あらまし
- 東京都社会福祉協議会では、令和2年1月~2月にかけて、共同募金の配分を受け、生活困窮者自立支援法に基づく都内の自立相談支援機関を対象に標記の調査を実施しました。本調査は、その時点での自立相談支援機関における相談支援の状況や、社協をはじめとしたさまざまな主体との連携状況を把握し、今後の「東京らしい地域共生社会づくり」に向けての協働や連携に生かすことを目的としたものです。
令和元年12月に公表された国の「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会(地域共生社会推進検討会)の最終とりまとめ」では、「断らない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」による包括的支援体制が提起され、令和2年6月公布の「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」で創設された市町村による「重層的支援体制整備事業」につながりました。
生活困窮者自立支援制度は、対象者の属性や世代に関わらず「生活に困窮している」という状況を捉えて包括的な支援を行うと同時に、その支援を通じた地域づくりを理念としており、今後の包括的支援体制の中核のひとつとしての役割が期待されています。
今号では、調査結果の概要をお伝えします。
※調査結果の概要を東社協ホームページに記載しています。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/chosa/documents/seikon-gaiyou.pdf
実施のあらまし
本調査は、令和2年1月17日~2月7日の期間、東京都内の福祉事務所設置自治体である49区市、および町村地域(13町村)を所管する東京都の生活困窮者自立支援制度所管部署を通じ、所管内の自立相談支援機関58か所に配布を依頼しました(*)。なお、所管地域内に複数の自立相談支援機関を設置する場合は、その運営状況により複数個所をまとめた回答も可とし、結果、まとめての回答も含め、全地域から56か所の回答がありました(回収率100%)。
調査の目的は次の3点です。
(1) 自立相談支援機関における相談状況や、地域づくりに向けての取組みの現状を知るとともに、生活困窮者自立支援制度の理念を実現する上での課題を把握する。 (2) 生活困窮者支援における、自立相談支援機関と社協(社協運営の場合は、社協内における他の地域福祉活動)との連携状況を把握する。 (3) これらを通じて、東京らしい地域共生社会づくりに向け、生活困窮者支援における社協の役割や求められる連携についての検討に資する。 |
以下、調査結果の主な内容を紹介します。
(*)自立相談支援機関の設置主体は福祉事務所設置自治体。
運営は、直営のほか委託も可能であり、回答のあった自立相談支援機関の運営主体の内訳は、直営
21、委託(社協)12、委託(その他)23。
I 自立相談支援機関における相談支援の状況
〔(1)対象者の状況〕
自立相談支援機関に寄せられる対象者の困りごとや課題、状況について選択肢を設け、「多い」「一定程度ある」「少ない」の3択で尋ねました。〈図1-A・B〉
対象者の困りごとや課題では、全体を俯瞰すると「お金」「仕事」「家」に関するものが多く、特に「当面の生活費に関すること」が突出し、対象者の多くが目前の生活に困る状態になってから相談につながっていることがうかがえました。次いで「家族関係のトラブル」や「就労先でのトラブル」など人間関係の課題が続きます。
対象者の状況では「病気・ケガ・障害」、「発達障害・精神障害(疑い含む)」が多いとした回答が目立ちました。
次に、これら〈図1-A・B〉の選択肢にあるような課題、状況等(以下、「課題等」)を複合的に抱えている対象者の割合について尋ねたのが〈図2〉です。「8割」との回答が最も多く30・4%で、「7割以上」を回答した自立相談支援機関は75%を占めました。
続いて「対象者の抱える課題の特徴や背景」を自由回答で尋ねました。今置かれている困窮の背景として、高齢者では「低年金や無年金による慢性的な生活困窮」、あるいは「能力や意欲喪失等による金銭管理の問題」、若者や中高年では「家計管理、就労上の問題、仕事の続かなさ」などがあげられ、状態としてひきこもりや、いわゆる「8050」と呼ばれる世帯状況での相談が増えている様子がうかがえました。
また、その背景には「発達障害や何らかの疾患や障害、コミュニケーションの難しさ」などが見受けられることが多いこと、さらに状況を難しくしているものに「家庭環境や社会的孤立」などの問題の存在が指摘されており、これらから、対象者の抱える課題等が連続し、複合化している様子がうかがえました。
〔(2)対象者の課題や状況を踏まえ、現在取り組んでいること、あったらよいと考えること〕
〈図1-A・B〉の選択肢にある課題等に対し、自立相談支援機関において「現在取り組んでいる課題等」を選択してもらったのが〈図3〉、「現在取り組めていないが、取組みがあったらよいと考える課題等」を選択してもらったのが〈図4〉です。
両者を比較すると、「取組みがあったらよい」の図4の方が幅広い項目が選択されています。図4「取組みがあったらよい」として、多く選択されたのは、「当面の生活費」35・7%、「就労したいのにできない」30・4%、「ひきこもり状態(40歳以上)」28・6%でした。また、図3と比較して差の割合が大きかった項目では、「ひとり親」差・14・3ポイント、「ひきこもり状態(40歳以上)」差9・0ポイント、「ひきこもり状態(就学期)」差7・1ポイントと続きました。
これらについて、「実際に行っている具体的な取組み」や、「あったらよいと考える取組み」を自由回答で尋ねると、前者では、対象者が抱えるさまざまな課題、状況等に対し、地域社会の理解や社会資源開発に向けた取組み、寄り添い型の支援を模索している状況が回答されていました。特に地域へのアプローチでは、地域の不動産屋、商店、自治会などへの働きかけが、住まいや就労、居場所などの場の創出や理解につながっていることがうかがえました。後者の「あったらよいと考える取組み」では、すでに他の地域で取り組まれているものもありました。具体例では、日払いで工賃がもらえる仕事先の確保、居場所、出張相談会、日常生活の自立に向けた支援のためのアドバイザーの派遣などがあげられます。他地域との情報交換や好事例の共有が期待されます。
〔(3)対象者が早期に相談や支援につながるために取り組んでいること〕
「対象者が早期に相談や支援につながるために取り組んでいること」について自由回答で尋ねました。多くあげられたのが、「関係機関や地域、組織内、庁内などでの情報共有を通じて連携体制を広げるための取組み」です。
効果があった取組みとして「事例紹介を行う会議を開催したところ、早期の相談につながった」という回答がありました。また「ライフライン事業者、住宅関連団体、金融機関、郵便局など要支援者の早期発見に関わる通報協定を締結」という回答もありました。他には、「個別支援の伴走支援を通じて関係機関との連携構築に努めている」「アウトリーチ」「食料支援の窓口」「相談会開催」なども複数の地域からあげられていました。
〔(4)関わりを拒否したり支援プラン作成に至らないケースの最近の傾向〕
自由回答により尋ねました。内容を分類すると「家族や周囲からの相談で自立相談支援機関につながったが、本人に相談の意思がない」というものと「生活費等の貸付や給付など本人が希望する支援策以外は拒否」といった回答がそれぞれ3割強を占めました。いずれも”本人の意思”がキーワードでありポイントといえます。
前者では、ひきこもりやいわゆる「8050」状態の家族との関連での回答が複数あり、中には「経済的に本人を支えている親は地方にいる」、という都会ならではの状態などもあげられていました。また、関係機関からの紹介においても、「本人の意思がないと支援の継続が難しい」という回答が複数あげられるとともに、「拒否」という言葉が散見されました。対応としては、本人の負担にならないよう手紙や電話でアウトリーチをしているという回答もありました。
後者の回答例では「生活の立て直しを提案しても貸付の可否のみにこだわり『お金を借りられないならば支援は要らない』というケースが少なくない」「住居確保給付金や貸付の相談で対象にならない方はその後の関わりを求めてこないことも多い」などがあげられていました。
その他、「連絡がつかなくなる」「支援の中断」といった回答もありました。こうした要因に精神疾患や障害、不安定さ、問題解決に向けての本人の意欲や熱量が続かない、というような指摘もありました。このような場合には、息の長い伴走的な支援が求められると考えられます。
〔(5)「あったらよい」と考えることに現在取り組めていない理由〕
自由回答(複数回答)で尋ねました。「体制上の課題」が最も多くあげられ、回答のあった42の自立相談支援機関のうち、人や時間、予算などを理由にあげた機関が17か所(40・5%)でした。関連して「情報収集のためのアプローチ不足」「地域の実態把握ができていない」などの回答も4か所からあり、必要性を感じながらも情報収集等に手が回ってない様子もうかがえます。
他に「支援先がない、連携が不十分」など、資源の不足、関係機関との連携不足に関する回答も12か所(28・6%)からあげられていました。
〔(6)「あったらよい」と考えることをすすめる上で社協に期待すること〕
社協以外が運営する自立相談支援機関に自由回答(複数回答)で尋ね、36か所から回答がありました。大別すると「社協活動を通じた地域づくり」に要約される期待が最も高く19か所(52・8%)、次いで「連携した支援体制や協働への期待」12か所(33・3%)、「生活福祉資金の貸付への要望」4か所(11・1%)、「地域福祉権利擁護事業への要望」4か所(11・1%)と続きました。「社協活動を通じた地域づくりの期待」に分類した具体的な自由回答では、「地域の情報、課題、ニーズの情報共有」「地域、ネットワークづくり」など、前問で「あったらよいと考えていることに取り組めていない理由」で取り上げられていたことが期待として寄せられていました。
II 自立相談支援機関と社協の地域福祉活動との連携について
〔(1)支援調整会議や支援会議、その他ネットワークづくりを目的とした会議等に社協が参加することへの期待〕
社協以外が運営する自立相談支援機関に、社協職員が関係会議等に参加することによる期待を自由回答(複数回答)で尋ねました。39か所から回答があり、大別すると「地域福祉の推進役としての社協の持つ情報やネットワークを生かした支援への期待」「社協らしい見立てへの期待」「生活福祉資金などの貸付や地域福祉権利擁護事業利用に向けての連携の期待」「連携・協働による個別支援」の順に4つに分類されました。
〔(2)社協との具体的な連携状況〕
〈図5〉は、区市町村社協との具体的な連携状況について尋ねたものです。なお、社協運営の自立相談支援機関については、他部署との連携状況を尋ねています。
〔A相談につなげる〕や、〔C支援につなげる〕の生活福祉資金貸付事業と地域福祉権利擁護事業など、双方の支援につなげるための連携は多くの地域でなされている様子がうかがえます。一方、〔D新たな活動や支援体制づくり〕〔E地域へのアプローチ〕に分類された連携は少なく、また地域により差がある状況がうかがえました。なお、連携したことのある場面ごとに具体的な連携先となる社協の部署等を尋ねたところ、どの項目でも「地域福祉コーディネーター」が高い割合を占め、特にD、Eではほとんどを占めていました。
〔(3)社協との連携による好事例〕
30の事例が好事例として寄せられました。連携した事業で分類をすると、「社協の地域福祉活動との連携による事例」が12事例(40・0%)、「生活福祉資金貸付事業との連携事例」が10事例(33・3%)、「地域福祉権利擁護事業との連携事例」が6事例(20・0%)、「その他」2事例(6・7%)でした。〈図6〉
地域福祉活動との連携事例では、「ボランティア活動により社会とのつながりや居場所を確保した事例」「サロンへ参加した対象者が講師役になり教室開催まで至った事例」「食料支援の必要性を地域に伝えることを通して地域にボランティア主体のフードバンクができた事例」など、困窮者支援を通して地域づくりにつなげた事例が寄せられました。また、「地域福祉コーディネーターとの役割分担により、つながりにくい人とのつながりを保ち続けている」という協働による伴走支援の事例もありました。
〔(4)さまざまな主体との連携による好事例〕
35事例が寄せられ、連携先では民生児童委員と社会福祉法人・施設との事例がそれぞれ10事例ずつと最も多く寄せられました。〈図7〉
東社協では、平成30年度に、民生児童委員、社会福祉法人、社協の3者連携によるチーム方式での地域福祉推進体制を「東京モデル」として提起し、推進しているところです。
民生児童委員との協働事例では、「つなぐ」「アウトリーチを一緒に」「本人に付き添う」「見守り」「声かけ」など、本人の生活との接面における事例が多く寄せられました。
社会福祉法人・施設との協働事例では、就労体験や中間的就労の受入れ、就労先、一時住居の提供、フードドライブ、地域の子ども食堂など、連携場面は多岐にわたっており、地域のさまざまなニーズに社会福祉法人・施設が柔軟に対応している様子がうかがえました。
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今回の調査により、自立相談支援機関における対象者の多くが何らかの生きづらさや孤立等複合的な課題を抱えている状況が浮き彫りになりました。また、社協をはじめとした関係機関には、困窮者支援を通じた地域への働きかけにおける連携、協働など大きく期待が寄せられていることが分かりました。さらに、現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、困窮世帯の増加、従前からの地域のつながりや地域活動への影響などが生じています。
東京らしい地域共生社会に向け、包括的支援体制を構築し、関係機関が連携・協働していくことがより一層求められています。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/chosa/