福島県南相馬市/平成27年3月現在
市内の介護ニーズは増加しているものの…
福寿園では人材確保の努力を重ねて定員や介護サービスを維持してきました。しかし、26年7月からは定員の減にふみきらざるを得ませんでした。特別養護老人ホームの定員を80 人→ 75 人、ショートステイの定員を20 → 15 人に下げています。厳しい職員体制で事業を継続していくためにやむをえない決断でした。
南相馬市では介護従事者の確保が難しいため、事業を休止したり震災以降に事業を継続している事業所も定員を減らしたり新規者を受入れないなどの対応をしている事業所が多くなっています。
南相馬市内の介護サービス事業所(平成24 年11 月末時点)
南相馬市の高齢化率は震災前に26.0%でしたが、震災後は27.8%となっています。しかし、市外に避難せずに市内に残って居住している人口に限ってみると、高齢者人口の割合は32.6%と極めて高い割合になります。仮設住宅ではサロン活動等が取組まれていますが、閉ざされたところでの長期の避難生活によって身体機能の低下、廃用症候群、認知症の進行から要介護、要支援を必要とする方々が急激に増加しています。
介護ニーズが増加する一方で、介護サービスの供給が低下してしまっています。福寿園では震災前に特養待機者が250 人でしたが、490 人に膨れ上がりました。市内ではデイサービス、サービス付き高齢者住宅、老人保健施設、特別養護老人ホーム、認知症グループホームの増設もすすめられていますが、介護従事者が確保できないため、活用が十分にできない状況がみられます。
県外の介護職員からの応援を得て…
福島県社協による相双地域等介護職員応援事業による支援を得て、福寿園では平成24 年6月から24年度は神奈川県、群馬県、千葉県、埼玉県の10法人22施設から37人の介護職員、25 年度は静岡県、山梨県、新潟県、長野県の41法人49施設から52人の介護職員の応援を受けました。26年度は4月9日~7月1日に東京都の11 法人11 施設から24人、7月1日~9月30 日に静岡県の5法人9施設から20人の応援を受けています。
震災後、原発から20㎞圏内の警戒区域が設定された地域から避難してきた高齢者には仮設住宅や借上げアパートでの在宅生活が困難になる人が多かったため、そうした避難者に入所の優先順位に「被災地加点」を付けました。そのため、震災前よりも要介護度が低い入所者が増え、むしろ動けるということから転倒リスクが高まり、介護職員が減った一方で見守りがより一層求められるようになりました。そうした状況もあったので、経験ある介護職員の全国からの応援はありがたいものとなっています。1期(2週間)に2人の応援職員には従来型施設を4つのエリアに分けた中のエリアにそれぞれ入ってもらい、「入浴」「排泄」「間接業務」を中心に担ってもらっています。これらは必ず法人の職員が隣にいる環境で行っています。
応援職員は、引き継ぎを応援職員同士で2時間半行い、初日は副施設長の末永さんのオリエンテーションの後、各エリアで職員から説明を受けて応援に入ります。「都度、聞いてください」というスタンスをとっています。これまでに一度だけ転倒させてしまったことはありますが、特に大きな事故は起きていません。派遣期間中の早い時期に1日をかけ施設長の大内さんが被災地である市内外に応援職員を連れて出て案内します。大内さんは「来てもらえるだけでも感謝。半分は助けてもらい、半分は何かを持って帰ってもらいたいという気持ちで受け入れている。被災地を案内することで、自分たちが取組んできたことを話し、イメージを形にしてもらっている。それが2週間を過ごすモチベーションになっていると思う」と話します。
第6期に応援に入った東京都内の社会福祉法人泉陽会第二光陽苑の高橋浩さんは「一言でいうと、本当に来てよかった。来るまでは被災地を本当にはわかっていなかったなと感じた」と話します。高橋さんは東京から折り畳み自転車を持ってきており、その自転車で空いた時間に市内を自分でも回りました。そこで撮った写真を自分の担当するエリアの入所者にも見せて感じたことを話し、入所者との交流も図っていました。
各期の応援職員さんをボードで紹介
応援職員の高橋浩さん
平屋でユニットケアの施設内は広く長い構造
左 :大内敏文さん(福寿園施設長)
中央:末永千津子さん(福寿園副施設長)
右 :阿部雅志さん(福寿園主任介護職員)
都市部で働く介護職員が応援に来て一番とまどうのは、都市部には少ない平屋の広い平面の施設構造です。都市部の施設の1フロアが狭い構造と異なり、目を届かせなければならない範囲がどうしても広くなります。そうした中、福寿園主任介護職員の阿部雅志さんは「最初はとまどうと思うが、1週間もすれば皆さん、慣れてきている。応援職員は同じチームの一員と思っている。知らない環境で知らない利用者に2週間関わるということは、目と感覚で感じてケアするということであり、情報ありきではないケアを実践すること。利用者とのコミュニケーションも『知ろう』という気持ちで一生懸命、利用者の話を聴こうとする。大変なことだけれど、非常に有意義だと思う。また、受入れる側にとっても、職員の伝える力をつける機会になっている。人材確保が厳しい中、当然、未経験の職員を採用してその職員に説明していかなければならないので、そのことに大変役に立っている。また、県外の介護職員から情報を得るよい機会ともなっている」と話します。
2週間という期間については、阿部さんは「受入れる側、応援する側によって精神的な緊張を持続させるにはちょうどよい期間だと思う」と話します。受入れることを「負担」と考えず、積極的に受入れることで応援を力に変えている姿がそこにはあります。
県社協による施設支援と抜本的な人材確保方策
大内さんは「一法人だけではでききれない。広域的に音頭を取ってくれた福島県社協が応援職員の派遣のしくみづくりに動いてくれたことは非常に大きい」と話します。さらに、「大きな災害では、行政もなかなか動きがとれず、施設の支援にまで手が回らなくなる。そうしたことから県内でも老人福祉施設同士の相互応援協定(80頁以降に紹介)を作ったが、何が必要とされているかの情報を吸い上げて、それに対する支援を呼びかける県社協の役割は大きいと話します。
また、大内さんは「市町村社協の災害ボランティアセンターに市外からボランティアが集まってくる中、それが施設支援になかなか結び付かないのも課題。そういった支援をコーディネートする機能が必要になってくるだろう」と指摘しました。
各施設が懸命にそれぞれ介護人材の確保に努力している中、応援を得ることで長期にわたり頑張りつづけている職員のささやかな力となっていますが、応援職員は法人と雇用関係があるわけではないので、応援を得ていてもそれを配置基準上の定数にカウントできる訳ではありません。介護人材の確保に対する抜本的な解決をすすめていくことが増大するニーズに応えるためにも大きな課題となっています。
特別養護老人ホーム福寿園
(福島県南相馬市)
http://minamisomafukushikai.or.jp/