(社福)新宿区社会福祉協議会、(社福)文京区社会福祉協議会
「新型コロナウイルス感染症に伴う特例貸付(緊急小口資金・総合支援資金)」の実施におけるこれまでの状況、そして今後への課題
掲載日:2020年12月8日
2020年12月号 NOW

 

 

あらまし

  • 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染拡大により経済活動が大きく影響をうける中、公的な経済支援策として、いち早く動いたのが、生活福祉資金貸付制度による「緊急小口資金・総合支援資金【特例貸付】(以下、特例貸付)」です。
    生活福祉資金貸付制度そのものは、戦後の民生児童委員による「世帯更生運動」に端を発します。昭和30年に制度化され、低所得世帯の「経済的自立と安定した生活」を目的に「相談と貸付」を手段として、都道府県社協を実施主体、区市町村社協を窓口に民生児童委員とともに支援を行う第一種社会福祉事業として今に続いています。今回の「特例貸付」では、新型コロナの影響を受けた多くの方に、いち早く簡便な手続きで、感染防止を図りながら広く貸付を行う、という命題の中、通常とは異なる対応が求められました。そこには、さまざまな葛藤と、また、新たに見えた課題もありました。
    今号では、東京におけるこの特例貸付の状況をお伝えするとともに、これからを考えます。

 

◆特例貸付の全体状況

特例貸付は、新型コロナの影響を受けて減収した世帯に対する支援策として、国の通知により、令和2年3月25日から全国の社協で一斉に開始されました。その後、4月7日に緊急事態宣言が発令され、急増する減収・失業者に対応するため、国による要件緩和や条件変更が立て続けに行われました。申請受付期間も2回延長され、貸付の申請件数は10月末日時点で全国で約154万8千件と未曾有の規模となっています。東京での申請はおおよそ27万6千件と、全国の2割弱を占めています。その背景には、特に東京の人口の多さ、1世帯あたりの人数の少なさによる世帯数の多さ、サービス業に従事する就業人口の多さなどがあると考えられます。なお、都内でも申請数の地域差はあり、特に区部に利用が集中しています。

 

◆窓口体制の限界と事業理念との葛藤

生活福祉資金貸付制度の「特例貸付」は、これまでも地震や風水害などの災害時に、国の通知により実施してきました。しかし、今回がこれまでと異なるのは、新型コロナの感染防止と殺到する申請数への対応、何よりいち早く現金を必要とするニーズに対応するため、途中から手続きの簡便化、郵送申請の導入、社協だけでなく労働金庫や郵便局での受付という対応を、順次行っていったことにあります。

 

今回の特例貸付では、普段の体制では対応しきれず、東社協も含め多くの社協で職員を総動員し、外部からの応援体制も構築して対応してきました。当初は、どこの社協でも感染防止に配慮しながら、これまで通り社協窓口での相談対応をしてきました。しかし、数への対応が追いつかず、そのことによるクレームに職員が応じることで、さらに人員が不足してしまうという状況もありました。こうした状況から、4月末から5月末にかけて、国が受付窓口の外部委託化と郵送受付の導入を決定しました。

 

一時的な貸付で生活を立て直せる世帯もある一方、新たな福祉課題を抱える世帯もあります。外部委託や郵送による申請(*1)の導入は、後者の方々への相談による支援を難しくすることにつながります。区市町村社協の窓口では「早期に送金すること」を優先しつつも、本事業の本来の役割『相談と貸付による支援で、世帯の経済的自立と安定した生活をめざす』との間で葛藤を抱えながら、できうる範囲で本来の役割をどう果たせるか模索していました。

 

以下、都内でも有数の繁華街を有し、申請者が特に多かった新宿区社協と、区部では比較的申請数が落ち着いており、できる限り世帯への相談支援に取り組んでいる文京区社協から、これまでの取組みと、今回の特例貸付をふまえての今後の社協としての課題を聞きました。

 

(*1)生活福祉資金の窓口を社協以外に拡充するのは制度創設以来初めての対応。申請先を分散させることで、事務負担を軽減し貸付までの時間短縮を目的とした。郵送申請は、新型コロナの感染予防という側面はあるものの、借入希望者と一度も対面しない中での貸付は、今までの運用では想定していない対応となった。

 

「速やかに、臨機応変に、オール社協で」~新宿区社協の取組み~

◆受付業務+αを意識して

新宿区社協の10月末現在での申請件数は約1万5千件強に上っています。これは、都内で2番目に多い件数です。

3月25日の受付開始前から問い合わせが増え、相談予約受付を3月17日から前倒しで開始することとしました。

 

当初は、生活福祉資金の担当者4名を中心に対応する予定でした。しかし、申請件数の急増から、4月2日に全常勤職員を対象に研修を行い、他部署からの応援も受け「オール社協」体制で対応することとしました。

 

【新宿区社協】

総合相談・自立相談支援 担当課長 横田 恵里さん

 

5月、連休を境に更に相談が増え、相談予約は一か月半待ちとなりました。「大変なことになったと感じた」と、総合相談・自立相談支援担当課長の横田恵里さんは当時を振り返ります。そこで、体制を更に拡大し相談枠を広げ、待機者約300人に、相談日を前倒しする再調整の電話をかけました。郵送申請も受け付けることとしました。しかし、郵送申請により申請者の状況が見えにくくなった面があることも事実です。制度の趣旨である「相談支援」が難しくなる状況に、職員は葛藤を抱えたと言います。「今回の特例貸付は、必要な人に速やかに貸し付けることが優先されるのだ、と自分を納得させ、対応した」と横田さんは言います。

 

【新宿区社協】

主事 須藤 潤さん

 

相談でなく受付業務の色合いが濃くなる中、それでも職員は「+α」を意識して対応しました。例えば、相談者の目につくところにボランティア活動のポスターや社協以外の相談先一覧などを掲示しました。「相談者には『体だけは気を付けてくださいね』『頑張りましょうね』など、その人に合わせて一言添えることを必ず行うようにした」と同担当の須藤潤さんは言います。中には、申請手続きの際、町内会に関心を持っていることが分かり、地域につなげた外国人の方もいました。 、、

 

【新宿区社協】入口付近での多言語による看板

 

◆申請者の状況・これまで接点が少なかった層
申請者の職業は、会社員だけなく飲食業、芸能関係など多岐に渡ります。月収50万や100万など、高収入であったにも関わらず貯金をしていなかったため突然困窮したという相談もありました。困窮は必ずしも低所得の方たちだけの問題ではありません。特例貸付の相談で、これまで生活福祉資金の相談では出会わなかった方々に出会うことになりました。また、風俗で働く女性からは「この職業では相談できないと思った。相談できて良かった」という言葉がありました。「相談してほしい人ほど相談に来られていなかったのだと痛感した」と横田さんは言います。

 

新宿区での申請の特徴に、外国人が申請者の約4割を占めていることがあげられます。「ギリギリの生活をしている外国人の住民がいる。不安定な就労形態や、日本語が得意でないことから、悪条件で働いていても交渉できないなど、外国人の立場が弱いことがよく見えてきた」と須藤さんは言います。

 

◆これからの取組み・総合相談機能を活かす
新宿区社協では、生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援機関を区から受託しています。部署は生活福祉資金と同じで、ボランティア・市民活動センターの中に総合相談窓口として設置されています。「今後の償還(返済)業務では、自立相談支援と一体的に働きかけをしていく。むしろ、償還免除(*2)になった世帯こそ、本来支援を必要としている世帯と考えている。総合相談の窓口としても、社協の各部門を超えた対応をしていきたい」と横田さんは語ります。

 

また、地域への働きかけにもつなげる予定です。新宿区社協内に、理事会の補助機関で地域住民や専門職が日常生活圏域ごとに話し合う場である「社協部会」があります。今年度のテーマは『支援の隙間に埋もれるニーズに気づき、つなげる地域になるには』です。「特例貸付から見えた課題を提起し、地域の人に気づき、考えてもらい、この機会を新しい展開につなげていきたい」と横田さんは語ります。

 

(*2)国は「償還時において、なお所得の減少が続く住民税非課税世帯の償還を免除することができる(厚労省HPより)」としている。なお、11月25日現在、償還免除のための具体的な手続きや基準は示されていない。

 

「貸付だけでは解決しない。今後もつながりつづけるために」~文京区社協の取組み~

◆緊急事態宣言から社協全体での応援体制に

文京区は、東京23区内のほぼ中央に位置する歴史ある地域で、人口は区部では19番目です。通常の生活福祉資金は職員2名が他の業務と兼務で対応しています。しかし、特例貸付がスタートした3月25日は電話が鳴りやまず、緊急事態宣言からは社協全体での応援体制に切り替えました。

 

◆相談・申請者の状況から改めて認識したこと
相談を通し、「改めて就業形態の多様化を目の当たりにした」と特例貸付担当チームの根本真紀さんは言います。特に「雇用契約ではなく、実は個人事業主で仕事は請負というケースの多さに驚いた。仕事を切られると収入はゼロになる。雇用保険などの社会保障の対象にならない。国が考えているような『休業補償がされれば大丈夫』という状況ではない」と根本さんは指摘します。その他、年金額が低く生活費の補填のためにしていた仕事をなくした高齢者、正規でもダブルワークで生活を維持している人たちもいました。

 

【文京区社協】
特例貸付チーム 根本 真紀さん

 

外国人は約2割で、その国籍の内訳は10か国以上に上りました。「こんなに多くの外国人の住民がいることを改めて知った。外国人支援と同時に、排除ではなく共生につながるよう、地域への働きかけも必要性を感じている」と根本さんは言います。

 

【文京区社協】
ミャンマー語、やさしい日本語、英語による延長貸付の手紙

 

◆事務処理センターなら社協でなくていい
文京区での申請受付件数は、10月末日現在で約3千件です。郵送申込は、そのうち約47%を占めます。「一時、事務処理センターのようになり、ジレンマがあった」と同貸付チームの伊藤真由子さんは振り返ります。

 

現在、文京区社協では、申請書類の郵送請求には、新型コロナの支援策を文京区民向けにまとめた資料を同封し、必要と思われる情報を確実に届けるようにしています。また、申請書類到着後には、一人ひとりに電話をかけ、会えない申請者とも双方向の接点を持つようにしています。「申請書から明らかに生きづらさが伝わって来るような人もいる。隠れた困りごとをどうキャッチしていくか。難しいが心がけている」と、根本さんは言います。電話や申請受付の際には、どの職員が対応しても一定のアセスメントができるよう、内部研修や、聞き取り事項の標準化のためのシートも作成しました。

 

また、世帯を支えるための支援においても、他制度につなぐ、インフォーマルな資源につなぐ、新たな支援のしくみをつくる(*3)などの取組みを行っています。

 

総合支援資金の延長貸付終了時にも、今後の生活の見通しについて、確認の電話をかけています。状況によっては必要な支援につなぐためです。しかし、「もうこれ以上の貸付ができない中で、本人の気持ちを相談にもっていくのが難しい。だからこそ、初回の申請時のときに『貸付終了時にまた連絡するから、その時に困ったことがあれば一緒に考えましょう』という導線をつくっておく必要を感じている」と根本さんは言います。

 

(*3)福祉広報10月号Topics、学生パントリーの記事
「食料支援・相談会が学生の地域活動への興味や関心のきっかけにも」参照

 

◆つながり続ける支援を
「文京区社協はどちらかというと居場所づくりなどの地域支援で注目を浴びてきた。今回は職員全体が困窮者の問題や個別の方への支援に関われたのは良い機会になった」と根本さんは言います。また「お金を貸すだけでは解決しない。背景の不安に寄り添い、何かあったときに相談してもらえるつながりをこの先どうつくれるか。昨年の国の地域共生社会推進検討会(*4)で、支援の両輪として『具体的な課題解決を目指すアプローチ』と、『つながり続けるアプローチ』の必要性が提起されたが、後者の方が圧倒的に足りていない。社協のとりくむべきはここではないか。今回の特例貸付で、これまでどこにも相談に行かなかった人たちに出会えている。どこまでしっかりとつながりを切らないでいけるかはチャレンジだ」と根本さんは語ります。

 

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特例貸付は、貸付期間(両資金で最大7か月間)のあと、1年の据置期間を経て、緊急小口資金で2年間、総合支援資金で10年間の償還(返済)期間を迎えます。償還が滞った世帯にはさらに長い期間関わります。不正な借入れや貸付対象外の方への対応もあります。具体的な実務や社協の体制上の課題は、これからも山積しているのが実情です。

 

しかし、一方、今回の特例貸付を通じて、社協がこれまで接点が持てていなかった住民と出会い、コロナ禍での生活課題を知り、今まで見えていなかった地域課題を知る機会ともなりました。これからにおいてこそ、社協が取り組む意味が問われ、また、活かされるところであるといえます。

 

(*4)正式名称:地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会

取材先
名称
(社福)新宿区社会福祉協議会、(社福)文京区社会福祉協議会
概要
(社福)新宿区社会福祉協議会
http://www.shinjuku-shakyo.jp/
(社福)文京区社会福祉協議会
http://www.bunsyakyo.or.jp/
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