(社福)鵜足津福祉会 特別養護老人ホーム マイルドハート高円寺
広がる外国人材の受入れ(2) 一人ひとりに向き合って着実な支援・育成を(杉並区・マイルドハート高円寺)
掲載日:2019年11月20日
2019年11月号 連載

職員同士の交流会にて

 

あらまし

  • 福祉人材の確保・育成・定着に向けたさまざまな取組みの一つとして、福祉施設や事業所では、福祉を学んだ新卒学生だけでなく、未経験者や主婦層、高齢者、外国人など多様な人材に対し、採用や育成・定着のためのさまざまな工夫やアプローチを行っています。多様な背景を持つ人たちが、福祉の仕事に関わるきっかけや働く環境をつくるための取組みや工夫等を取り上げます。

 

EPAで多数の外国人を受け入れる

「EPA(経済連携協定)」とは、日本との二国間の経済連携の強化を目的とした制度です。介護分野では相手国における看護学校・大学の看護課程修了者など一定条件を満たした者を対象に募集・選考を行い、日本語研修を経て日本で介護福祉士候補者としてEPAに基づく滞在・就労が認められます。現在は、インドネシア・フィリピン・ベトナムの3か国と協定が結ばれています。入国後3年以上の就労・研修を経て介護福祉士の資格を取得すれば、日本での永続的な就労と家族の帯同も可能となります。

 

社会福祉法人鵜足津福祉会の特別養護老人ホーム「マイルドハート高円寺」には、現在13名のEPA介護福祉士候補者と、香川県の法人本部施設で介護福祉士候補者としてEPAに基づく就労・研修を経て介護福祉士に合格し、異動してきた1名が就労しています。外国人職員は合計で14名となり、同ホームの介護職員の約1割にあたります。

 

同ホームでは、受入れ前からさまざまな準備をし、体制を整え、受入れ後には親身に候補者たちの生活・仕事・学習を支えています。施設長の鈴木員世さんから工夫や実態をお聞きしました。

 

マイルドハート高円寺 施設長鈴木員世さん

 

ベトナム人候補者から受入れ開始

同ホームが、初めてEPA候補者を受け入れたのは、平成28年8月のことです。まず、すでに受入れ実績のあった法人本部施設の視察を行いました。EPA候補者たちが施設のイベントで積極的に出し物を演じ、入居者の家族に受け入れられている様子を見て、施設の雰囲気をこれまで以上に明るく変えてくれる可能性を感じ、「始めは手探りでも何とかやってみよう」と導入を決めました。

 

第1期生は、法人本部施設での受入れ経験があったことよりベトナムから3名を受け入れました。その後、平成30年8月にベトナムからさらに5名を、平成30年12月にはフィリピンから3名、インドネシアから2名を受け入れました。

 

原則として、ベトナムからの候補者は12か月間、インドネシア・フィリピンからの候補者は6か月間の訪日前日本語研修を修了してから入国します。入国後は、ベトナムは約2・5か月間、フィリピン・インドネシアは6か月間の訪日後日本語研修及び介護導入研修を修了し、各受入れ施設へ配属となります。(※1)国によって入国時の日本語能力と研修期間が違うため、受入れ後の施設でのオリエンテーションは、国ごとに少し対応を変える必要がありました。しかし、半年ほど経過して一定の介護技術を習得したころには、3か国のどの国の候補者からも、安心して現場を任せられるほど成長する者が現れ始め、大きな戦力になっています。

 

※1 制度の概要はこちら。
「公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)」ホームページ

https://jicwels.or.jp/

 

住居の確保が大きな課題

鈴木さんが、受入れ前の準備として、最も困難を感じたのは住居の確保でした。「40軒以上、断られた」と言います。

 

「国土交通省住宅局(平成30年度)家賃債務保証業者の登録制度等に関する実態調査報告書(※2)」において外国人世帯の入居について7割の大家が「一定の拒否感を持つ」と回答しているように、外国人に対して入居の制限を設けている賃貸物件は少なくありません。

 

同ホームでは、第1期生は法人所有の職員用マンションを利用しましたが、第2期目の受入れ時は人数が増え、外部から借りなければならなくなり、住宅の確保は難航しました。

 

都会である東京での就労は、候補者たちからも一定の人気があると言います。その一方で、物価やとりわけ住居費の高さについては、それほど広く知られてはいません。都心で希望の条件がそろった部屋を探すこと自体がとても難しいことであるため、時には、候補者の希望とのミスマッチもありました。「就労を希望する施設がどのような環境にあるか、マッチング前に理解を深めてもらうことも大事」と鈴木さんは言います。

 

※2 福祉広報2019年7月号

「NOW 安心して地域に住み続けるために~居住支援協議会の取組み~」で紹介

 

受入れ開始前に職員や家族へ説明

受入れ開始前に、職員に対しては、EPAの制度概要と、候補者たちの出身国の概要や来日時に想定される日本語能力、介護福祉士資格取得に向けた今後3年間のスケジュールなどを説明しました。各ユニットのリーダーには、さらに個別の打合せの機会を持ちました。

 

入居者やその家族には、年に1度の定例家族懇談会の場で、理解を求めました。家族からは、応援の声もある一方で、戸惑いの声も聞かれました。しかし、いったん受入れが始まると、候補者たちが懸命に介護業務に取り組む姿を見て、徐々に反応が変わっていったと言います。「最初は様子を見ていた家族の方から、候補者に声を掛けてくれるまでになった。入居者にとっては、かわいい孫のような存在として受け入れられている」と鈴木さんは言います。

 

受入れ後の配置と介護技術の指導

同ホームでは、施設全体でユニット制を採用しています。10人の入居者に対し、4~5名の職員が専属で担当します。1ユニットにEPA候補者を1~2名ずつ配置し、主にOJTで育成をすすめています。

 

第1期生の受入れ当初は、細かい計画を立てて、習得した介護技術を一つ確かめては次に進むといった、慎重なやり方でした。そのため、座学で習った知識をすぐに実践できず、かえって成長に時間をかけすぎてしまうという状況がありました。

 

そこで、第2期生からは、介護技術の指導や進行は現場のユニットに任せることとし、施設長を中心とする管理部門は、生活面と日本語の指導を受け持つ、というように分業制で行うこととしました。月に1回のミーティングでそれぞれ進捗を確認し合う機会も持つことにしました。

 

今は、介護技術の指導は、経験・習得した技術をチェックリストで把握し、全体の進度を確認しながら進めています。これは日本人職員に対する方法と同じです。そのほかに、入居者家族との対面や電話での会話など、苦手意識を持ちやすい業務をフォローしたり、ケース記録などで日本語の使い方を確認するなどの配慮をしています。

 

職員からは、指導を真剣に受け止め、できないことがあれば素直に悔しがる候補者たちの姿をみると指導や自身の仕事へのモチベーションも上がる、との声も聞かれます。

 

日本語学習と国家試験対策を丁寧にサポート

授業風景

 

受入れ施設は、候補者の国家資格取得に向けた日本語および介護技術の習得を、研修指導者を配置してサポートしていくことが求められます。

 

同ホームでは、就業時間の中から週に5~6時間を日本語学習の時間に充てています。シフトをやりくりするため、所属するユニットの職員たちの協力は不可欠です。

 

就労経過年数により、外部講師によるスクールから個人学習へ段階を踏んだ学習方法をとります。苦手分野や遅れが生じれば、早めに克服できるよう、研修指導者を中心とする職員が積極的に関わって進捗状況を確かめ、個別に指導を行います。

 

定期的に漢字テストや国家試験の模擬テストを行ったり、過去問の中から間違いやすいポイントを職員手作りのプリントでアドバイスすることもしています。

 

また、一緒に本屋へ出かけ、興味のある雑誌や小説を選んだり、外食先で味わった日本食のレシピの書き取りや調理実習を行ったりと、日常生活を言語や日本文化への理解に結び付ける工夫をしています。

 

平成28年に来日した第1期生は、現在、国家試験を控えた追い込みの時期に入っています。直前には集中して学習できるよう、勤務体制を配慮する予定です。

 

一人ひとりを着実に育成したい

施設長の鈴木さんは、今後について、「日本で働く外国人の労働環境を取り巻くトラブルなどの報道があるが、そのようなことのないよう、自ホームでは複数ある受入れ制度のうち、当面はEPAに注力し、毎年ではなく1年ごとに受け入れることで、着実な育成に取り組んでいきたい」と話します。また、「候補者たちには、日本で働くことに満足して、充実した生活を送ってもらいたい。受入れ後、入居者、家族、職員たちの理解と協力のおかげでここまで来た。簡単なことではないが、引き続き覚悟をもって受入れや育成をすすめていきたい」と意欲を見せます。

取材先
名称
(社福)鵜足津福祉会 特別養護老人ホーム マイルドハート高円寺
概要
(社福)鵜足津福祉会 特別養護老人ホーム マイルドハート高円寺http://www.utazufukushikai.or.jp/koenji/
タグ
関連特設ページ