※この記事は、福祉広報2020年9月号に掲載した「連載」記事の詳細版です。
シャロームみなみ風 外観
あらまし
- 社会福祉法人南風会シャロームみなみ風は、平成27年に開設した障害者支援施設です。主に知的障害のある方を対象とし、施設入所支援のほか、生活介護、自立訓練(生活訓練)、短期入所、就労継続支援(B型)事業などを行っています。
シャロームみなみ風
施設長 廣川美也子さん
感染症を施設に持ち込まない
新宿区には繁華街があり、都内の中でも感染者数が多いことから、新型コロナウイルス感染拡大の状況については不安の大きい地域です。令和2年2月から、新型コロナウイルス感染症が施設内に入る可能性があることを考え、行動計画を立ててきました。シャロームみなみ風 施設長の廣川美也子さんは、「万が一、利用者が感染した場合、重症者以外は入院することはできず、施設内で感染のある状況で対応せざるを得ないかもしれない。行動計画では第一に、施設内に感染症を入れないための対策をできる限りすることを考えた」と話します。
シャロームみなみ風には、もともと感染症防止委員会がありましたが、新型コロナウイルスに関しては危機管理委員会で対策を立てました。初回の危機管理委員会は2月17日に実施しました。まず、感染症を施設内に持ち込む可能性が一番高いのは職員であると考え、学習会を何度も繰り返し、マスクを着用することと、飛沫感染の恐れのある会食やカラオケなどには行かないということを徹底しました。そして、陽性であっても無症状である可能性もあるため『自分はすでに陽性と考え行動する』という意識を持ってもらうようにしました。
また、「職員説明会では『他の職業のように在宅勤務は難しく、ケアの際には“密”になることもある。しかし、私たちは社会の中で必要とされている職業だ』と話した。職員が一生懸命聞いている様子を見て、一人ひとり自覚が生まれていると感じた」と廣川さんは振り返ります。
感染対策と物品の確保
施設内での感染対策としては、出勤時と昼休み後の体温測定と手洗いを徹底し、検温で37度あった時点で退勤となります。発熱者が出た場合には、その時点から2週間勤務しないこととしましたが、外出行事の中止や併設するカフェを休業したため、職員のフォロー体制をとることができました。そのほかに、ドアノブなどの施設内の設備消毒は、朝礼後、お昼休憩後、夕方と1日3回実施し、電話機やスイッチ、パソコンは使う度に職員が各自で消毒を行います。また、電解式次亜塩素酸水の携帯用スプレーボトルを職員と職員の家族分に配布し、1週間に1回入れ替えて使用できるようにしました。手洗いや消毒などの対策は習慣化するよう、職員同士で声を掛け合うようにしました。そうした中、職員の間でこれまで以上に一体感が生まれ、事務職員からは「自分も施設の一員として、みんなで力を合わせて対策を頑張っている実感がある」という声もあがりました。
また、今まではスタッフ会議を同じ内容で2回実施し、職員が交代で参加するようにしていましたが、それを4回に増やしました。いわゆる“3密”を避けるためと、スタッフ会議中に普段対応していないフロアに職員がケアに入る必要がないように、2階と3階の各フロアで2回ずつ行いました。以前は1回の出席人数が30人~40人だったところ、15~20人とし、人数が少なくなったことにより研修や学習会などを短時間でしっかりと行うことができるという副次的な効果もありました。
感染対策のための物品については、入手しづらい状況が続きました。感染が起きた時の急場をしのぐため、100円均一のお店をまわりスプレーボトルや防護服代わりのレインコート、フェイスシールドを作るためのサンバイザーを買い集めました。また、マスクについては、備蓄してあるマスクはなるべく使わずに2週間分はとっておき、手作りのものでしのぐことにしました。マスク用のゴム紐も入手できない状況にあったため、タイツを切って作ったゴムとキッチンペーパーを利用して手作りました。利用者や施設に併設するカフェのお客さんと一緒に作ったりもしました。その後、行政からの物品の支援があったり、家族から手づくりマスクがたくさん届いたり、徐々に物品が購入できるようになるなどして、万が一の際にも10日間程度は対応できる量を確保することができました。
面会と帰宅の中止と利用者への影響
2月18日以降、帰省は中止し、面会は原則自粛してもらいました。どうしてもとのご希望がある場合は、手洗い・消毒・検温の上で相談室での面会とし、居室フロアへの立ち入りは禁止しました。4月2日以降は、面会も全面的に中止しました。
その代わりに、利用者の普段の状況を見ることができるよう、ホームページに家族専用ページを作成し動画配信をスタートしました。なかなか見ることのできない普段の様子が見られると家族に喜ばれました。
緊急事態宣言期間中は、短期入所の新規の受入れ、音楽療法やスポーツなどの外部講師によるプログラムも中止しました。通所については電車で通ってきている方も多く、通ってくることが不安な方は利用を自粛しました。
7月には面会を再開しましたが、都内の感染者数が増えてきたこともあり、やむなく再度中止にしました。家族には、家族会を開いて状況を説明し、利用者には全館放送で、外出や帰宅、行事の中止について知らせました。他の利用者も面会が無く、誰も帰らないということと、日ごろから職員が消毒している姿を見たり、新型コロナの影響で出かけられないということを話していたため、大きなトラブルもなく安定して過ごしていたといいます。
カフェ&レストラン休業とクラウドファンディング活用
就労継続B型事業所として施設に併設するカフェ&レストラン「おんぶらーじゅ」も緊急事態宣言期間中は休業しました。廣川さんは「1月から夜カフェイベント『エピソードダイニング(※)』が始まり、利用者や家族、地域の方々も楽しみにしていてくれて順調であった矢先に休業になってしまったのは残念」と話します。さらに、地域のイベントでポップコーンの実演販売を行っていましたが、イベントが相次いで中止となりました。また、3月・4月の入学式・卒業式シーズンにはケータリングやお弁当などの注文が多くありましたが、キャンセルになってしまい、この期間の売上げはゼロとなりました。
緊急事態宣言後は席数を減らしてカフェを再開し、客足は戻りつつありますが、売り上げは通常時の40%以下に落ち込みました。そこで、工賃に充てるためにクラウドファンディングも始めました。廣川さんは「今現在、工賃が払えていないという訳ではないが、コロナ禍においてこの先の見通しが立たないことと、障害のある利用者が働く状況を知ってもらうチャンスだと思った。多くの方に寄付や応援メッセージをいただくことができたことが励みになった」と語ります。現在も、次の目標に向けて支援を募っています。
(※)「エピソードダイニング」は企業CSR等連携促進事業「東京D&Iプロジェクト」の一貫として実施する夜カフェイベント。知的障害のある方の考えや日常を、絵や文章で表現した”エピソード”として、飲み物をのせるコースターや屋外のサイネージなどに載せている。
今後について
現在も、外出行事は中止していますが、新宿区内とはいえシャロームみなみ風のある地域は繁華街ではないため、短時間の散歩は通常通り行っています。音楽療法やスポーツも、換気や消毒を厳重に行いながら再開しています。また、今夏には業務用のかき氷の機械を購入したり、お楽しみ会や夏祭りをグループごとに行うなど、施設内で楽しめることを増やしていっています。
今後の課題について廣川さんは「防護服等の感染症に係るゴミの処理や置き場所の問題、都市型の狭い施設で行動障害のある方もいるためゾーンを分けることが難しい箇所がある等、まだまだ詰めていかなくてはいけない課題がたくさんある。また、感染の起きた他県の施設の話で、調理室での食事提供を止めなくてはならなくなったときに、近くの法人が食事を提供してくれたと聞いた。このようにお互いに協力できるネットワークや、感染が起きたときにSOSが出せるしくみが必要だと感じた」と言います。
また、「6月の家族会では家族が職員に拍手を送ってくれて大変感動した。ほかにも、励ましのお手紙や物品を送ってくださったりして、応援して支えてくれていることを感じることができ、職員の気持ちの大きな支えになった。苦しい状況だがこれからも頑張っていきたい」と話します。
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