伊藤祐子さん
オリヒメは、生きるためのテクノロジー
掲載日:2020年5月18日
2020年5月号 くらし今ひと

受付前で待機している様子

 

あらまし

  • 「OriHime(※)」(以下、オリヒメ)は、”距離も障害も昨日までの常識を乗り越える分身ロボット”としてさまざまな場面で活躍しています。
    オリヒメを介して在宅で仕事をしている伊藤祐子さんにお話を伺いました。

 

オリヒメに出会うまで

30年程前、交通事故に巻き込まれたことにより脊髄を損傷し、車椅子生活となりました。受傷当時、私の両親は”親が亡き後も一人で生きていけるように”とあえて厳しく私に接してくれていました。両親の後押しもあり、車椅子でも働ける場所を探しながら、ひとり暮らしを始めるようになりました。

 

その後、社会福祉法人での福祉用具レンタル・販売などの営業事務をはじめ、造船会社でのオペレーターや文字入力の仕事、結婚・出産を経てからは特別養護老人ホームでの受付事務などの仕事を経験してきました。家事・育児をしながらの1時間以上の電車通勤は体力的に限界がきてしまい、退職し今に至ります。

 

オリヒメとの出会い

退職してからは家事をして過ごすことが中心で、ほとんど自宅から出ることがなくなりました。「このまま年老いていくだけなのかも・・・」と何もかもを諦めていた時、テレビやインターネットでオリヒメの存在を知りました。オリヒメを操作するパイロットがカフェ店員となって注文をとったり、お客さんとコミュニケーションをとっている姿を見て、”やってみたいと思っていたカフェの店員が私にもできるかもしれない”と期待が高まり、オリヒメのパイロットに応募しました。

 

社会の中に自分の居場所ができ、コンプレックスが払拭された

念願叶ってオリヒメのパイロットに採用されてからは、生活が一変しました。在宅で過ごしていることに変わりはありませんが、社会との繋がりが大きく広がり、自分の役割、居場所ができたのです。また、収入を得ることにより、社会に貢献しているという達成感も感じられるようになりました。

 

障害を負ってからは、車椅子を使用していることで相手に気を遣わせてしまったり、目線が低いことで相手から見下ろされているように感じたりと、”車椅子”という見た目がコンプレックスとなっていました。オリヒメは、目に見える障害の壁を払拭してくれる存在でした。オリヒメを介して人と接している時は、自分自身が抱えているコンプレックスから解放され、自信を持って人と接することができます。それにより、対等にコミュニケーションをとることができ、今までにない充実感を感じられるようになりました。

 

接客の仕事が「楽しい」

令和2年2月からは、ご縁があり、NTT本社ビルでオリヒメを介して来社された方の接客対応を行っています。受付から応接室や会議室まで、オリヒメがお客さまをご案内します。お客さまとの会話はもちろん、首を動かしてお客さまの方を見たり、相槌やジェスチャーができるため、来社された方は「はじめはAIだと思っていた。遠隔操作を感じさせず、隣に存在しているように自然にコミュニケーションが取れる」と言ってくださいました。また「一緒に外で営業したり、食事をしてみたい」と言われた時はとても嬉しかったです。私自身もオリヒメを利用していて不便さを感じたことはありません。それも、ホスピタリティ溢れるエンジニアさんや職場のみなさんの理解があってのことだと感謝しています。

 

オリヒメは、生きるためのテクノロジー

ICTの活用がすすんでいる昨今、オリヒメの可能性は無限大だと感じています。障害のある方だけでなく、子育て中の方などさまざまな理由で外出や通勤が困難な方の新たな働き方としてオリヒメが広がればよいと感じています。

 

オリヒメは、利用する私たちに生きる希望と自信を与えてくれています。オリヒメは、まさに”生きるためのテクノロジー”なのです。

OriHime-Dを介し、お客さまを案内中

 

(※)株式会社オリィ研究所

 

取材先
名称
伊藤祐子さん
概要
伊藤祐子さん

タグ
関連特設ページ