(社福)調布市社会福祉協議会、(社福)八王子市社会福祉協議会
令和元年東日本台風(台風第19号)に対する 都内災害ボランティアセンターの動き
掲載日:2020年4月14日
2020年4月号 NOW

 

あらまし

  • 令和元年10月12~13日にかけて関東・東北地方を中心に通過した令和元年東日本台風(以下、台風第19号)は、東京都内にも浸水や土砂の流入、断水などの被害をもたらしました。災害ボランティアセンターは発災時に社協のボランティアセンターなどに状況に応じて設置されます。今回は台風第19号を受けて災害ボランティアセンターを立ち上げた調布市社協、八王子市社協の当時の動きと振り返りをご紹介します。

 

【調布市】災害VCの様子

普段のつながりを活かす

~調布市~
調布市では多摩川沿いの地域を中心に、計243世帯が浸水の被害にあいました。調布市社協では台風第19号が上陸する前日、社協本部のある総合福祉センターが福祉避難所としての開設検討、職員の安否確認連絡の対応などが行われました。「台風が通過する前後、市民の間ではSNSで多摩川の水位の状況や避難所の開設状況などの情報がリアルタイムに共有されていた。市民の方が緊迫感があることを感じた」と調布市社協職員で調布市市民活動支援センター(以下、センター)の葛岡敦さんは振り返ります。
 
台風が通過した13日の朝、普段関わりのある市民活動団体の人から「何か動く予定はあるか。今地域ではこうなっているよ。迎えに行くから一緒に現場に行こう」と葛岡さんのもとに写真と共に、多摩川沿いの住宅集合地が被災しているとの連絡が入りました。午後、葛岡さんが現場に赴き、その住宅集合地の管理組合 会長と話す中で、10世帯以下と想像していたニーズは約60世帯あると分かりました。葛岡さんは状況をセンター長に相談し、災害ボランティアセンター(以下、災害VC)開所に先行して、活動を始めることを決めました。
 
排水作業が終わったその日の夕方に会長から住宅集合地 全世帯へのボランティア依頼が正式に入りました。「後から分かったが、会長は全世帯のLINEグループをつくり、Googleのアンケート機能を利用してボランティアの希望の有無や片付ける家具の数などを聞いた上で、優先順位をつけてくださっていた」と葛岡さんは振り返ります。
 
並行して、葛岡さんはSNS発信に長けている「調布から!復興支援プロジェクト」のメンバーにボランティア募集要項の作成を依頼しました。「呼びかけるために必要な集合場所や時間、持ち物、注意事項など丁寧に文章を考える時間がない中で非常に助かった」と言います。その日の夜に「調布から!復興支援プロジェクト」のFacebookを通じて募集をかけたところ、翌日には地元の人を中心に43人のボランティアが集まりました。
 

つながりを意識して

葛岡さんは「せっかく日頃つながっている人がいるので、全てセンター職員だけでやらないようにした。普段災害に特化して活動している市民活動団体の方々でなくとも、市民活動、ボランティアをやっているからこそ、主体的に自分で考えて動いたり、コミュニケーションをとったりして活躍できたのだと思う。災害時の支援経験はあると助けになるが、経験者のみに依頼する必要はないと感じた」と話します。例えばボランティアを派遣するにあたり、グループごとにリーダーを決めた方が良いという市民団体からのアドバイスがあり、葛岡さんはセンター運営委員など日頃つながりのある人達にリーダーを依頼しました。同時に、了承してくれた人には「ほかに良い人がいたら声をかけてください」とお願いをしました。

 

翌14日は祝日で、雨が降っていたため、活動の中止も検討しましたが、「休みの日だからこそ市民が活躍できる」と活動を始めました。すると、その様子を見ていた隣の集合住宅の役員が、集会所を災害VCの本部として使うために開けてくれました。迅速な初動対応が、その後の正式な災害VCの設置につながりました。
 
災害VCの運営はセンター長、葛岡さん、被災地域近くにあるセンター支所職員の3人が交代で担当しました。その間のセンターの運営は職員と応援職員で行いました。
 
ボランティアに対しても柔軟に対応しました。ボランティアは、毎日約30~100名集まり、水につかった衣類や家財道具の運び出しや清掃等を行いました。ニーズが減り、ボランティアが増えた時には、集まったボランティアに対し、別のイベントへのボランティアを呼びかけました。「せっかく来てくれたボランティアさんのために災害以外にも活躍できる場所があると良いと思った」と言います。
 
【調布市】「まずは大人がやってみよう!多摩川クリーン作戦下見ウォーク」の様子
 

 

新たな市民活動につなげる

被災地域が限定的であったことから災害VCは、当初めざしていた通り、一週間で閉所しました。その後ニーズの受付はセンターで、ボランティアの活動拠点はセンター支所で行いました。災害ボランティアでは対応できないニーズを想定し、社協の地域福祉コーディネーター、生活支援コーディネーターもセンター支所に配置しました。
 
その後の市民活動として、多摩川のゴミ拾いが行われました。被害のあった別の地域の住民から「皆の憩いの場である多摩川の河川敷が傷んでいるため、クリーン作戦を行わないか」と提案がありました。葛岡さんは他地区でゴミ拾い活動をしている団体等に声をかけ、実行しました。また、写真洗浄のボランティア活動を週二回継続し、「調布SPV」として団体が立ち上がりました。
 
「今回、災害VCの様子をFacebookを通して発信するなど、SNSが役に立った。また、実際に被災住宅に入るボランティアだけでなく、災害VC運営に入ってもらうボランティアの重要性を感じた。いずれにしても市民の行動力に突き動かされて乗り切ることができた。普段のつながりが活かされた」と語ります。
 

 

災害時対応は日常の延長線上に

~八王子市~

八王子市では台風第19号により、市内の浅川、案内川の支流沿いの地域で浸水や土砂崩れなどが発生し、計1千71件の被害がありました。
 
八王子市社協では、平成26年から地域福祉コーディネーターや生活支援コーディネーターが常駐し、地域の課題を地域力で解決できるように、市民や関係団体を巻き込みながら、地域のつながりづくりや課題解決に向けた体制整備を支援する地域福祉推進拠点(以下、拠点)の整備をすすめています。令和2年3月1日現在、8か所設置されています。
 
台風通過後の13日、地域福祉推進拠点 浅川(以下、浅川拠点)の地域福祉コーディネーター 田中正治さんのもとには、住民でつくる浅川地区社会福祉協議会(以下、地区社協)から周辺地域で被害が出ていると連絡が入りました。
 
「今回は市内全域ではなく、局地的な被害だった。そのため、社協の中で災害対応をすることになっていたボランティアセンターには当初情報が入ってこなかった。しかし、拠点があり、日頃から地域とつながっていたからこそ、浅川地域では情報をいち早く掴み、素早く動くことができた。町会、民生児童委員の活動も活発で、被害把握にすぐに動いてくれたのも大きかった」と市民力支援課長の若林育男さんは振り返ります。
 
また、浅川拠点が入っている建物には市役所の支所である浅川事務所も入っており、事務所長の協力も得て、スムーズに動くことができました。その後、事務所長、社協、地域包括支援センター、民生児童委員、地区社協、町会等が集まり、臨時地域連携会議を開催し、状況を共有していきました。田中さんは「皆さん協力的だった。特に行政の事務所が併設していたので、その場で判断をすぐにしてくれたのが助かった。行政と地域がうまく連携することができたのが大きかった」と言います。
 
14日には社協のFacebookに被害状況等をアップし、15日から浅川拠点でボランティアの募集を開始しました。19日には正式に災害VCを立ち上げました。災害VCの運営については、近隣の南多摩ブロック(※)の社協から応援職員を派遣してもらったり、市民の協力を得て運営を行いました。
 
市民力支援課 主査の横内昭人さんは「八王子市社協では、以前から災害VCが立ち上がった時、社協職員のみでは運営が立ちいかないことを想定し、災害ボランティアリーダーを市民の中に養成していた。今回の台風を受け、応援要請をメールで一斉に呼びかけた。毎日来てくださる方もいて、彼らがいなければ運営は厳しかった」と語ります。
 
 

【八王子市】(左から)
支えあい推進課 地域福祉推進拠点開設・運営担当課長(取材当時) 井出勲さん
地域福祉推進拠点 浅川 地域福祉コーディネーター(取材当時) 田中正治さん
市民力支援課 主査 横内昭人さん
市民力支援課長(取材当時) 若林育男さん

 

社協の使命として市内の「共助」を育む

「ニーズ調査をしていた時、浸水後の家の後処理の仕方が分からないという声が聞かれた。八王子市社協としては対応経験がなかったが、外部団体の力を借りて、勉強会を開催することができた。いかに早く発信して、外部の人の手を借り、活用していくかが、被災者のその後の有効な支援につながると感じた」と災害VCの運営にあたった支えあい推進課 地域福祉推進拠点開設・運営担当課長の井出勲さんは語ります。
 
今後について「災害時の市内での協力体制を考えなければならない。水害は今回経験したが、一番怖いのは大地震が来た時。今回は南多摩ブロックの社協から応援職員を派遣してもらえたが、例えば直下型地震が来たらどこも自分のところで精一杯だろう」と若林さんは言います。井出さんも「今回、災害時対応は日常の延長線上にあるということが分かった。市内で完結できるような体制づくりをめざしていかないといけない」と危機感をにじませます。
 
そう感じるのは、1千700名超のボランティアの約75%が市外の方だったからです。市民のボランティアが少ないことに、町会も社協も危惧を感じていました。そこで、令和元年12月中旬から令和2年2月まで、啓発活動を兼ねて災害ボランティア活動写真展を被災地域を除いた市内で行いました。写真展と同時に今回の台風被害について市民にアンケートもとりました。すると、八王子市内で被災していた状況を知らなかった市民が約半数いたこと、ボランティア活動が行われていたことを知らなかった市民が約2/3いたことなどが分かりました。
 
【八王子市】被害の様子
 
八王子市社協ではこの実情をふまえて、市内の「共助」をさらに育んでいこうとしています。「いかに社協が地域の中に入っていけるか、地域とのつながりを強く持てるか、それに尽きると思う。災害に特化して、ということではなく、広い視野で日頃からつながっていることが大事だと思う。共助をつくる土台づくりにこれからも力を入れていきたい」と若林さんは語ります。
 
今回、課題として、同じく被害の大きかった恩方地域には拠点がなく、道路の通行止めもあり、直接情報が入って来にくく、被害全体の把握に時間がかかったことがあります。実際、地元住民からは「社協がボランティアのコーディネートをしているのは知らなかった」という声が聞かれています。この反省をふまえて、4月に恩方地区にも拠点を開設しました。「人口の多寡ではなく、各地区分け隔てなく、広げていくのが拠点の使命だと思う。その中で地域、行政、社協がうまく連携していければ今後似たようなことがあってもうまくやっていけるのではないか」と若林さんは語ります。
 
また、今回の災害時の気象庁、市、社協、町会、消防など各団体の動きを集計しています。「横でつながっていたら良かったところはどこかなどを振り返り、それぞれの活動をつないでいきたい」と田中さんは語ります。
 
「被災者と話して分かったのは、困っていても声を上げない方が多いということ。社協の役割はいかに声なき声を吸い上げて、会議等を通じて、行政などに伝えていくか。地域の専門家として判断が求められる」と井出さんは語ります。外部の手を上手に借りつつ、市内で協力し合える体制づくりをめざします。
 
(※)八王子市、日野市、多摩市、稲城市、町田市
 
【八王子市】13日午前、浅川地域にて地域住民に状況を確認している地域福祉コーディネーターの様子
取材先
名称
(社福)調布市社会福祉協議会、(社福)八王子市社会福祉協議会
概要
(社福)調布市社会福祉協議会
http://www.ccsw.or.jp/

(社福)八王子市社会福祉協議会
https://www.8-shakyo.or.jp/
タグ
関連特設ページ