品川景徳学園の職員の皆さん
品川景徳学園は、昭和28年に開設され、平成22年から社会福祉法人六踏園が運営する児童養護施設です。保護者のさまざまな事情で家庭での養育が困難となった、未就学児から高校生まで45人(取材時点。一時保護児を含む)が生活しています。
児童養護施設の形態は多様ですが、同学園は男女混合、年齢縦割の小舎ユニット制です。3階建ての児童棟の各階を「寮」と呼び、1寮から3寮まで、各16人の子どもが暮らす構成です。寮ごとに更に8人ずつ2グループに分かれて生活しています。
職員も寮ごとに担当を固定しており、各寮7人が、交代勤務で子どもの生活を支えています。また、同学園の敷地内には、児童棟とは別に、事務室や調理室、体育館等を備えた事務棟と、グラウンドがあります。
◆学校一斉休校で突然長期休みに
国の一斉休校の要請を受け、3月3日から休校になりました。同学園園長の髙橋朝子さんは「突然休校となったが、感染症対策も手探りの段階で、子どもにも職員にも不安や負担が大きかった」と休校期間を振り返ります。
同学園では、日々の検温等を徹底し感染を発生させないことをめざして対策を行っています。職員は1日2回以上、手が触れる箇所の消毒等を継続して行っています。
また、日頃子どもとのふれあいを特に大切にしていますが、感染予防のため、可能な限り大人数での接触を減らし、児童棟内でのグループを超えた子ども同士の行き来や、事務室や調理室がある事務棟への子どもの出入りは制限しています。体育館とグラウンドの使用時間も寮ごとに決め、外出も適宜制限するなどしました。このほか、子どもの体調不良時も通院先での感染リスクを避けるため、まず学園の嘱託医に判断を仰ぐなどしています。
看護師の下森優奈さんは「当初は対策についての正確な情報がわからず、悩んだ。毎日、厚生労働省等のホームページを確認し、保健所や嘱託医にも連絡を取り、対応を決めている」と言います。髙橋さんは「児童養護施設では看護師必置とされていないが、ここでは看護師2名の専門的知識に基づき感染症対策が実施でき、大変心強い」と評価します。
◆子どものストレスや不安が高まる
日々触れる新型コロナの報道等の影響やさまざまな生活上の制限から、特に休校期間中は子どものストレスが高まりました。児童指導員の水口千聡さんは「学校に行けず友人や学園内の他寮の子とも会えなくなり、不安やイライラが見られた。感情は日頃顔を合わせる寮の担当職員にぶつけられ、子ども同士の喧嘩も多くなった」と言います。活動量が減り、夜なかなか寝付けなくなる子もいました。そのため、身体を動かし楽しみを取り入れる余暇支援を意識し、子どもに寄り添うよう心がけました。
5月の緊急事態宣言延長後には、学校から宿題や課題も多く出され、授業を先取りするような内容もありました。そのため、園では宿題や課題をこなせるよう、日中の過ごし方のスケジュールを決めました。しかし、職員が必ずしも一対一でフォローできない中で、新一年生や一人では学習をすすめられない子、職員でもすぐには教えられない難しい課題に取り組む中高生などには、勉強面での負担感も募ったようです。
また、高校生は、アルバイト代で自分のスマートフォンを持つことを楽しみにしていたにも関わらずアルバイトに行けなくなったり、4月に新入学した学校が休校となり、新しい友達ができないまま過ごすなど、多くのストレスがありました。
学校再開後の6月も、約1か月間の分散登校期間となりました。生活リズムが整わず、新たな生活になかなか慣れないことで、幼児や小学校低学年の子を中心に、夜に感情が抑えきれなくなったり眠れなくなるなど、影響が続きました。こうした期間を乗り切り、7月末頃ようやく全体が落ち着きを見せ、8月に夏休みを迎えました。
◆組織の意思決定のしくみの見直し
学園では、子どもの支援内容等について、職員全員参加の会議等により直接顔を合わせ、ボトムアップで意思決定することを大切にしています。3寮の代表職員と里親支援専門相談員の計4人が「議題整理」の会議を行い、子どもの直接支援を担う職員が参加する「養育部会議」に諮り、その後「運営委員会」で検討し、最終的に全員が参加する「職員会議」で決定する、という流れです。職員会議は、自寮以外の職員とも話し、他寮の話題に触れ、さまざまな視点や意見が聞けることから、ある意味職員が息を抜いて話すことができ、全員で結論を共有できる場です。
コロナ禍においては、職員間の接触を極力避けるため、この方法を変えました。各寮の代表職員が、生活上のさまざまなルール等について、自寮の子どもや職員の意見を持ち寄り検討する形としました。里親支援専門相談員の首藤文一さんは「寮代表職員は、これまで各寮の議題を集め、それを整理して提案をまとめる位置づけだった。しかしこの状況下で役割が大きくなり、少人数で方針を決めることへの戸惑いが見られた。細かいことも寮に持ち帰って検討することで意思決定に普段以上に時間がかかるようになり、全職員への検討経緯の共有も難しかった」と言います。一方で、法人として品川景徳学園の運営が10年目を迎える中で「今回、在職4~8年目の若手が寮代表を経験した。成長が見られ、人材育成にもつながる機会になった」と髙橋さんは言います。
生活上のルールや制限を新たに作ったり強めたりすることには、当然子どもの反発があります。その気持ちは寮の担当職員に向かいやすいことから、コロナ禍での対応については、すべて園長から学園全体の方針として知らせ、子どもたちに協力を求めました。同時に、不安を和らげるため、新型コロナの情報をわかりやすくまとめたお知らせを配布したり、気持ちを聞くなどして、感染症への予防学習と気持ちのケアに努めました。
今後、学園の意思決定や意見集約のしくみなどについて、改めて振り返り、検討する予定です。
◆食事で生活の楽しみを模索
食事は生活の土台であり、大きな楽しみの一つです。同園では、「半調理」という方法で、途中まで調理室で作り、その後各寮にて職員が加熱調理する形で食事を仕上げています。
普段は、調理員が寮で子どもと会食したり、料理に興味のある子が調理室に来て、一緒に食事をつくるなどしています。栄養士の岡崎典子さんは「学園の調理室は『第2の保健室』のような場。調理室に子どもの出入りができない施設もあるようだが、ここでは出入りは自由にしている。寮の職員には話せないことを調理員と話したり、寮に居づらい子がふらっと来たりと、子どもにとても近い存在」と言います。
しかし、3月以降は、仮に調理員が感染すると食事提供できなくなるという危機感から、やむを得ず調理室への子どもの出入りや、調理員が児童棟に入ることを中止しました。食事はすべて調理室で仕上げ、各寮の職員が時間差で受け取りに来ています。また、調理員の健康管理には特に気を使い、徹底しています。
夏休みのキャンプや夕涼み会などの行事が中止される中、食事だけでも楽しめるようにと、新たに「お弁当給食」を始めました。この日はあまり栄養価等を気にせず、普段の給食にはない楽しみを感じられるよう、お弁当の形で食事提供しています。
これまでに3回実施し、この日は寮ごとにレジャーシートを敷いて食べたり、夏には焼きそば、ラムネ、かき氷などの「お弁当給食」を浴衣や甚平を着て、祭りのようにBGMを流す中で食べるなど、子どもたちを楽しませるよう寮の職員も協力して盛り上げています。
岡崎さんは、「子どもと直接関われない中で、調理室としても少しでも楽しみを増やせるよう、これからも工夫して支えたい」と言います。
園長の髙橋さんは「子どもだけでなく、感染症を持ち込まないよう気を抜けない日々が続く職員も安心感を持てるよう、ここまでの気づきを大切に、学園として今後の対応を考えていきたい」と語ります。
お弁当給食「景徳べんとう」の一例①(5月) お弁当給食「景徳べんとう」の一例②(8月)
品川景徳学園 外観
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