地域福祉権利擁護事業 事業開始から20年~本人の自己決定を尊重す
掲載日:2020年1月14日
2020年1月号 社会福祉NOW

あらまし

  • 地域福祉権利擁護事業(以下、地権事業)は、平成12年の社会福祉基礎構造改革に伴い、福祉の制度が「措置」から介護保険をはじめとした「契約」へと移行する際に、認知症や障害等により一人では判断することが難しい方の権利を擁護するために平成11年に誕生した事業です。事業開始から20年が経過し、都内の契約件数は事業開始当初の平成13年度に比べて約12倍に増加しました。この間、平成26年の障害者権利条約の批准や、平成28年の成年後見制度利用促進法の施行など、本事業を取り巻く環境は大きく変化してきています。
    地権事業は事業開始以来、本人の自己決定とそのための支援を重視しながら日常生活を支えてきました。20年を経た今、改めて本事業の意義と役割を見つめ直します。
  • (平成19年に国は国庫補助事業の名称を「日常生活自立支援事業」に変更していますが、東京では事業創設の趣旨を大切にするため、「地域福祉権利擁護事業」の名称を使用しています)

 

地権事業の概要

地権事業は、認知症、知的障害、精神障害等判断能力が十分でないことにより、自身では福祉サービスの利用契約や日常的な金銭管理等を適切に行うことが難しい方を対象に、地域で安心して暮らせるように支援する事業です。実施主体は各都道府県の社会福祉協議会(以下、社協)で、そこから委託を受けて事業を行う区市町村社協等と利用者本人との契約に基づき、支援が行われます。

 

具体的な支援としては、福祉サービスの利用援助をベースに、これに付随する日常的な金銭管理、重要書類等の預かり、日常の事務手続き等の支援を本人のニーズに応じて組み合わせて行います。社協等の職員である「専門員」と、本人と同じ地域の住民で社協等と雇用契約を結んだ「生活支援員」が役割分担しながら本人を支えます。実際の支援は生活支援員が担い、専門員は支援や関係者の調整等、コーディネートする役割を担います。地域住民が生活支援員として地権事業に参加することにより、本人の安心感や地域とのつながりの強化につながっています。

 

地権事業の特徴

地権事業の特徴の一つに、判断能力が十分でない人との契約により支援することが挙げられます。判断能力が十分でない人の中には、福祉サービスの利用契約の内容が十分理解できていなかったり、詐欺や悪質商法等の被害に遭ったりなど、本人にとって不利益な状況となっている場合があります。地権事業では、本人に合わせた情報提供等を行うことにより、本人の意思決定や権利行使を支えます。また、定期的に本人宅を訪問することで、顕在化している課題だけでなく、本人の心身や生活状況の変化を察知し、消費者被害等の権利侵害を予防する機能も期待されています。

 

その他にも、全国にある区市町村社協が中心となり、事業が展開されていることが挙げられます。社協は、潜在しがちな地域のニーズを拾い上げ、インフォーマルなサービスにつなげる、本人を支える地域の支援システムをつくる等、地域福祉の視点を持って日々の業務にあたっています。地権事業の利用者の中には、地域の中で孤立していたり、さまざまな生活課題を抱えている人もいます。社協が地権事業を担っていることから、地域の資源と本人をつなげ、地域福祉の視点を持って本人を支えることが期待されます。

 

このように地権事業は日常の手続きや金銭管理の支援により、本人の生活を支える形をとりつつ、判断能力の不十分な人の自己決定の尊重と権利擁護(エンパワメントとアドボカシー)を図る事業と言えます。

 

地域福祉権利擁護事業 都内実利用者数の推移(独自事業(※)含む)

(※)独自事業とは、判断能力の低下のない身体障害者等を対象に、地権事業と同様のサービスを実施している区市町村独自事業のことを指します。

 

地権事業の視点と事例

〈事例:80代女性〉(一部加工しています)

地域包括支援センターから「消費者被害にあっている方がいる。どう対応したら良いか一緒に考えてほしい」と社協に相談がありました。本人は判断能力の低下が見られたものの「脅迫まがいに商品を買わされてしまい、悔しい思いをした」と感じていました。専門員は弁護士につなげる等の対応を行い、その後、本人と地権事業の契約をしました。各種手続きや生活費の払戻しを手伝いながら、福祉サービス利用状況の見守り等を行っています。

 

支援を続けるなかで、本人は若い頃から仕事に打ち込んでいたため、自治会に加入していないなど、地域とあまり関わりがないことが分かりました。一方で、昔から本人と付き合いのあった地域の美容院や惣菜店との関係は本人が高齢になっても続いていました。本人宅を訪問するうちに、冷蔵庫に一人では食べきれない量の惣菜が残っていることや、美容院に行く頻度の高さに気づいた生活支援員は専門員に報告しました。専門員は本人の状況や生活の変化をふまえつつ、もともとある関係が途切れないよう、本人との間に入り、惣菜店や美容院にも協力して見守ってもらうよう支援しています。その後、本人の了解のもと自治会の会長と相談したことで、自治会加入につながり、本人に新たなつながりができました。

 

人と人をつなぐ

事例を担当している東大和市社協「あんしん東大和」専門員 佐藤香さんは「地権事業の支援を通してその人がどんな生活をしてきたのか見えてくるが、本人の意思がどこにあるのかはこの事業だけで判断しない方が良いと考えている。相談は何でも受けるスタンスでいるものの、地権事業だけで解決しようとせず、『今困っている』と本人が発信したことだけでなく、その奥にある潜在的なニーズをキャッチし、さまざまな資源につなげていくことが大事だと考える。それこそが福祉サービス利用援助であると思う」と言います。

 

また、専門員の桜井励子さんは関係機関との連携について「本人の思いを叶えるために支援者や地域、親族など関係する人に、本人との関係を保ってもらいつつ、一緒に支援にあたることができるよう働きかけている」と語ります。

 

「本人との関係やお金のやりくりなど、地権事業の支援は前進したり、時には壁にあたり後退したり、形を変えながらすすんでいくもの。本人には『失敗しても良い』と伝え、寄り添いながら見守っていきたい。人が人を支える事業だからこそ、今までつながっていた人も、これまでつながりがなかった人も含めて、何らかの形で人と人をつなげていく役割がこの事業にはあると思う」と佐藤さんは語ります。

 

権利侵害からの回復・予防はもちろんのこと、安心・安全な生活を営むという人として当たり前の権利が守られるようにさまざまな支援を行っています。

 

成年後見制度との連携

平成28年に成年後見制度利用促進法が施行、平成29年には同法を受け成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定されました。地権事業と成年後見制度は、ともに判断能力の不十分な方の権利を守るため「車の両輪」とされてきました。その中で、地権事業は利用者の契約能力が疑わしくなったり、日常生活の範囲を超える重要な法律行為が必要となった場合等には成年後見制度につなぐ等、権利擁護支援の入口の役割も果たしてきました。都内では、地権事業を終了・解約したケースのうち、およそ3分の1が成年後見制度につながっています。

 

今後は双方の制度の特性を生かし、本人にとって貴重な選択肢として両制度の連携を深めつつ、それぞれ充実していくことが期待されます。

取材先
概要
(社福)東京都社会福祉協議会
「地域福祉権利擁護事業(福祉サービス利用援助事業)/成年後見制度活用促進の支援」のページ
https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/kenriyougo.html

(社福)東村山市社会福祉協議会「あんしん東大和」
https://www.higashiyamatoshakyou.or.jp/business-summary/adult-guardianship/welfare-services-comprehensive-support.html
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