珈琲焙煎処 縁の木 代表 白羽 玲子さん
地域に循環可能な“輪“をつくる~障害のある人の多様な働き方をめざして~
掲載日:2020年6月19日
2020年6・7月合併号 明日の福祉を切り拓く

白羽 玲子さん

あらまし

  • 「珈琲焙煎処 縁の木(えんのき)」は、コーヒーの焙煎、販売のほか、福祉作業所でつくられた焼き菓子などの販売や、切り出した作業の福祉作業所への委託など、地域を巻き込んださまざまな事業に取り組んでいます。

 

障害のある人の働き方に多様な選択肢を

「珈琲焙煎処 縁の木」を立ち上げたきっかけは、次男が「知的障害を伴う自閉症」と診断を受けたこと、同時期に母が脳内出血により急死したことでした。

ふと次男の将来を考えると、障害のある人が働く場所や職業に多様性がないように感じました。知的障害のある人には、例えば一度覚えたことは忘れないなど、それぞれ得意なことがあります。得意を生かした自分のやりたい仕事をして、ある程度のお金をもらえる、そんな仕事の選択肢があると良いと思いました。

これらのことから、親が亡くなった後にも長く続く子どもの人生のために、「親亡き後の知的障害者の働ける場所」をつくりたいと思い、「縁の木」を設立しました。

 

福祉作業所等と連携した運営

「縁の木」では、原産国や生産者にこだわったコーヒーの焙煎を行い、オリジナルブレンドなどを販売しています。

あわせて、コーヒーと一緒にオススメできるクッキーなどの焼き菓子やコースターも販売しています。これは「一緒にいかが?プロジェクト」と題し、福祉作業所でつくられた焼き菓子やコースターをコーヒーと一緒にお店で販売することで、福祉作業所の持続可能な売上アップをめざしているものです。

 

普段お店にはスタッフが二人いますが、障害のある人の就労継続支援の施設外就労訓練も受け入れています。希望する就労訓練卒業間近な方と事前に面談を行い、その人の得意なこと、苦手なことなどを相談しながら、一緒に仕事の練習をします。時には褒めたり、時には指摘したりしながら、働くことへのイメージを掴んでもらっています。

ほかにも、欠点豆の分別やシール貼り、箱詰めといった作業を施設外就労訓練者に行ってもらったり、A型福祉作業所に委託しています。

縁の木で販売しているコーヒー

 

抽出かすを生かした有機質肥料づくりプロジェクト

焙煎をする過程で産業ゴミとして廃棄される欠点豆や、抽出後のかすは保湿力が高く、燃焼効率の妨げとなり、近くの焙煎店とも課題だと話していました。

そんな折、ご縁で畜産機械器具の製造・販売等や鶏糞を生かした肥料の製造等を行っている四国ケージ株式会社の方と出会いました。相談していく中で、欠点豆・抽出かすを使った有機質肥料をつくることに至りました。そして、ただつくるだけでなく、地域で循環的かつ持続可能な取組みにしていきたいと思いました。

具体的には、お店のある蔵前地域の焙煎店、カフェから出た欠点豆や抽出かすの回収、それらを四国ケージへ発送する作業を福祉作業所にお願いすれば、障害のある人が得意を生かした継続的な仕事になると考えました。そして、出来上がった肥料を地域の農家や生花店、雑貨店などに購入いただくことで、循環が生まれていきます。

 

障害のある人は時に「あの人ブツブツ言っているから怖い」など、知られていないがゆえに怖いと思われてしまうこともあります。しかし、地域を散歩しながら欠点豆や抽出かすを回収することで、地域の人に知ってもらう機会となり、地域との接点が生まれていくことを期待しています。

この地域を巻き込んだプロジェクトに必要な経費は、クラウドファンディングで募っています。

 

新たなまちづくりとして

5月25日、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が解除されましたが、お店は営業日数を減らし、勝手口から予約分の受け渡しと通販分の製造を行っています。近くにはお休みしたお店もあり、厳しい状況が続いています。プロジェクトも計画的な生産、確実な販売先の確保など今後の課題があります。

このような状況ですが、蔵前地域を巻き込むこのプロジェクトを新たなまちづくりとして実施することを希望として、日々取り組んでいます。

 

私はこれまで、やりたいと思ったこと、困ったことも率直にいろいろな人に伝えるなどして、つながりが広がっていきました。できる範囲で小さく始める、走りながらやっていくことが大切なのかもしれません。それは、今までそれぞれがやってきたことを大きく変えずに、無理なくこの地域でできることをやろう、というプロジェクトの思いにつながっています。

最終的にめざしているのは、地域に広がる大きな輪です。プロジェクトの形がゆくゆくは、蔵前以外の地域でも広がっていき、新たなコミュニティの一つのモデルになっていくと良いなと思います。

焙煎の過程で欠点豆を取り除いています

(感染症対策を行った上で取材を行いました)

 

プロフィール

  • 白羽 玲子(Shiraha Reiko)さん
  • 台東区蔵前にある「珈琲焙煎処 縁の木」代表。コーヒーの香りが漂う暖かな雰囲気の店舗で焙煎、販売を行う。お店の営業に併せて行うさまざまな取組みを通じて、障害のある人が自身の得意なことを生かし、多様な職業の選択ができ、生きる場が見つけられる社会の実現をめざしている。焙煎の過程で出る欠点豆(※)や抽出かすを使用した、地域の持続可能な循環を生み出す「有機質肥料づくりプロジェクト」を計画中。
  • ※…焙煎の過程で廃棄される、虫食いや、未成熟、カビなどがある豆のこと。

 

取材先
名称
珈琲焙煎処 縁の木 代表 白羽 玲子さん
概要
珈琲焙煎処 縁の木
http://en-no-ki.com/

有機質肥料プロジェクト クラウドファンディングページ
https://readyfor.jp/projects/kuramae
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