(社福)奉優会「港区立特別養護老人ホーム 白金の森」「中央区立特別養護老人ホーム マイホームはるみ」
広がる外国人材の受入れ(3) 現場の中核を担う外国人職員の活躍 (社会福祉法人奉優会「港区立特別養護老人ホーム 白金の森」「中央区立特別養護老人ホーム マイホームはるみ」)
掲載日:2019年12月17日
2019年12月号 連載

社会福祉法人奉優会で働くお二人
右)中央区立特別養護老人ホーム マイホームはるみ
サービス課(介護2課)課長 クルニアティ プトゥ インテンさん
左)港区立特別養護老人ホーム 白金の森
サービス課(介護2課)主任 スパデミ ニ プトゥさん

 

あらまし

  • 福祉人材の確保・育成・定着に向けたさまざまな取組みの一つとして、福祉施設や事業所では、福祉を学んだ新卒学生だけでなく、未経験者や主婦層、高齢者、外国人など多様な人材に対し、採用や育成・定着のためのさまざまな工夫やアプローチを行っています。多様な背景を持つ人たちが、福祉の仕事に関わるきっかけや働く環境をつくるための取組みや工夫等を取り上げます。

 

能力がある海外の方に仕事やチャンスを与える目的で受入れ

国の受入れ制度が導入、拡大されてきたことに伴い、外国人を職員として受け入れる介護施設が増加しています。施設が外国人職員を受け入れる理由や期待する効果は「人材不足への対応」だけではありません。

 

奉優会は、都内を中心に高齢福祉関係の事業等を幅広く展開しています。法人自体が「女性の仕事と社会的地位向上」を目的のもと設立されたこともあり、多様な働き方を認め、理解しあえる環境づくりに向けてさまざまな取組みをすすめてきました。

 

そして、「能力があっても仕事やチャンスが与えられない海外の女性等にも支援したい」との思いから、平成25年度にEPA※の介護福祉士候補者を、平成30年度には技能実習生※の受入れを開始しました。また、諸外国での高齢化問題や、法人で働く外国人介護職の帰国後の活躍の場の提供を鑑みた事業展開の可能性も視野に入れています。

 

※各受入れ制度の詳細については、本誌9月号「社会福祉NOW」および10月号11月号「連載」を参照。

 

EPA介護職員の11人が介護福祉士国家試験に合格し在留資格を取得

奉優会には法人全体で約1千900人の職員が在籍し、そのうち97人が外国人です。出身国別での内訳は、インドネシア73人、ベトナム14人、タイ9人、フィリピン1人です。

 

このうち現在介護職員として働く方は92人で、受入れ制度別内訳はEPA68人、技能実習が24人です。68人のEPA介護職員の中には、来日後、所定の研修期間や介護施設で働きながらの学習期間(3年以上)を経て、介護福祉士国家試験に合格した職員が11人います。また、EPAで来日し国家資格を取得した看護師も5人います。そうした方々が、すでに現場のリーダーや他の職員から頼られる存在として活躍しています。

 

奉優会では、法人の管理本部と現場責任者とが一体的に外国人職員の採用から育成、定着までをサポートしています。そのため必ず現地に行って希望者に会い、人柄を重視した採用を行っています。

 

EPAの方へは、マッチング後、部屋を用意し、家財道具や生活用品、食品等、直ぐに生活できる環境を整えて迎え入れ、各種手続きもサポートします。4月には日本人の新入職員とともに入職式や2週間の導入研修を行い、同期の仲間づくりをすすめます。そして、配属される施設間での共通認識と働きやすい職場環境の整備に努めており、ルールや指導内容等のばらつきが生まれないようにしています。また、定期的に講師を招いた日本語学習を行い、学習面を継続的に支えるほか、病気や結婚、妊娠・出産、その後の暮らし等、外国人職員の生活や人生のさまざまな場面でのサポートもしています。

 

奉優会の理事で管理本部長の田島香代さんは、全ての外国人職員の採用、育成に関わっています。「彼らはコミュニケーション力が高く気遣いも素晴らしい。わからないことは率直に聞いてくれる。外国人職員がいることで、日本人職員やご利用者への相乗効果は高く、今や彼らなしには施設運営は考えられない」と言います。

 

同法人の施設の一つである「港区立特別養護老人ホーム 白金の森(以下、「白金の森」)」の副施設長である成田寛一郎さんは「ご利用者もそのご家族も、彼らが常に笑顔で仕事にあたる姿勢を評価してくれている。温かい人柄に加え、EPAの方々は自国で看護師等の資格を取得していることもあり、日本の若者には難しい『待つ』などの高度な介護ができる。サービスへの苦情は一件もない」と言います。また「受入当初の日本人職員は、他国の文化や宗教へのなじみが薄く、制度上のルールも十分浸透していなかったため、多少の戸惑いが見られた。しかし現在では、理解がすすみ互いに補い合い、支え合っている」と話します。

 

今回は、同法人で働くインドネシア出身のお二人にお話を伺いました。

 

「介護の仕事はすべて楽しい」

スパデミ ニ プトゥさんは、平成26年度にEPAの7期生として来日しました。法人の受入れ開始2年目に受け入れた職員です。現地で看護大学を卒業し看護師として働いていましたが、給料の高い海外で働きたいと思ったことがきっかけで、インターネットで知った日本のEPAの制度に興味を持ちました。「日本語が全くできなかったので、職場が決まらないかもしれないと思っていた。運良くマッチングされた奉優会で働けてよかった」と言います。

 

スパデミさんは、白金の森で働きながら日本語と介護の勉強をし、初めて受験した平成29年度の国家試験に合格し、介護福祉士になりました。真面目な性格で、仕事から帰ったら少しでも勉強の時間をとり、休日はほとんど出かけず勉強に充て、試験に臨みました。「初めは職員やご利用者のみなさんの日本語が速すぎて聞き取れず、大変だった。でも一対一で日本語の外部講師をつけてくれたり、勉強用のパソコンを支給してもらったりと、法人にたくさんサポートをしてもらった」と言います。

 

スパデミさんは現在、白金の森で介護職員の主任として働いています。周りの職員からもご利用者からも慕われる存在です。

 

介護福祉士国家資格取得により、家族を日本に呼び寄せられるようになったため、同郷の夫と結婚し、夫婦で暮らしています。また現在妊娠中で、今後、産休と育休を取得し、その後は法人が運営する保育園を利用し復帰する予定です。「仕事はすべて楽しい。ご利用者には認知症の方が多いが、私が休むと『いなかったね』と声をかけてくれる。とても優しい方たちで、職員である私のことを『体に気をつけなさい』と逆に気遣ってくれる」と言います。「これからは夫婦で子どもを育てながら楽しく仕事を続けたい」とスパデミさんは話します。

 

15人をまとめる介護課長として

クルニアティ プトゥ インテンさんは、奉優会の「中央区立特別養護老人ホーム マイホームはるみ(以下、「マイホームはるみ」)」に平成28年度に介護福祉士として入職しました。主任職を経て、今年度から介護2課の介護課長として日本人やインドネシア人等15人をまとめ、働いています。女性の管理職率が高い同法人ですが、クルニアティさんは初めての外国人の管理職でもあります。

 

クルニアティさんは「自分の祖母やお年寄りが大好きで、母国では看護師として働いていたが、日本で認知症のケアを学びたいと思い、EPAに応募した」と言います。平成22年度のEPA3期生として来日し、関西地方にある別の法人の施設に勤め、3年後の試験に合格し、介護福祉士国家資格を取得しました。

 

東京の施設へ転職したのは、結婚して日本に呼び寄せる夫のことを考えたからでした。自身が標準語と方言との違いで日本語の習得に苦労した経験から、夫が最初から標準語に触れられ、働き先の選択肢が多く、さまざまな場所へのアクセスがよい、首都圏での転職先を探しました。

 

奉優会へは、クルニアティさんが、同じ大学の後輩であるスパデミさんとSNSでつながったことがきっかけで、入職しました。

 

スパデミさんは、勉強の際は励まし、料理をつくってくれるクルニアティさんを「お姉さん」と慕っています。また、田島さんはクルニアティさんを「ご利用者へも職員へも、それぞれの人にあわせたアプローチや配慮ができ、自分の介護観をしっかり持っている。日本人職員の報告書の指導もできるほど日本語も堪能で大変優秀な人材」と評価しています。その能力を買われ、インドネシアでの現地採用説明会に同行したり、法人内で働くインドネシア人職員を集めた介護研修で講師を務めるなど、後輩の育成にも携わっています。

 

介護の楽しさを現場から発信したい

クルニアティさんは、今後について「課長としての業務をしっかり学んでいきたい」と言います。

 

また、福祉人材の確保難の状況については「外国人の私たちは日本語を学びながら仕事についているが、言葉の心配がない日本人にもぜひ介護現場で働いてほしい。日本の文化など、日本人に教えてもらわなければわからないこともある。このままでは介護者は外国人ばかりになる可能性もある」「日本人の介護の仕事に対するイメージはよくないようだが、介護の楽しさを伝えるよう、現場からしっかり発信してきたい」と危機感をもって話してくれました。

 

田島さんは「遠い国から来日し、頑張る彼女たちが高い志や夢を持ちいつまでも活躍できるよう、これからも最大限サポートする」と話します。

 

現場の中核を担う外国人職員は、今後も増えていくと考えられます。

取材先
名称
(社福)奉優会「港区立特別養護老人ホーム 白金の森」「中央区立特別養護老人ホーム マイホームはるみ」
概要
(社福)奉優会
https://www.foryou.or.jp/
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