(社福)慈愛会
コロナ禍で産前・産後を一人で迎える女性を支える
掲載日:2021年1月26日
2021年1月号 連載

婦人保護施設は、売春防止法(以下、売防法)に基づく自治体任意設置の施設です。平成13年より、根拠法にDV防止法も上乗せされています。全国に47、うち都内に5か所設置されています。都道府県に1か所ずつ設置された婦人相談所を通じて措置が決定された女性が、短期間入所します。

 

利用者の多くはDVや生活困窮、頼れる親族等がいないこと等を措置の理由とする方です。売防法に関連した方も、家庭崩壊等で居場所がなく、経済的にも選択肢がない中で性風俗業に就いた場合が少なくありません。措置理由を問わず、多くの方が暴力被害の経験者でもあります。

 

昭和31年制定の売防法では、そうした女性を「処罰・保護更生」の対象としています。自立に向けた支援を行う上で、他の福祉関連の法律のように「福祉的支援」の対象と規定されていないことが、婦人保護施設にとっての大きな課題です。都内の婦人保護施設による東社協の婦人保護施設部会では、近年、「女性自立支援法(仮称)」制定に向けた活動をしています。

 

周産期に特化した施設として

社会福祉法人慈愛会「慈愛寮」は全国で唯一、周産期に特化した婦人保護施設です。予期せぬ妊娠、パートナーの暴力や逃亡、頼る実家がないなど、さまざまな理由から一人で産前産後の時を過ごさざるを得ない女性を支援しています。母子あわせて40人定員です。

 

平均的な利用期間は、産前1か月から産後2、3か月頃までの約3~4か月間です。この間、利用者は無償で生活の場や食事、日用品購入費等の提供を受けます。また、出産や育児、生活全般の助言や支援を受け、退所後の地域生活に向けた準備をしていきます。

 

退所後は、約半数が母子生活支援施設等での生活に移ります。地域のアパート等での生活を始める方や帰郷する方もいる状況です。

 

慈愛寮 玄関

 

妊産婦と新生児を守るために

慈愛寮は、もともと感染症へのリスクが高い妊産婦と新生児が生活する場です。そのため、居室は平成24年の改築後より個室とし、日頃から感染症予防対策を徹底しています。しかし新型コロナ対策については、当初は情報が少ない中で、正確な情報を集めつつ、手探りですすめてきました。

 

まず3月に緊急職員会議を開き、「新型コロナ対策ガイドライン」を作成しました。併せて全職員が気になることや提案を書き込めるボードを設置し、職員それぞれの気づきを随時記入していきました。記入された内容に応じて職員間ですぐに協議し、必要な場合には嘱託医にも電話相談するなどして、随時対応を更新し、可能な限り対策をはかってきました。

 

「ステイルーム」を徹底し、衛生管理、健康支援を行う

慈愛寮では、もともと今年、衛生管理向上と器具入れ替えのため、厨房・食堂の改修工事を予定していました。緊急事態宣言期間とも重なった5月から約2か月の工事期間中は、3階の会議室等を食堂代わりに使用し、弁当を3食提供しました。

 

工事終了後は、食堂のテーブルを小テーブルに買い替え、密を避けて食事ができるようにしています。食堂内も以前に増して季節感のあふれる飾りつけをし、クッキングの雑誌を置き、ちょっとした育児の知恵等の情報も掲示するなど、気持ちが和らぐ居場所づくりをしています。

 

また、ラウンジには、夜間の授乳時等にリラックスして過ごせるようソファを設置していましたが、現在はそれをしまい、少人数のプログラム実施のために使用するスペースにしています。その代わりに、各居室内で過ごす「ステイルーム」を楽しめるように、DVDプレーヤーを購入し各居室に設置しました。最初は職員が自宅からDVDを持ち寄り、その後、教養娯楽費でも買い足して充実させ、レンタルDVDコーナーをつくるなど、工夫しています。

 

施設長の熊谷真弓さんは「利用者に不自由をお願いすることになったが、命を守ることを第一とした。『ステイルーム』の趣旨をお話しし、個別中心の支援、三密を避けたプログラムを工夫した」と言います。

 

改修後の食堂。母子1組ごとに間隔をあけて座席を配置。季節の飾りつけを工夫。

 

「ステイルーム」でも楽しみを得られるようレンタルDVDコーナーを設置

 

不安や孤独の解消に向けた支援

入所型施設は、設備や環境自体、利用者が集まり交流できるようつくられています。慈愛寮も同様で、交流できるスペースを多く備えています。日頃はそのスペースで、手芸やヨガ、ベビーマッサージなどさまざまなプログラムや産婦人科医や小児科医、弁護士による講座等を実施しています。これらを通じ、オープンな育児支援を行い、利用者同士や職員との交流を促してきました。また、退所者への支援として、月一回、退所者専用のスペースで「たんぽぽの会」として、10組の交流会を行っています。

 

コロナ禍では、三密を避けるため、集合型のプログラムの実施方法を見直さざるを得ない状況です。外部講師によるプログラムは一時休止したり、内容に応じて、時間短縮し各回の参加人数を減らし二部制にするなど、工夫して実施しています。

 

そうした中、利用者に対しては、通常の意見箱の設置に加え、6月と11月に新型コロナ対策についてのアンケートを行いました。慈愛寮の行う新型コロナ対策への意見や思いなどを記入してもらうことを意図したものです。そこでは、施設の対策への不満や意見は少なく、新型コロナに自身や赤ちゃんが感染することや、外出した際にウイルスを施設に持ち込むことへの不安の声が多く寄せられました。それに対しては、調べ得る限り正しい情報の提供をし、皆が安心して生活できるよう支え続けました。

 

熊谷さんは「地域で生きていくには、他者と適切な関係を築く力をつけることが必要。しかしコロナ禍において、積極的に人と交流することには制限が多い状況にある。それでも、支援員、保育士、心理職、看護師、栄養士・調理員、事務員、警備・整備と、多職種の職員がそれぞれの専門性を活かし、不安や孤独感の軽減と今できる交流の提供のため、一対一でのフォローや個別対応プログラムに丁寧に取り組んできた」と語ります。

 

必要な対策には他施設と連携し、要望もしながら取り組む

こうした対応に加え、慈愛寮では、衛生環境をより向上させるため、かねてから希望していた全トイレへの上蓋と、全居室内への洗える畳の設置を行いました。新型コロナ対策の補助金(「児童養護施設等の生活向上のための環境改善事業補助金」)を婦人保護施設も活用できるよう、他施設と連携して要望し、補助対象とされ実現したものです。熊谷さんは「措置費だけでは運営が厳しい婦人保護施設にとって、こうした補助金が活用できたことには大変大きな意味がある」と言います。

 

職員間では、ともに困難を乗り切ってきたチームとして、自覚やモチベーションが高まっているそうです。

 

熊谷さんは「コロナ禍で、失業や在宅勤務が増える中、ストレスの増大からDV等の暴力が増加している。また、生活に困窮する女性も増えている。これからも職員や他の婦人保護施設等との連携のもと、女性と子どもたちを守り、地域での自立を目指した支援に取り組みたい」と話されました。

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