ダッチ―さん(ペンネーム・60代男性)
手記を通して路上生活での 経験や思いを伝えたい
掲載日:2020年12月1日
2020年11月号 くらし今ひと

 

あらまし

  • ダッチ―さん(ペンネーム・60代男性)は、約3年前から路上生活を送る傍ら、過去にSF作家をめざしていた文才を活かして自らの経験を文字に書き起こしています。今回は現在執筆中の手記の一部を紹介しながら、現在のダッチーさんの暮らしや思いについてお話いただいたことを紹介します。
    ※『 』内は手記の一部を原文のまま抜粋したものです。

 

路上生活者を全て同一視しないでほしい

『ホームレスの9割はいい人です。まともです。多少、「俺は、僕は、私は」と我が道を征く我の強さはありますし、口の悪いものもいるけど、気の良い者達で、コミュニケーション取れています。(中略)ホームレスにもいろいろとあるんです。一般社会と同じだから。人が集まればグループが生まれ、やることが違えば、ジャンル分けされるんです』

 

路上生活者と聞くといろんなイメージを持つと思いますが、一人の人間です。私を見て、優しく声をかけてくれる人もいれば、冷たい目線を送る人もいます。周囲の目が気にならないといったらウソになりますが、気にしていても仕方ないと思っています。

 

『路上生活者にとって最大の支援者は人ですが、最凶の敵も人なんです』

 

文字を通して自分の経験を伝えたい

お世話になっている教会の人に作家をめざしていたことを話すと「これまでの暮らしについて書いてみたら」と言われたことが手記(*)を書こうと思ったきっかけです。路上生活者の現状、現況を知ってもらう機会になればという思いで自分の経験を書いています。私自身もそうですが、路上生活者の多くは”自分がホームレスになるなんて思っていなかった人々”なんではないでしょうか。人生何があるか分かりません。当時のリアルな心境やその時どう行動したか、現在の暮らしについて自分の経験を文字を通して伝えることで、何らかの理由で悩んでいる方や路頭に迷った方などのいざという時の「HOW TO」物にできたらよいと思っています。手記はまだ一章分しか完成していません。まだまだ書きたいことがあるし、構成もすでに考えてあります。

 

人は一人では生きられない

『寝れる場所があっても、眠れるとは限らない。(中略)疲れは目一杯なのに、寝ようとすると眠れない。寝ても、5分10分で起きてしまう。寝てはいけない所で、スッと落ちて、起こされる』

 

寝る場所には何度も悩まされました。人目が付くところで寝れば警備員に声をかけられ、いつの間にか貴重品がなくなっていたこともあります。今は、都心の公園で仲間とテント生活を送っています。しばらくはここで暮らせそうですが、立ち退くように言われれば、また別の場所を探さなければなりません。普段はテント付近で生活していますが、炊き出しがあれば仲間とともに出かけます。炊き出しの情報は、口コミで教えてもらうことが多いです。

 

路上生活を送る前までの生活は、自分にとって孤独でした。内臓系の疾患を抱え、体調はあまりよくなかったんですが、外見からは分かりづらいため怠惰な人間だと思われ、心無いことを言われたこともあり、社会的に居場所がないように感じる日々でした。当時から自由に、思いのままに暮らしたいという願望がありました。

 

『食うものがあって、寝る所があれば、この生活もそう悪いもんじゃないですよ。最初はキツかったけど、気の合う話し相手が出来て笑って過ごせる時間が大幅に増え、結構楽しんでいる日々です』

 

その時々に自分なりに幸せを見つけてきたんで、過去と比較して悲観することはありません。今はさまざまなしがらみから解放されたし、自由です。仲間は特に共通の話題があるわけではないですが、比較し合ったり、互いに干渉しすぎたりせず、心地よい関係です。人はやっぱり一人では生きられません。頼れる仲間、支え合える仲間がいる今は幸せです。

 

*ダッチ―さんの手記の一部は下記URLから読むことができます。
https://note.com/dachi_encrg

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