交流室にアルコールの手指消毒と透明なパーテーションを設置
東村山市にあるグループホームみのり荘(以下、みのり荘)は、精神障害者が地域で自立した生活ができるよう、居住の場の提供と日常生活において必要な援助を行うとともに、単身生活への移行を図るための取組みや援助をする定員7人の通過型(原則3年)のグループホームです。グループホーム(共同生活援助)以外の事業として、精神科病院やグループホーム等から一人暮らしに移行した方等が自立した生活を営めるよう定期的な訪問等の支援を行う自立生活援助や、都の事業である精神障害者地域移行体制整備支援事業のグループホーム活用型ショートステイ事業を行っています。
感染対策について
みのり荘では、これまでも手洗いや次亜塩素酸ナトリウムでドアノブやトイレ、受話器を拭く等の一般的な感染症対策をとってきました。新型コロナの対策としてはそれに加えて、建物がアパートタイプで入居者の居室は分かれているため、特に共用部分での対策が必要でした。
入居者や職員が触れる箇所は毎日アルコール消毒をするように変更し、3月から交流室を利用する際の人数と時間の制限を設けました。また、入室前には検温をし、手洗いの方法を水道の前に貼り、うまく洗えない方には職員が指導しました。そして、交流室には畳の上に低いテーブルを置いていましたが、一人ひとりのスペースを区切るためと、部屋の模様替えによる気分一新のためもあり、カーペットを敷いてテーブルとイスにしたうえで、テーブルにはパーテーションを設置しました。
家具や電化製品などの大きなものは職員が入居者と一緒に近くの店に買いに行っていましたが、ネットショッピングを活用することが増えました。
そのほかに、以前は交流室の鍵は開けていて、入居者が相談したい場合などには自由に入ってもらうことができました。しかし、感染予防を第一に考え、交流室に入る前には、設置したテレビドアフォンで用件を聞き、職員が鍵を開け、手洗いを行ってもらった上で入ってもらうという手順を踏むことにしました。施設長の松原乃理子さんは「職員も新型コロナについてとても不安があった。入居者もはじめは戸惑ったかもしれない。未知の感染症に対してどのように対策していくか試行錯誤だった」と振り返ります。
感染が拡大し始めると、マスクやアルコールは職員が探し回りましたがどこにも売っていない状況となりました。そのような中、3月下旬には厚労省から布マスクを、市からは5月と7月に紙マスク、10月には防護服をもらうことができました。また、東村山市社会福祉協議会の東村山ボランティアセンターの職員が大きな寄せ書き(写真)を事業所に持参してくれました。松原さんは「障害分野はなかなか注目されにくい分野であると思うが、物品が届いたことで見捨てられていないという気持ちになり、職員の力になった。とてもありがたかった」と話します。
緊急事態宣言期間中は職員体制についても、必要に応じて在宅勤務や退勤時間を早くするなどの対応をとりました。
東村山ボランティアセンターから届けられた寄書き
イベントは全て中止
新型コロナの影響が出る以前はイベントを多く行っていました。納涼会やクリスマス会、忘年会、お正月などの季節の行事や年一回の遠方への外出行事のほか、水曜日の午後にはレクリエーションや看護師のボランティアによる体操教室が行われていました。しかし、感染が拡大してきたことにより令和2年3月から現在(11月10日取材時点)までイベントやボランティアの受入れは中止しています。
中止したものがある一方、新たな取組みとして始まったものもあります。以前は週1回行っていた夕食会を3月から中止しましたが、同じ時期に東村山市で「#東村山エール飯」としてテイクアウトで飲食店を応援する取組みが開始され、市内のいろいろな飲食店がテイクアウトのお弁当を販売していたため、夕食会に代えて週2回お弁当を購入し入居者・退居者に提供することを始めました。入居者・退居者からの評判もとてもよく、現在も続けています。
作業所やデイケアも休止に
感染拡大の影響は、入居者が日中通っている作業所や精神科病院のデイケアにもおよび、休止になるところもありました。中には数か月間もデイケアが休止、外来も中止となり電話受診となった病院もありました。松原さんは「デイケア等が休止となる中、緊急事態宣言期間中には友人と会う等の不要不急の外出も控えてもらった。外出や人と会うことは感染リスクも高くなるが、そのような機会が無くなると気持ちが落ち込んでしまう方もいる。つまらない、さみしいという思いもあったかもしれないが、なるべくそうならないように、時間を限定して交流室で対面で話したり、職員が頻繁に電話で話をするなど工夫しながら個別にサポートしていった」と話します。
コロナ禍でショートステイ事業の利用に変化が
自立生活援助事業では、国の通知(※)に基づき、新型コロナ感染防止の観点から訪問ではなく電話による対応でもよいことになりましたが、退居直後の方に電話だけというわけにはいきませんでした。松原さんは「共同生活から一人暮らしを始めるには、引っ越しや家具等の準備、買い物、掃除などをしなければならない。退居者の不安は大きく、生活に慣れるまでは時間がかかるため、退居後は訪問での支援が必要」と話します。
また、都事業のショートステイ事業では精神科病院に入院している精神障害者で病状が安定している方や、地域の受入条件が整えば退院可能であり退院を希望している方に対して、地域生活のイメージ作りのための買い物、炊事などの体験等を支援し、退院への不安の軽減や退院に向けた動機づけを行います。東村山市付近には多くの精神科病院があり、退院に向けて多くの方が、みのり荘でショートステイ事業を利用していました。しかし、外出禁止となった病院も多く、4月以降は病院からの利用は減りました。部屋が空いていた場合には、ショートステイ事業の利用を希望する地域で生活する精神障害者も受け入れることができるため、病院からの利用が減る中で、現在は地域で生活する方の利用が多くなっています。松原さんは「今までは入院している方の地域移行の支援ということでやってきたが、地域で生活する方への支援内容はそれとはまた異なる。そのため、まだこの状況に慣れない部分はあるが、当分この状態が続くと思って対応していかなければならない」と話します。
(※)新型コロナウイルス感染症に係る障害福祉サービス等事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00097.html
方向転換のチャンスと捉える
課題として「感染者が出た事業所へのバッシングもある中、実際に感染者が出た場合にその事業所がどのように対応したかという情報が入らない。今後の対応を考えていくためにも、情報共有のしくみが必要だと感じている」と松原さんは言います。
また「ここは居住の場であり、加えて小さい法人であるため、なんとか方策を考えなければコロナ禍の中、事業を続けていけない。イベント等を中止するなど大きな変化もあったが、この機会に個別支援に力を入れる方向に転換するチャンスになったと捉えている。新型コロナが収束した時にも活かせるようなことを前向きに取り組みたいと考えている」と取組みへの姿勢を話します。