(社福)東京都社会福祉協議会
生きづらさを抱え、孤立しがちな人を包摂し、共に支え合える地域社会のあり方について ~触法障害者等への支援の現状と課題より~
掲載日:2020年5月29日
2020年5月号 NOW

 

 

あらまし

  • 東京都社会福祉協議会では、幅広く、かつ東京の地域特性に根差した観点から、地域福祉の推進に必要な取組みや施策のあり方を検討し、提案することを目的として、地域福祉推進委員会の下にワーキングを設置しています。令和元年8月に設置されたワーキングでは「生きづらさを抱え、孤立しがちな人を包摂し、共に支え合える地域社会のあり方について」をテーマに、委員やゲストスピーカーによる各機関の取組みを報告していただき、それぞれの分野の現状と課題や今後への期待と取組みの方向性を整理してきました。今号では、その1つ「触法障害者等に対する支援の課題や取組み内容」についてお伝えします。

 

東社協地域福祉推進検討ワーキングの取組み

東社協地域福祉推進検討ワーキング(以下、「ワーキング」)では、平成29~30年度に「東京らしい”地域共生社会づくり”のあり方」を検討し、平成31年3月に、その内容を「最終まとめ」として提起しました(福祉広報2019年5月号No.725参照)。ここで提起したことを推進していくため、次のテーマを「生きづらさを抱え、孤立しがちな人を包摂し、共に支え合える地域社会のあり方について」とし、令和元年8月から新たなワーキングを立ち上げ、検討をすすめています。

 

新たなテーマ設定にあたっての基本的な視点は次のとおりです。

 

1 東京らしい地域共生社会づくりに向けて「東京モデル」(社会福祉法人の地域公益ネットワーク活動、民生児童委員協議会、地域福祉コーディネーターの協働による地域づくり)の具体化を含め、関係機関が密接に連携・協働する推進体制を検討することが必要である。

 

2 住民主体による地域づくりを推進する取組み(地域支援)を重視することに加え、孤立や排除、ひきこもり等、地域で生きづらさを抱える人々を住民や関係者が協働して支え、地域社会に包摂する取組み(個別支援)も重視し、相互の連携と相乗効果をめざすことが有効である。

 

3 右記の取組みを検討にするにあたっては、生活困窮者自立支援制度や住宅セーフティネット(居住支援)制度等、関連する施策の動向をふまえるとともに、都内の先駆的・開拓的な取組みに学ぶ視点を重視することが必要である。

 

令和元年度は、これらの視点のもと、関連する制度や取組みを通じて「生きづらさを抱えた方」の現状や課題を把握することを目的に、各分野の委員やゲストスピーカーによる報告を行ってきました。
ここでは、それらの報告の一つ「触法障害者等に対する支援の課題や取組み内容」についてお伝えします。ワーキングの委員である社会福祉法人武蔵野会理事長の高橋信夫さんの報告に加え、府中刑務所分類審議室福祉専門官の桑原行恵さんと特定非営利活動法人日本障害者協議会理事の赤平守さんをゲストスピーカーとしてお呼びし、それぞれの取組みや現状についてお話をしていただきました。

 

触法障害者等に対する支援の課題や取組み内容

〈触法障害者等の現状と課題〉

全国的に受刑者数は減少傾向にあるにもかかわらず、再犯者数は減っていません。そして、高齢者、障害者、疾患を抱えている受刑者は増えています。しかし、そういった受刑者の多くが、福祉の制度、サービスをよく理解しておらず、福祉的支援を拒否する人も見られます。支援者として関わってみると、もっと早くに福祉的支援につながっていればと思う受刑者は多いですが、中には障害者手帳を取っても就職しづらいなどマイナスにしかならない、福祉施設は自由がないと感じている人もいます。

 

軽微な犯罪を繰り返している再犯者の中には、子どもの頃からずっと障害を見過ごされてきた人もいます。家庭では虐待を受け、学校ではいじめを受け、学校にきちんと通っていない人も少なくありません。何度も挫折や失敗を繰り返しているため、自己肯定感や自分で立ち直ろうという意欲を失くし、諦めの意識が高くなってしまいます。貧困に陥ることも多く、犯罪の内容も万引きや無銭飲食など、所持金がないことが原因になっている場合が多く見られます。

 

このような犯罪を繰り返し、何度も裁判を受けているのに、障害があることを誰にも気づかれず、ただ、怠惰であるために犯罪を繰り返していると思われて、そのたびに刑罰を科されてしまいます。その結果、「どうしてこの人が刑務所にいるのか」と思われる人、社会から隔絶されることがかえってマイナスになると思われる人が刑務所にいるという状況を生み出しています。さらに、刑務所では、言われたことに従うのが模範的な良い受刑者とされているため、自分の意思や主体性を持ちにくい環境になっています。そのため、軽度の障害特性や課題が表に出づらく、ますます障害が見過ごされてしまうことがあります。

 

〈刑務所における福祉的支援〉

平成21年度から、全国的に刑務所に福祉専門官が配置され、出所後の生活を支えるための福祉的支援が行われるようになりました。福祉専門官は、支援が必要な受刑者の課題を分析し、所内外の各部署や機関との調整を行います。受刑者は、行政機関により住民票が職権消除(※)されている場合も多く、帰住先の住所の設定から支援することもあります。また、障害者手帳の取得や介護保険、年金などの手続きの支援もします。満期釈放者には、釈放の2~3か月前から社会保障制度等の福祉的支援に関する教育プログラムも実施しています。

 

支援の1つ「特別調整」では、後述する地域生活定着支援センター等の機関と連携して、出所後の福祉施設への入所や生活保護等の手続きを支援します。特別調整の対象者は、(1)高齢(おおむね65歳以上)または身体障害、知的障害もしくは精神障害があること、(2)釈放後の住居がないこと、(3)福祉サービス等を受ける必要があると認められること、(4)円滑な社会復帰のために特別調整の対象とすることが相当と認められること、(5)特別調整を希望していること、(6)個人情報の提供に同意していることの全てを満たす者となっています。多くの対象者が、これまで福祉の制度やサービス等につながっていないため、障害者手帳の有無は条件にしていません。特別調整による支援には時間がかかり、刑期満了から遡って6か月以上ないと調整が困難です。しかし、福祉専門官に話が回ってきた段階では、残りの期間が短い人も多く、その場合は「独自調整」を行います。独自調整では、帰住先の確保や福祉事務所との連絡調整を刑務所がダイレクトに行います。

 

刑務所内でも、福祉的な支援には本人の同意が必要ですが、対人不信感の強さや福祉的な支援を理解できないなどの理由で、同意が取れないケースも多いことが課題になっています。また、特別調整や独自調整の対象ではない人の中にも、支援が必要な人はいます。医療の対象でもなく、どの福祉分野でも対象にならないという、いわゆる制度の狭間に陥っている人も多く、どこにもつながらなかったために、最終的に刑務所に来ることになってしまったと思われる受刑者も少なくありません。そのような受刑者は、結局、出所後もつなぎ先が見当たらないという課題を抱えることになります。

 

〈刑務所出所後の支援〉

刑務所出所後に司法と福祉をつないで、出所者の地域での生活を支援するのが「地域生活定着支援センター(以下、センター)」です。センターで支援をするのは「特別調整」と「一般調整」の対象者です。「一般調整」とは、帰住先はあるものの、先に説明した特別調整の条件のうち、(1)高齢(おおむね65歳以上)または身体障害、知的障害もしくは精神障害があること、および(3)福祉サービス等を受ける必要があると認められることに該当する者とされています。センターの業務は、(1)刑務所出所後に必要な福祉サービスのニーズを確認し、施設等のあっせんや福祉サービスの利用申請の支援を行う「コーディネート業務」、(2)出所者を受け入れた施設へ必要な助言等を行う「フォローアップ業務」、(3)刑務所出所者の福祉サービスの利用に関して、本人または関係者からの相談に応じ、福祉的な支援が必要な出所者には、引き続き助言等を行う「相談支援業務」の3つからなります。

 

触法障害者等の刑務所出所後の支援の課題として、障害があるにも関わらず、本来入所することが望ましいと考えられる障害者支援施設に入所する出所者は少なく、更生保護施設や無料低額宿泊所など、一時的な入所施設につなげることが多いことがあげられます。福祉施設側の理解がなかなかすすまず、出所者を受け入れてくれる施設が増えないのが現状です。

 

一方で、積極的に触法障害者等の支援に取り組んでいる施設もあります。「社会福祉法人武蔵野会」では、平成21年頃から入所施設での触法障害者の受け入れを始め、平成25年度から、東京都の地域生活定着支援センターと連携して、出所してきた障害者の支援にあたっています。支援していく上でまず大切なことは「本人理解」にあります。しかし、入所してくる触法障害者の履歴は刑務所における履歴がほとんどで、それ以外の本人の歴史を知ることがとても難しいのが現状です。再犯防止だけを目的にした支援は、本人にとって心地よい居場所にはならず、また再犯をしてしまうことになりかねません。支援をしながら本人のことを理解するよう努め、信頼関係を構築していくことで、結果的に再犯防止につながります。

 

〈触法障害者等の支援に期待されること〉

再犯を繰り返す障害者には、刑務所出所時の出口支援とともに、裁判時などの入口支援も必要です。刑務所への入所回数が二桁に上る人もいて、刑を科すことだけでは再犯防止にならないことは明らかです。司法関係者に障害のことをもっと理解してもらい、再犯をしないために本当に必要な支援を考えることが重要です。

 

また、これまで、自分の人生を自分で選択する機会に恵まれなかった触法障害者等の意思決定支援はとても大切です。意思決定支援ができるようになるためには、まず、信頼関係を構築することが必要です。その前提として、支援者には、目の前の触法障害者がどのような状況下で生きてきたのか、その人の生活の歴史を知る努力をし、障害者であるとか犯罪者である前に、一人の人間として捉え、理解していくことが求められます。そして、失敗してもまたつながっていくことを繰り返し、本人が”自分で生きようとする力”をつけていける支援が必要とされています。

 

さらに、予防も含めて、専門職も関わった上で、いかに地域の理解を広げ、出所後の生活環境を整備していくかが大切です。しかし、触法障害者等の問題は、顕在化すると理解者とともに誤解する人、排除しようとする人も増えていくのも現実です。地域で触法障害者等を受け入れるためには、地域とつながり、地域と一緒に何ができるのか考えていくことが重要であり、地域の人が理解し、考える時間も必要です。

 

「生きづらさを抱えた方」の支援の方向性

令和元年度のワーキングでは、触法障害者等に関するテーマのほかに「ひきこもり」「不登校等」「8050等、複合課題のある世帯」「ひとり親家庭と母子生活支援施設」「社会的養護」についての報告を行いました。それぞれ、支援の対象者や関わっている機関は異なり、抱えている課題もさまざまですが、共通した方向性も見えており、いくつかキーワードをあげてみます。

 

(1)専門機関間の連携や機関同士の理解住民と同様に、専門職、専門機関も守備範囲を超えると、気になることがあってもつなぐ先が分からないということが課題になっています。専門機関がお互いの機能を十分に理解する機会や横につながるネットワークが必要です。そして、福祉関係機関同士だけではなく、教育機関や司法機関とのつながりも重要です。

 

(2)当事者の力を活かす例えば、ひきこもり状態にある方の支援では、専門職と、かつて当事者であったピアサポーターがチームで行うことが有効だと言われています。「生きづらさを抱えている方」の問題を社会化するためには、当事者や家族が発信し、実態を明らかにすることが必要であり、それが適切な解決への道しるべになります。

 

(3)地域の居場所とネットワーク地域には、ひきこもり状態や不登校の人でも、触法障害者でも、高齢者でもひとり親家庭の親子でも、誰でも受け入れてくれる安心できる居場所が必要です。専門職や専門機関はスポット的な関わりにならざるを得ません。隠れたニーズやリスクの芽に早く気づき、本人に寄り添い、状況を把握、発信するために、地域のネットワークで見守る体制が求められています。

 

(4)予防的な関わり
虐待等何か事が起きた後の支援も重要ですが、起きる前の予防的な関わりに力を入れることも重要です。なぜ「生きづらさを抱えた方」の虐待や犯罪等の深刻な問題を未然に防げなかったのかを検証し、予防として支援できることは何かを考えていくことが求められています。

 

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ワーキングでは引き続き、生活困窮者自立相談支援機関からの報告をはじめ、関連する制度や取組みを通じて「生きづらさを抱えた方」の現状や課題を把握し、検討をすすめます。そして主に「専門職ができること」と「地域のつながりによりできること」の2つの視点から整理をし、「生きづらさを抱え、孤立しがちな人を包摂し、共に支え合える地域社会のあり方」を提起する予定です。

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会
概要
東京都社会福祉協議会
東社協地域福祉推進委員会ワーキング
https://www.tcsw.tvac.or.jp/
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