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地域のきずなを守り、 活かすために ~今、社協ができること~ (オンライン座談会から)
掲載日:2020年8月18日
2020年8月号 NOW

 

あらまし

  • 新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、「3密(密集、密閉、密接)」を避けて命を守ることを最優先する中で、社会活動は大きな影響を受けています。当たり前だった「普通」の暮らしが送れなくなり、仕事を失うなど新たな問題に直面したり、これまでも抱えていた課題がさらに大きく困難なものになるなど、困窮や孤立を深めている方が増えている状況が見られます。
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  • 地域福祉の推進を目的に事業展開する都内の各区市町村社会福祉協議会(以下「社協」)では、これまですすめてきた、顔を合わせて交流し、つながりをつくることが物理的に制限される状況に大きな危機感を抱いています。令和2年3月末に始まった生活福祉資金貸付制度の緊急小口資金・総合支援資金の特例貸付の相談・申請の窓口として、数多くの申請の対応に当たりながら、命と生活を支える事業を継続し、「今、社協ができること」「今こそやるべきこと」を模索し、取り組んでいます。
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  • 今号では、4月7日からの緊急事態宣言が5月末に解除されてから1か月余りが経過し、「新しい日常」のもとでの社会生活が徐々に動き始めた6月末に東社協が行った、社協職員のオンライン座談会の様子を通じ、地域や社協の現状と、今後に向けどう取り組んでいくか、社協職員の思いをお伝えします。

 

東社協では、令和2年6月30日に「地域のきずなを守り、活かすために〜今、社協ができること」をテーマに、オンライン座談会を開催しました。日本大学文理学部教授の諏訪徹さんを座長に、6人の社協職員が、各社協が直面した状況と課題について情報共有し、今後に向けた思いなどについて意見交換を行いました。

 

オンライン座談会の一コマ

 

「特例貸付」の申請が急増

各社協では、3月25日から国の方針で開始された、生活福祉資金貸付制度の「緊急小口資金」と「総合支援資金」の「特例貸付」の受付窓口として、申請や相談の対応に追われています。生活困窮者自立支援制度の自立相談支援事業を受託している社協では、あわせて「住居確保給付金」の申請受付も行っています。

 

今回の特例貸付は、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)の影響で減収や休業、離職された世帯に広く貸付を行うという国の方針で、貸付要件や手続きも従来の本制度とは別に定められています。申請者の就労形態や業種、職種は多岐にわたります。福祉的な背景や課題を持たなかった世帯が多く、コロナの影響を受け収入が途絶えたり減ったりし、次の手立てが打ちにくい状況の中で短期間に生活困窮に陥り、この特例貸付を利用される様子が見受けられます。6月末時点で、都内各社協や労働金庫、郵便局等での受付後、東社協で審査を受け付けた件数は、約12万9千件に上ります。

 

各社協での受付数は、これまでの経験をはるかに上回る件数になっています。当初は相談・申請が殺到し混乱もありましたが、各社協では貸付業務の体制を整えるなどし、集中的に対応に当たっています。

 

特例貸付の相談から見えてきたもの

膨大な数の申請を受け付ける中で、見えてきたことがあります。豊島区民社協地域相談支援課長の大竹宏和さんは「地域柄か、外国人からの相談が多い。フリーランスや風俗業の方からの相談も受け、社協が見えていなかった住民が多数いることを改めて実感した」と言います。

 

お金を貸すだけでなく、申請者のニーズから支援のしくみをつくり、つなげる取組みも行っています。文京区社協では、3月の一斉休校開始直後に行った子育て世帯への食支援のニーズ調査をもとに、区内の社会福祉法人により構成される「文京区地域公益活動ネットワーク」が取り組んできた「夢の本箱プロジェクト」での収入を活用し、必要な世帯に6月まで定期的に昼食を提供しました。文京区社協地域福祉推進係係長兼地域連携ステーション(フミコム)係長の浦田愛さんは「このしくみに貸付の相談で『今日食べる物がない』という方もつないできた」と言います。このほか、フードパントリーのしくみ等をつくり、支援してきました。

 

日々特例貸付の申請が積み重なり、まずは一日も早い送金に向けた対応をする中で「特に支援が必要な世帯に、今後、どうアプローチし支援していくかが課題」と浦田さんは語ります。

 

地域福祉権利擁護事業の状況

判断能力が不十分な高齢者や障害者等と契約し、福祉サービスの利用援助や日常的金銭管理を行う「地域福祉権利擁護事業」については、都内の全ての社協で事業を継続しています。

 

東大和市社協では、事業の利用者を定期的に訪問し支援する登録型の生活支援員には、緊急事態宣言期間中、感染拡大防止の観点から活動休止していただきました。その分、職員の専門員3人が、感染防止のための在宅勤務を交代で行いながら、利用者への支援を実施しました。

 

東大和市社協権利擁護係長の佐藤香さんは「日々状況が変化し、生活費の払い戻し支援のために利用者と訪れた金融機関の窓口が、営業時間の短縮により閉まっていることもあった。支援を止めないよう、スケジュール調整にはとても苦労した」「利用者は、判断能力が十分でなく支援が必要な方々であるため、コロナの危険性や緊迫した社会の状況について、理解が難しいことが多かった。支援日時や訪問する職員が変わることを忘れてしまったり、日中の通所先が休業していることで精神的に不安定になり、相談や問い合わせの電話を受けることも増えた。改めて、こうした方々の地域生活を支えている責任を痛感した。一方、コロナ禍においても利用者が日常生活を変わらず刻み、生き抜いている事実が素晴らしいとも感じた」と語ります。

 

地域活動や集まることができない中、個人の生活課題を深刻化させない

利用者の命や生活を支える事業を除き、各社協では多くの事業や活動の中止、または延期を余儀なくされました。特に3~5月は参加や交流を伴う事業や、対面での活動はほぼ実施できませんでした。また、地域の住民や団体が行うさまざまな住民主体の支え合い、助け合い、見守り等の活動も休止となりました。

 

足立区社協地域包括支援センター関原 主査の堀崇樹さんは「サロン、子ども食堂、町会自治会、老人クラブ、文化系団体の活動など、大きさや形を問わず、まちの中でのすべての集まりがストップしてしまった。つながりを断たれた住民や地域がどうなってしまうのか、恐怖に似た大変な焦燥感を感じた」と言います。

 

東社協地域福祉部が5月に実施した各社協への調査でも、社協や住民の地域活動停止に伴い不安視されることとして「つながりの希薄化」「孤立、引きこもり、フレイル(※1)、虐待、DV等の課題の深刻化」があがりました。また、通所系福祉サービスの休止や学校休校、保育園の登園自粛要請等の影響で、行き場がなくなり不安定な様子の障害者、高齢者、子どもを多く目の当たりにしたり、介護者や保護者のストレスの高まりが見られるとの回答もありました。

 

このような状況のもとで、各社協では、生活課題を深刻化させず、つながりを途切れさせないよう個人を支援する取組みを模索しています。

 

浦田さんは「孤立し状況が厳しそうな親子に声をかけ、顔が見えるオンラインの子育て講座を複数回開催しつながりを保った」と言います。

 

豊島区民社協では、特例貸付の対応に多くの人員を割く中でも、コミュニティソーシャルワーカー(以下「CSW」)が地域住民から多数の相談を受けています。「特に4月下旬以降、新たに課題を抱えた方の相談が増加した。コロナ感染への不安や人と会えない孤独、十分食事がとれないなど、さまざまな相談を受け支援した」「深刻な状況だと判断した場合には自宅を訪問し、医療機関受診に同行したり、近隣で見守るよう関係づくりをするなど、孤立を深めないよう努めた」と言います。気になる方に関する相談は、近隣の住民や民生児童委員、CSWと協働する住民ボランティアである「地域福祉サポーター」等、つながりをつくってきた方たちから寄せられました。日頃の取組みの意義を感じたそうです。

 

練馬区社協地域福祉課長の河島京美さんも「貸付の窓口で家計相談に乗りつつ、生活全般や子に関する心配ごとはボランティアコーナーから主任児童委員につなぎフォローするなど、各部署が連携し世帯を一体的に支援してきた」と言います。また、「会社員や年金生活を送る方から『減収していない自分よりも困っている方のために』と特別定額給付金の寄付の申し出を受けたり、利用禁止になった公園の遊具にこびとのイラストを貼り利用者を和ませる団体の取組みを聞くなど、数多くの心温まる話があり、日々ブログ等で地域に発信している」と語ります。この状況だからこそ得られた話題や職員の気づきを社協内で共有し、次の展開を模索しています。

 

「いま取り組むべき」地域活動や団体への支援

各社協では、住民や地域団体が活動できない状況が続くことで、活動再開や継続への不安が増し、意欲低下、活動停滞などにつながるのではないかという危機感を高めています。

 

堀さんは「地域の活動団体は、他団体の状況が見えず不安を感じていた。そのためオンラインを活用して地域の会議を開催し、情報交換する場を持った。オンラインに不安のある団体は用意した拠点から参加する一方、自宅から赤ちゃんを抱っこしながら参加する方もいた。顔が見えて話ができた安心感は大きいと、好評だった。改めて、社協は住民と話をすることを重ねる仕事だと実感した」と言います。

 

浦田さんは「区内26団体が開催する通いの場『かよい〜の』の活動は休止中だが、参加者600人へ手紙を送る準備をしている。中にはオンラインで開催する団体も出てきた。また衛生面への配慮等が確実にできる飲食店やシェフなどプロが活動に関わる場合に限り『テイクアウト子ども食堂』を実施する支援をし、心配な親子をつないで食事を提供した。本来の体制で職員が動くことが難しい中、社協の各部署や他機関・団体と従来以上に連携している」と言います。

 

東村山市社協法人経営・まちづくり推進課長の武者吉和さんは「今だからこそ社協が取り組むこととして、市内の社会福祉法人と連携して食支援の取組みを実施すべきと考え、『東村山市内社会福祉法人連絡会』に参加する各法人にアンケートを行った。協力に手をあげた保育園や障害の通所事業所など2法人3施設が施設内で弁当をつくり、社協の職員が必要な方に配達する取組みを行い、約1か月間で全385食配った。今後も工夫次第で実施できる可能性を感じた。この数年、市内の社会福祉法人とネットワークをつくり、地域公益活動推進に向け連携してきたことの意義を実感した」と言います。

 

今後の社協活動や地域への思い

今後に向け、各社協ではさまざまな課題も感じています。佐藤さんは「住民の命と生活を守るサービスを止めないよう、全職員の事業への理解促進、事務所の分散確保など、広範囲に検討しなければいけない」と語ります。

 

武者さんは「地域のニーズに応じて柔軟に実施してきた社協の自主事業は、募金や会員会費を財源にしている。今年は訪問や街頭での対面で集めることは難しく、財源確保が危ぶまれる。自社協では、毎年実施する独自の募金活動の中止が決まり、500万円以上の減収が見込まれる。地域に必要な事業を止めることなく行えるか、大変厳しい状況だ」と危機感を持ちます。

 

堀さんはこれからの社協の活動や事業展開について「集まれない中での地域活動や、支援対象の置き直し方を模索し、試行している。コロナの第2波に加え、水害等との複合災害に備える必要もある。他社協や東社協と連携し、手法の共有やモデル開発などに取り組みたい」と言います。

 

浦田さんは「増大した生活困窮者の支援に、これまで以上に法人として正面から向き合う必要がある。特例貸付の相談記録の分析から、区内の困難な状態にある学生にリーチできていないことが分かり、アプローチ方法を検討している。また家計相談の必要性が高まると思われ、職員の相談技術の向上は喫緊の課題と考えている。しかし、今後、社会福祉法人と連携した福祉人材の確保策など、新たなしくみづくりを発展させていける可能性も感じている」と言います。

 

河島さんは「これを機にオンラインツールの導入をすすめ、事業にも活用したことで、直接会う形だけでなく、多様な形でつながれる可能性に気がついた。一方で情報格差は深刻で、特にオンラインに偏ると、デジタル・ディバイド(※2)の課題が広がると改めて認識した」と言います。また「ようやく地域の中の外国人コミュニティに情報が届き始め、外国人からの貸付の申請が急増している。加えて、災害時と同様、特に女性の問題が顕在化してきている。ぎりぎりのバランスで生活してきた外国人女性から、DV等の問題が深刻化し相談を受けることも出てきた。今、この地域で生きている、これまで見えていなかった人が見えてきたからこそ、できる支援に社協の総力をあげて取り組みたい」と語ります。

 

大竹さんは「生活困窮の状況は深刻化し、社会保障制度の課題も感じる。孤立した若い方から『消えたい』という言葉も聞く。社協として、その方の生活課題のみに着目するのではなく、地域への参加のきっかけをつくるなど、ポジティブな方向で支援をすすめたい」と語ります。

 

座長の諏訪さんは「今は特例貸付への対応に追われる状況だが、ここまでを振り返り、来るべき次の災害も見据えて備えていくことが重要。一人ひとりが生活を立て直すまでには長い期間がかかるため、今後、いわゆるアフターコロナの時期になっても生活困窮の課題が残り続けることは必至である。行政とも課題を共有して社会化し、次のステップにすすみたい」と今回の座談会をまとめました。

 

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今後も社協は、新しい多様なつながり方を模索しつつ、地域住民や社会福祉法人、民生児童委員等とのネットワークを一層大切にして、コロナの影響下での住民への支援や地域活動のあり方を模索していきます。

 

(※1):「フレイル」…年齢とともに心身の活力が低下し、要介護状態となるリスクが高くなった状態

(※2):「デジタル・ディバイド(デジタルデバイド)」…インターネットなどのIT技術を利活用可能か否かで生じる情報格差のこと。

取材先
名称
(社福)文京区社会福祉協議会、(社福)東大和市社会福祉協議会、(社福)足立区社会福祉協議会、(社福)豊島区民社会福祉協議会、(社福)練馬区社会福祉協議会、(社福)東村山社会福祉協議会
概要
(社福)文京区社会福祉協議会
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