長していく姿を世帯と一緒に喜びあえるのは、生活福祉資金ならではのもの。生活福祉資金でしか行えない支援を大切にしていきたい」と言います。

 

「高等教育無償化」における社協の役割

高等教育無償化は、「貧困の連鎖を断ち切り格差の固定化を防ぐこと」を目的に来年4月からはじまります。大学等の授業料減免及び給付型奨学金の支援対象者・支援額が大幅に拡充されるものです。

 

ただし、これも実際には、世帯の所得状況や進学する学校によって支援の内容が異なり、相応の自己負担も発生します。特に、私立や理系の大学等に進学する場合、授業料等の減免や給付型奨学金だけでは必要な費用をまかないきれないのが実態です。

 

無償化の対象とされた学校も専門学校では全体の62%(※3) 令和元年9月30日現在(文部科学省ホームページより)にとどまり、対象外の学校に進学する場合には無償化の支援を受けることができません。

 

このような状況も含め、世帯では、さまざまな情報の中から進路を見定めていくことが、より必要となってきます。社協では、高等教育無償化の制度理解を促すとともに、さらに複雑化した学費等の調達方法について、資金計画を立てる支援も必要となっていきます。

 

教育支援資金の目的である「世帯の将来的な生活の安定や経済的な自立につなげる」ためには、子どもが学校等を卒業し就職することが大切です。子どもが修学を継続し、卒業できるよう、世帯が学費以外に抱えている課題等がある場合も含めて、社協の他の機能や地域の社会資源等も活用した解決を行うなど、社協本来の役割を果たしていく必要があります。

 

※3 令和元年9月30日現在(文部科学省ホームページより)

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会
概要
(社福)東京都社会福祉協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/

生活福祉資金貸付事業について
https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/kasituke.html
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