福祉サービス運営適正化委員会
運営適正化委員会 制度開始から20年
掲載日:2020年11月10日
2020年11月号 NOW

 

あらまし

  • 「運営適正化委員会」は、福祉サービス利用者の苦情などを適切に解決し利用者の権利を擁護する目的で、平成12年6月の社会福祉法改正後に全国でスタートしました。
    東京都では、平成12年10月に設置され、20年が経過しました。
    今号では、東京における「福祉サービス運営適正化委員会」について、相談内容から見えてきたことをお伝えします。

 

昭和26年の社会福祉事業法制定以来の、日本の福祉制度の大きな転換が図られた平成12年6月の「社会福祉基礎構造改革」から20年が経ちました。「利用者本位」「措置から契約へ」「多様な事業主体の参入」などが打ち出され、その後の福祉事業の展開に大きな影響を与えた改革でした。

 

前後して、介護保険制度が導入され、行政処分によりサービス内容を決定する措置から、事業者と対等な関係に基づき利用者がサービスを選択し、契約を結んでサービスを利用する制度が始まりました。

 

しかし、対等な関係を前提としているといっても、知識、情報量、交渉力などは利用者より事業者のほうが優位なため、利用者が不利益を被らないように「利用者保護のための制度」もあわせて創設されました。
その利用者保護の制度として、福祉サービスの利用を支援する地域福祉権利擁護事業(平成19年から「日常生活自立支援事業」の名称を使用)(※)とともに導入されたのが「苦情解決のしくみ」です。

 

(※)東京では、事業創設の趣旨を大切にするため、現在も「地域福祉権利擁護事業」の名称を使用しています。

 

運営適正化委員会とは

運営適正化委員会は、「苦情解決のしくみ」として、社会福祉法に位置づけられ、都道府県社会福祉協議会に設置されています。

 

社会福祉法第83条には、「福祉サービス利用援助事業の適正な運営を確保するとともに、福祉サービスに関する利用者等からの苦情を適切に解決するため、都道府県社会福祉協議会に、人格が高潔であって、社会福祉に関する識見を有し、かつ、社会福祉、法律又は医療に関し、学識経験を有する者で構成される、運営適正化委員会を置く」と規定されています。

 

この条文にあるように、運営適正化委員会には二つの役割があります。一つは、都道府県社会福祉協議会が区市町村社会福祉協議会等と協力して実施する「福祉サービス利用援助事業」(地域福祉権利擁護事業)について、福祉サービスの利用援助や、利用者の日常的な金銭管理や書類の預かり等が適切に運営されているかを調査し、助言・勧告する役割です(利用援助合議体)。

 

もう一つは、福祉サービスの利用者が、事業者とのトラブルを自力で解決できないとき、専門知識を備えた委員が中立な立場から解決に向けて仲介します。『事業者が誠意ある対応をしない』『更なる不利益を恐れ、苦情を言うこともできない』『問題があると思うが、どうしたら良いか分からない』などのご相談に、対応方法の紹介や状況の調査、解決に向けた調整などを行います(苦情解決合議体)。

 

東京では、「福祉サービス運営適正化委員会(以下、委員会)」の名称で東京都社会福祉協議会に設置されています。前述の二つの役割に公正・中立に対応するため、社会福祉法第83条に則った外部の有識者19名で構成され、東京都社会福祉協議会の他の活動から独立して運営されています。苦情には大学教授、弁護士、医師などの専門家が対応します。

 

安心して自立した生活が送れるように~地域福祉権利擁護事業の適切な運営確保

地域福祉権利擁護事業は、平成11年10月、介護保険制度の開始と合わせスタートした事業です。認知症、知的障害、精神障害などにより一人では適切に判断することが難しい人を対象に、契約に基づき、福祉サービスの利用に関する相談に応じ、その選択、利用について利用者自身の自己決定を支援することを目的としています。

 

現在、都内ではすべての区市町村で社会福祉協議会等が地域福祉権利擁護事業を実施し、契約件数は3千801件(令和2年8月末現在)にのぼっています。

 

「利用援助合議体」では、毎年、9~10か所の実施団体の現地調査を行い、個々の利用者の支援計画と実際の支援状況に齟齬はないか、利用者のモニタリングはできているか、ケースは正確に記録し適切に保管されているか、金銭管理は適切に行われているかなど、利用者への支援の充実と事故防止の観点から、支援面、運営面の問題点をきめ細かく掘り起こし、その改善に向けて、課題を提起しています。

 

増加する苦情相談から見え隠れするもの

もう一つの「苦情解決合議体」では、利用者や家族からの苦情に対応し、利用者にとっての真の利益、権利擁護の観点から問題の解決に努めています。東京では、苦情対応の対象として、社会福祉法第2条に位置づけられた福祉サービスに加え、東京都からの要請を受け、認証保育所にも対応しています。

 

この20年の間に、福祉を取り巻く状況は大きく変わりました。特に障害分野では、平成17年に障害者自立支援法ができ、平成24年には障害者総合支援法となる中、サービスの供給量が増え、それに伴い相談も増え【図1】、現在では、相談数の7割を障害分野の相談が占めています。

 

相談者は、令和元年度には福祉サービスの利用者本人が7割近くを占め【図2】、 主訴を丁寧に確認しながら、事実関係を整理するとともに、今後の生活の安定につながる方策を考えて対応しなければならないケースが増えています。

 

また、福祉サービス提供主体が増加し、多様化する中で、利用者の特性への理解や配慮が足りず、職員の言動や丁寧な説明の不足によるトラブルが増えてきています。加えて福祉人材の確保が厳しい状況が、サービスの中止や縮小につながり、苦情となって表れています。【図3】

 

そして、本来、苦情の対応は、第一義的に事業者において適切に行うことが求められますが、第三者委員など苦情対応のためのしくみが未だ十分機能しているとは言い難い状況が相談からうかがえます。

 

相談者の中には、地域の中で孤立し、排除され、「心のSOS」を委員会の相談で訴える利用者や家族が少なくないことも昨今の状況です。

 

 

 

 

 

より身近な地域で~3段階の東京独自のしくみ

東京都内における苦情対応のしくみは、3段階あります。まずは、事業者が設ける苦情受付窓口や第三者委員です。

 

しかし、苦情や不満を言い出しにくい場合や当事者同士では解決できない場合は、東京都独自のしくみとして設置されている「区市町村苦情対応機関」が対応します。東京では、利用者の身近な地域で苦情対応が迅速に行われ、苦情対応にとどまらず次の支援につなげていくことができる重要なしくみとして、区市町村が苦情対応の中心的な役割を担うことが期待されています。

 

区市町村段階において解決できない場合や地元では相談しにくい場合のために、委員会や東京都国民健康保険団体(介護保険サービスの苦情相談窓口)が設置されています。

 

多様で根深い苦情案件をひとつひとつ適切に解決するためには、委員会のような広域の紛争解決機関だけでは限界があるといえます。

 

コロナ禍の今、身近な区市町村苦情対応機関への期待は益々大きくなると思われます。委員会として、今後も行政や苦情対応機関をはじめ、地域のさまざまな機関や関係者と連携し、福祉サービスにおける地域に根差した権利擁護の体制づくりに寄与していきたいと考えます。

 

取材先
名称
福祉サービス運営適正化委員会
概要
福祉サービス運営適正化委員会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/tekiseika/index.html
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