(社福)東京都社会福祉協議会、(社福)江戸川区社会福祉協議会
自ら望んで利用したいと思える成年後見制度へ ~「新たな選任・利用支援のしくみ」~
掲載日:2020年3月31日
2020年3月号 NOW

 

あらまし

  • 東社協では、成年後見制度利用促進法および同基本計画をふまえ、昨年度「成年後見制度と地域福祉権利擁護事業の今後のあり方検討会」を設置し、東京における成年後見制度の推進に関する新たな取組みについて、東京家庭裁判所および東京都とも協議を重ねて検討しました。その結果を「地域と家庭裁判所の連携による成年後見制度の新たな選任・利用支援のしくみ」としてまとめ、都内各地域での実践を提起しています。
    今号では、そのしくみと実践について紹介します。

 

成年後見制度利用促進法の流れ

成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害等により判断・意思決定する力が十分でない方たちの生活や財産等の権利を守り、自己決定を支援するための制度として平成12年に始まりましたが、未だ十分に利用されているとは言い難い状況にあります。その背景には、制度があることは知られているものの、財産管理のイメージが強く、意思決定支援や身上保護の面で必ずしも十分に権利擁護が図られる制度とはいえず、自ら望んで利用したいと思う制度になっていないことがあげられます。それは利用者の類型内訳にも表れています。成年後見制度を利用している方は毎年微増しているものの、その内訳にはほとんど変化が無く、およそ8割が後見類型で、補助、保佐類型や任意後見制度の利用者はあわせて2割程度です。本来であれば判断能力が比較的保たれている補助や保佐類型についても必要に応じて利用されることが望まれますが、社会生活上、大きな支障を生じない限り、制度利用につながっていません。また、不正防止などの観点から、弁護士や司法書士、社会福祉士等の第三者が後見人(以下、第三者後見人)として選任される比率は増加し、平成30年には親族が後見人(以下、親族後見人)として選任される比率が23・2%に対して第三者後見人の選任される比率は76・8%と全体の4分の3を占めるまでに差が広がるなか、本人や親族が第三者後見人とやり取りのうまくいかないケースも出ています。

 

このような状況を踏まえ、国では平成29年3月「成年後見制度利用促進基本計画(以下、基本計画)」を閣議決定し、「利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善」や「権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり」、「財産管理のみならず、意思決定支援・身上保護も重視した適切な後見人の選任・交代の実現」などが示され、令和3年度までの5か年計画で一層の利用促進に向けた取組みが目指されています。

 

「新たな選任・利用支援のしくみ」

国に先んじて東京においては成年後見制度の利用促進のための取組みとして、平成17年度より東京都が創設した「成年後見活用あんしん生活創造事業」により、 これまで51区市町(令和2年1月現在)に「成年後見制度推進機関(以下、推進機関)」が設置されています。そして、権利侵害を受けていたり、頼りになる親族がいなかったりするなど、公的な支援の必要性が大きいケースを中心に、申立支援の強化や法人後見、社会貢献型後見(市民後見)の促進等、いわばセーフティネットの強化が図られてきました。一方で、親族が後見人候補者となる場合の申立て支援や、親族後見人のサポートは必ずしも充実しているとは言い難い状況があります。

 

こうした状況をふまえ、東社協では、東京都、東京家庭裁判所(以下、家裁)及び三士会(弁護士会、司法書士会、社会福祉士会)と協議を重ねる一方で、昨年度、学識経験者や社会福祉協議会(以下、社協)職員等で構成する「成年後見制度と地域福祉権利擁護事業の今後のあり方検討会」を設置・検討しました。区市町村、区市町村社協、家族会等の当事者団体等からも意見を聞き、東京において、利用者が利用しやすくメリットを実感できるとともに、真に権利擁護が図られる成年後見制度の推進のあり方や地域福祉権利擁護事業(以下、地権事業)とのさらなる連携の推進に向け、目指すべき方向と取組み方策を明らかにすることが目的です。

 

この検討会では、今後、家裁と地域が密接に連携することと、地域においては区市町村、中核機関(※1)と成年後見制度に関係する専門職の連携・協働体制を確立することの重要性が確認されました。そして「適切な意思決定支援」や「きめ細かな身上保護」を重視した後見業務の実現のために「本人や本人を支える親族等の納得と合意による適切な後見人等(後見人、保佐人、補助人を含む。以下、後見人)」が親族や第三者問わず選任されるよう支援するとともに、選任前から選任後までの連続性を重視した後見人支援を行うことを目的に「地域と家庭裁判所の連携による成年後見制度の新たな選任・利用支援のしくみ(以下、新たなしくみ)」を提起しました。これを実現するために、第三者を交えて専門的・多角的な見地から検討する「検討・支援会議」を中心に「後見(支援)基本方針シート(以下、基本方針シート)」を作成します。このシートを家裁への申立て書類とともに提出することで、本人の生活状況や申立てに至る経過等を家裁と共有し、最も適切な後見人の選任と、その後の一貫した後見人支援につなげることを提起しています。

「地域と家庭裁判所の連携による成年後見制度の新たな選任・利用支援のしくみ」イメージ図

 

推進機関は、これまで頼れる身寄りがない人に対して、第三者後見人や法人後見等に適切につなげてきており、その取組みには今後も力を入れる必要があります。一方で、今後、成年後見制度がメリットを実感できる制度となるためには、親族が後見人になることを希望するケースでその選任に特に問題がないと考えられる場合には親族後見人として選任されるようサポートするとともに、さまざまな事情から第三者後見人が望ましいと判断される場合には、そのことを本人や親族に理解してもらい、納得と合意を得られる形で候補者の紹介等のサポートを丁寧に行うことが重要になります。

「新たなしくみ」による取組みでは、親族後見人を希望するケースに限らず、頼りになる身寄りがいない等によりはじめから第三者後見人が想定されるケースについても、有効に機能することを目指しています。

後見(支援)基本方針シート

 

*「新たな選任・利用支援のしくみ」の事業実施においては、東京都の「成年後見活用あんしん生活創造事業」における「成年後見制度推進機関(中核機関)への運営費補助」に、区市町村への補助対象として位置づけられています。

 

*地域福祉権利擁護事業、成年後見制度、「新たなしくみ」の詳細については、下記URLを参照
https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/kenriyougo.html

地域福祉権利擁護事業、成年後見制度については、福祉広報2020年1月号にも記事を掲載しています。

 

※1…成年後見制度利用促進基本計画において示された、権利擁護支援の地域連携ネットワークの中核となる機関のこと。(1)広報機能、(2)相談機能、(3)成年後見制度利用促進機能、(4)後見人支援機能の4つの機能を備えることが求められている。

 

利用してよかったと思えるように~江戸川区社会福祉協議会の実践

江戸川区社協では、利用者が成年後見制度の良さを実感できるよう「新たなしくみ」をベースとした取組みとして、今年度より「成年後見支援会議(以下、支援会議)」を設置して取り組んでいます。設置にあたっては、平成30年から、法人アドバイザーの弁護士(以下、アドバイザー)と司法書士の2名が関わり、試行的な実施を積み重ねてきました。江戸川区社協 安心生活センター主任主事の楠史子さんは、支援会議の設置がスムーズにすすんだ理由の1つとして「平成19年に推進機関として『安心生活センター』を立ち上げ、成年後見制度の申立てに関する業務を社協が受託し、一元的に実施してきた下地があったため、行政と連携を取りやすかった」と話します。

 

江戸川区社協 安心生活センターの皆さん

 

~「成年後見支援会議(支援会議)」とは~

支援会議では、権利擁護支援の方針や成年後見制度の申立ての可否、本人が抱える課題や対応策を検討します。委員はアドバイザーの他に、専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士)や各所管課の係長などの行政職員で構成され、ケースごとの検討内容を、基本方針シートをアレンジして作成した「成年後見支援会議協議シート」に記入し、成年後見申立て時の家裁への提出書類としてまとめています。後見人等候補者の検討も行い、具体的な候補者を記入することもあれば、優先順位をつけて複数の候補者を示すといった対応もとっています。支援会議を経て作成されるシートの情報は、本人の状況に加えて、後見人が担う業務範囲はどこかという点も含めて専門的・多角的な見地から検討されています。そのため、選任された後見人にとっても、自らの職務の内容が事前に把握できるなど大切な情報となっています。支援会議の検討内容は全て選任された後見人に渡しており、選任後の関わりにおいても活かされていくことが期待されています。実際、後見人等からは、知らなかった課題が選任後に判明して驚いたといったことが少なくなり、「必要な支援内容のイメージが付きやすい」といった声も寄せられています。

 

支援会議を実施したことにより「本人が複合的な生活課題を抱えている場合も、課題の整理、緊急性、支援内容や後見人等候補者の検討などを複数の視点で練り上げられるようになったことで、支援方針が明確になった」と楠さんは話します。以前は、アセスメントをすすめるなかで、課題としてあがっている事項に対するセンターと各関係機関の間での個別のやり取りしかなく、潜在的な課題等に対して包括的にカバーすることができないこともありました。

 

一例として「8050問題」への対応があげられました。Aさん(80代)に対する娘Bさん(50代)からの虐待があり、Aさんの成年後見申立てをすることとなった際、支援会議に取り組む前はAさんへの対応に焦点があたり、精神障害が疑われながらも適切な医療受診にはつながっていないというBさんが抱える課題は把握していたものの後回しになりがちでした。支援会議がなければBさんの抱える課題はさらに深刻化していたと思われます。しかし、支援会議を実施したことで、Aさんを取り巻く環境の1つとしてBさんが抱える課題にも焦点が当たるようになり、申立てにあたっては、まず世帯等を取り巻く課題への対策として支援体制が明確に実現され、包括的な取組みが機能することとなりました。支援会議の場に関係機関や専門職が一堂に会して情報共有することになったことで、多角的な視点におけるケースの理解が深まり、「当初は見えていなかった点も含め、本人の状況をハッキリと掴むことができるようになった」と言います。

 

~利用者が良さを実感できる制度へ~

江戸川区社協 安心生活センター所長の吉田悦子さんは「こうした取組みは、一朝一夕ではできなかった。各専門職とのパイプ役を担ってくれたアドバイザーや柱となって動いてくれた職員がいたことが実現に至った要因の1つとしてあげられる。また、センターの職員全員が地権事業と成年後見制度の両方に対応できるスキルを培ってきたことも大きかった」と話します。

 

「まだ始まったばかりの取組みだが、利用者が成年後見制度の良さを実感できる取組みへとつながるよう、1件1件を大切にして利用に向けた申立てを行い、選任後までの連続した支援を積み上げていくことの必要性を改めて感じている。継続することでこの取組みが広まり、生活の安心にもつながると思う」と語ります。

 

「新たなしくみ」による取組みは、地域と家裁、専門職が連携、協働することにより、本人の自己決定(意思決定支援)の尊重と身上保護を重視しつつ、最もふさわしい後見人の選任とその後の後見人支援の取組みを、単なるスローガンや訓示ではなく、具体的なシステムとして機能させるための制度運用をめざすものです。

 

今後、新たなしくみが普及し、軌道に乗ることにより、成年後見制度を必要とする人が、これまで以上に柔軟かつ積極的に利用できるようになることが期待されます。

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会、(社福)江戸川区社会福祉協議会
概要
(社福)東京都社会福祉協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/kenriyougo.html

(社福)江戸川区社会福祉協議会
http://www.edogawa-shakyo.jp/
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