(社福)村山苑 第2ハトホーム・(社福)南風会 青梅学園
老朽化した施設の建替えをすすめている社会福祉施設の都有地を活用した代替施設への移転の取組み 
掲載日:2019年11月26日
2019年11月号 TOPICS

特養棟 施設概観

 

あらまし

  • 現在、都内の2つの社会福祉施設で、東京都福祉保健局の【都有地を活用した社会福祉施設の建替え促進事業(以下、「建替え促進事業」)】を活用した福祉施設の建替えがすすめられています。
    2つの施設の、代替施設への移転準備や移転後の事業スタートから軌道に乗せるまでの様子を紹介します。

 

【都有地を活用した社会福祉施設の建替え促進事業】とは

東京では福祉施設の老朽化がすすんでも、敷地が狭隘で地価が高く、現地での建替えや仮移転用地の確保が困難な状況にあります。東社協では「地域福祉推進に関する提言2013」の中で、大都市における施設建替えの困難性を明らかにして建替え時の仮移転用の共同利用施設の設置を提言しました。その後も、東社協の東京都高齢者福祉施設協議会では、大都市東京における施設建替えに関する諸課題を整理して、老朽化した施設の建替え促進のための検討を重ねているところです。

 

「建替え促進事業」とは、東京都が福祉施設の建替えを促進して安心安全な福祉サービスの質の向上を図ることを目的に、清瀬市内の都有地を活用して、特養用と障害者支援施設用の2種類の代替施設の建物を整備し、施設の建替え期間中に利用できるよう建物を貸し付けるものです。

 

特養用の代替施設は3階建て定員120名、1~3階の居室部分は全室がユニット型の居室になっています。利用期間は3年を超えない期間で、それ以降は別の福祉施設が建替えのための代替施設として利用します。同じ敷地には駐車場・駐輪場も用意されています。

 

ハトホームの建替えに向けた検討がスタート

 

右)社会福祉法人村山苑理事長 品川卓正さん
左)第2ハトホーム施設長 岡野雅和さん

 

社会福祉法人村山苑が運営するハトホームは、昭和46年に東村山市に開設した特養です。開設当初の建物は平屋1棟でしたが、平成9年に建物を増設し、南館・北館の2棟となり、180名の方が入居しています。開設当初からの南館はすでに48年以上が経ち、建物のいたるところで老朽化がすすみ、都度修繕等を重ねてきました。しかし、今後も修繕を重ねながら事業を継続し続けることは困難との判断に至り、平成28年に施設内に「南館建替え検討委員会」を設置して、施設の建替えを前提とした検討に入りました。

 

検討の中で「建替え促進事業」を知り、情報収集に努めてきました。老朽化した都内の社会福祉施設の建替えを困難にしている要因は、建替え期間中の仮移転用地の確保と代替施設の建築のためにかかる費用です。村山苑では、「建替え促進事業」の活用を前提とした建替えのための具体的な検討に入り、応募の手続きを経たのちに借受けが決定しました。

 

移転に向けた準備

 

【第2ハトホーム】ユニットのリビングの様子

 

借受け決定後は施設内に、移転の計画を立てるチーム、代替施設の入居者を決定するチーム、移転後のサービスを具体化させていくチームを作り、準備に入りました。

 

移転に向けた準備は、かつて移転を経験した社会福祉法人の話も参考にしました。また、必要な物品をどのように準備するか、代替施設に備え付けられている物品類はどのようなものなのか、何を持ち込むか、あるいは他の施設で不要になったものを譲りうけることは可能か、新規で何を手配するかなど、一つひとつ確認をしながらすすめました。

 

平成30年1月からは、利用者と家族の方たちに移転への理解を得るために説明会等を複数回行い、清瀬市の代替施設への移転の意向などの確認を取りました。当初、家族からは、環境が変わることでの本人の健康状態への不安、面会のしづらさ、かかりつけ医が変わることへの不安等、さまざまな懸念が出されました。これらの一つひとつの不安に対応するために、東京都や清瀬市等関係機関と調整を図って、家族の理解を得られるよう努力を重ねました。最終的には移転する入居者を決めるための意向調査を行い、この中で、「清瀬に移転してもよい」、「どちらでもよい」と回答した方たちを中心に88名の方に移転をしてもらうこととしました。

 

ハトホームは長年にわたり従来型の特養として運営してきました。代替施設はユニット型の定員120名規模の建物です。そこで88名の方たちが生活をすることになります。従来型とユニット型では職員の動きも大きく変わってきます。代替施設は、どこの施設が利用しても無理なく使えるように広く余裕のある設計となっており、当然、ハトホームとは間取りも違います。入浴・清拭・排泄等の支援のための備品や物品もこれまでとは違うものを使うこととなるため、職員にさまざまな戸惑いが生じることが想像されました。利用者の居室をどう割り振るか、ユニットをどのように使いこなしていくか、職員が施設見学を重ね、施設の図面を前にシミュレーションを繰り返し、不安を払しょくするための取組みをすすめました。

 

さらに、代替施設移転といえども、その間の利用者の住居は東村山市から清瀬市に移るため、住民票の異動が必要であることがわかりました。利用者一人ひとりの異動手続きを家族の理解を取り付けながら施設で行わなくてはならず、これにも対応できるよう準備をしました。

 

代替施設の職員確保

東村山市から清瀬市の代替施設に移転するにあたって最も大きな課題は、職員の確保でした。代替施設で働く職員は、常勤・非常勤・パートを含めて約50名になります。移転にあたって、職員の約4割が異動することとなりました。異動する正規職員の中には、これまでと違い自家用車やオートバイでの通勤に切替えたり、代替施設の近くに引っ越すことになった職員もいます。非正規職員の大半は、ハトホームの地元である東村山市に住所のある方です。当初、代替施設で働きたいという非正規職員はほとんどいませんでしたが、施設を見学してもらい、村山苑と代替施設間で朝晩の送迎車両を手配することで今では数名の方が異動し働いています。

 

移転後の生活とこれからの課題

今年9月に利用者の代替施設への移動が行なわれました。福祉車両10台を手配し、午前中だけで全員の移動が無事完了し、清瀬市の代替施設で、新たに「第2ハトホーム」の生活がスタートしました。当日のお昼は、全員が新しいユニットで昼食をとることができました。

 

第2ハトホーム施設長の岡野雅和さんは「代替施設移転後も、利用者支援の質が落ちることなく、サービスが提供され続けている。多くの利用者のみなさまは混乱もなく、これまで同様に穏やかな生活を送っている。むしろ今は、我々職員が新しい施設に戸惑っている状態。これから職員がこの施設に慣れてくれば、さまざまな場面で効率的な動きができるようになる。その時には、この施設で第2ハトホームとしてどのようなことができるのかをみんなで考えていきたい」と話します。

 

社会福祉法人村山苑事務局長の相原弘子さんは「建替え促進事業があったおかげで、建替えについて前向きに検討をすすめることができた。建替えの際の課題であった代替施設の用地確保と代替施設建設のための時間と経費が大幅に削減できて、安定した法人運営と新しい施設の充実のためにとても大きな効果があると実感している」と話します。

 

社会福祉法人村山苑理事長の品川卓正さんは「第2ハトホームは、代替施設での事業展開はこれから1年9か月だが、その間に清瀬市の特養として、例えば、大規模災害の際に地域の拠点として何ができるのか、どのような地域貢献ができるかを模索していきたい」と話します。

 

青梅学園の建替えと代替施設活用

 

[青梅学園]建て替え応援プロジェクトチラシ

 

青梅市内の住宅街にある社会福祉法人南風会青梅学園は、昭和39年設立の障害者支援施設(生活介護・施設入所支援)で、現在は知的障害の方たち40名が生活しています。昭和46年に施設の建替えを行い鉄筋の園舎となり、平成10年に増改築を行いながら、現在の建物で48年間事業運営がなされています。青梅学園では施設の老朽化を見越して、約10年前から園舎の建替えに関する検討をすすめていました。利用者の環境の変化による混乱を最小限にとどめるために、施設の近隣で仮設施設を建設するための敷地を確保することや、近隣で会社の寮など仮設施設に代用できそうな建物の空き情報を収集していました。そのようなときに都の「建替え促進事業」のことを知りました。東京都の設置した代替施設は青梅市内ではありませんでしたが、この事業を活用した建替えが、時間も費用も最も効率的であると判断し、代替施設の第一期利用(2019年~)の応募を前提とした建替え計画を作成しました。

 

利用者の家族へは、建替え計画の段階から説明会等で理解を得るよう努めたうえで「建替え促進事業」へ応募手続きを行い、借受けが決定しました。

 

障害者支援施設用の代替施設は3階建てで定員96名、1階に作業室と大きな食堂があり、2~3階は全室がユニット型の居室です。

 

利用者の安心安全の準備

取材日の10月初旬は、11月の移転に向けた準備の最中でした。

 

移転の準備を進めている社会福祉法人南風会事務長の大沼満美子さんが中心となって、青梅学園から代替施設へ運ぶ物品の振り分け、業者等との連絡調整や全体のスケジュール確認を行っていました。

 

移転の準備で最も優先しているのが、利用者の環境変化への影響をどのように減らしながら移転をすすめるかです。

 

常勤職員は、青梅市の敷地に残る通所サービスと法人本部の職員以外は、ほぼ全員が清瀬市での勤務に変更になります。非常勤職員とは面談を重ねて施設見学なども行ない、勤務時間の配慮や送迎等をすることで代替施設で働いてもらうこととなりました。これまで青梅学園で働いていた職員と同じ顔ぶれで代替施設へ移転することが、利用者にとって最も環境の変化への影響が少なくなるだろうとの判断です。

 

畳の部屋に3人一部屋で生活している青梅学園から、ユニット型の代替施設への移転も、利用者にとっては大きな変化になります。令和3年に完成予定の青梅市の施設敷地内に建てられる新たな建物は、ユニット型となることが決定しています。代替施設での生活の時間を、ユニット型の生活に慣れるための期間と考えて、当面は2人で一部屋を利用して、慣れてきたところを見計らって1人一部屋とすることを目標に支援していくことになりました。

 

大沼さんは、「96名定員の建物施設で40名の利用者が生活をする。今は何度も施設のなかを回って、利用者一人ひとりの日常の動線をイメージしながら危険な箇所がないかを探し出している。危険があれば安全確保のためにどのような対応が必要だろうかを考えて行動しているところ。また、代替施設といえども地域とのつながりは常に意識している。地域の方々に施設に来てもらったり、積極的に地域の集まりにつながっていけるようにしたい」と話します。

 

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今後、東京都では、板橋区にも特養用の代替施設を建設する計画があり、準備が進められています。また、世田谷区では、区が所有する施設・事業所の改修工事に伴う一時的な代替のための施設を用意して運用を始めています。
東社協の高齢者福祉施設協議会では、建替えのための諸課題を検討してマニュアルを作成し、都内法人・施設の建替え促進の検討に資する取組みをすすめているところです。

取材先
名称
(社福)村山苑 第2ハトホーム・(社福)南風会 青梅学園
概要
(社福)村山苑
https://www.murayamaen.or.jp/

(社福)南風会 青梅学園
http://nanpukai.or.jp/
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