中野区社会福祉協議会
東日本大震災から10年 Ⅱ都内避難者支援の10年と避難者の声
掲載日:2021年3月19日
2021年3月号 NOW

 

あらまし

  • 東日本大震災では、住み慣れた自宅や地元を離れて避難せざるを得ない方が数多く発生し、東京都内にも発災直後から大勢の被災者が避難しました。東社協では、都内避難者への支援として、東京都の事業である「避難者の孤立化防止事業(以下、孤立化防止事業)」および「都内避難者相談業務」を地域福祉部にて実施してきました。また、東京ボランティア・市民活動センターでは、平成25年5月に設立された「広域避難者支援連絡会in東京」の事務局として、避難者支援団体の交流等を通じ、避難者への支援の強化や地域でのネットワークづくり等に取り組んでいます。
    今号の「社会福祉NOW Ⅱ」では、都内避難者を支援してきた社協の一つである中野区社協での「孤立化防止事業」の取組みと、取組みを通じて出会った方々からお聞きしてきた声や思いを取り上げます。

 

 

発災直後より都内へ避難者を受入れ、孤立防止に向けた支援を開始

平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、東北地方を中心に甚大な被害を受け、家財を失うなどした被災者の生活環境は急激に悪化しました。また東京電力福島第一原子力発電所の事故により、翌12日には半径20㎞圏内の住民に避難指示が出されました。この影響もあり発災直後より、多くの方が着の身着のままで被災地から県内、県外各地へ避難しました。

 

東京にも多くの被災者が避難し、東京都は、同年3月17日より、東京武道館、味の素スタジアムなどに避難施設を順次開設し、緊急受入事業を開始しました。このほか親族宅や知人宅へ避難した方も大勢いました。3月中旬以降、都が確保した都営住宅や東京都住宅供給公社から提供を受けた公社住宅、国家公務員宿舎や民間借り上げ住宅の提供なども行われ、各世帯の受入れ先が徐々に決定していきました。被災地から都内への避難者数は、平成24年4月時点で最大の9千505人となりました。

 

避難生活の長期化が見込まれる中、東京都は平成23年7月に「孤立化防止事業」を開始しました。都の補助を受け東社協が実施主体となり、避難者の多い地域等の区市の社協が実施しています。自治体や町会自治会、民生児童委員等と連携し、戸別訪問や避難者が交流できるサロンの開催等を通じて、高齢者や障害者等の要配慮者を中心に避難者を支援し、孤立を防止することを目的としています。平成23年度は15社協、24年度には19社協が実施しました。避難者数の減少もあり今年度は10社協が実施しています。

 

(※1)本文中の、東京都による平成23年、24年当時の都内避難者の受入れ支援の対応や避難者数等については『東日本大震災 東京都復興支援総合記録誌(平成23年3月11日から平成26年3月31日まで)』(東京都、平成27年3月発行)の「第6章 被災者の受入支援」を引用、参照しています。

 

中野区での孤立化防止事業の実施

中野区社協では、平成23年9月より孤立化防止事業を実施しています。中野区は平成23年4月以降、避難者が主に区内の3つの都営住宅(以下、団地)に入居し、当時、都内で3番目に避難者数が多い地域となりました。うち、白鷺地区の団地には乳幼児から高齢者まで約200世帯が入居しました。入居者に対し、団地自治会や地区町会連合会による生活用品の寄贈、民生児童委員連合会での見守り、区の保健師の訪問や生活相談会等が行われました。そうした中で中野区社協は、避難者と、避難者を受け入れている地域住民との相互理解をより一層深めるために、間に立つ機関の必要性を感じていました。

 

当時、中野区社協では宮城県内の災害ボランティアセンターへの職員派遣や、区民による現地での災害支援ボランティア活動の支援も行っていました。事務局次長の秋元建策さんは「被災地支援を行っていたが、身近にいる区内避難者への支援は、人のつながりづくりをすすめる地元社協として当然、優先して実施すべきことだと感じた」と振り返ります。そこで、早急に区と調整し、孤立化防止事業の実施を決めました。

 

サロン「来らっせしらさぎ」

事業開始に合わせ、白鷺団地自治会の協力を得て、毎週金曜日に団地の集会室で、避難者の交流サロン「来らっせしらさぎ」を始めました。避難者をスタッフに迎え、近隣の方もボランティアとして参加し、社協職員も毎回参加し現在に至ります。地域活動推進課課長補佐の草野由佳さんは「長く避難生活が続く想定の中、当初から避難者同士だけでなく、避難者と地域の方がつながる場にするよう意識した」と言います。

 

サロンでは、地方紙を閲覧したりお茶を飲みながら話したりするなど、参加者は思い思いに過ごしています。男女問わず、子ども連れの方なども含め、当初多い時で1日約40人、コロナ禍前には毎回25人ほどが参加しました。季節のイベント等を実施するほか、サロンで気軽に相談できるよう月1回、弁護士や心理士、保健師、地域包括支援センター職員による専門相談も開催されています。サロンを通じて人間関係が広がり、交流が深まっています。開始から約9年半、継続的に参加する方もいます。

 

平成25年度からは、白鷺に次いで避難者が多かった上高田の団地でも「Smile!サロン」を隔週開催しました。(※2) 実施に向け開催した講座がきっかけで傾聴グループができ、このサロンが終了した現在も、メンバーが「来らっせしらさぎ」を支えています。他にもさまざまな団体、機関等と連携し、乳幼児を持つ親同士が特有の悩みを話せる子育てサロンや子どもの学習会、外出・交流イベント、避難者自身の特技や趣味を活かした活動の場等を開催してきました。

 

また、ひきこもりがちだった一人の男性避難者の「以前のように土いじりをしたい」という思いをきっかけに、平成25年6月より園芸サロン「さぎろくはたけ365」も実施しています。地域の高齢者会館の庭を利用して毎週野菜づくりをしています。近隣の男性等も参加し、居場所と役割づくりにもつながる場となりました。参加者からは「『立ち上がる力』『前を向く力』を畑から得た」等の感想が寄せられています。

 

平成23年10月からは情報紙「Smile!」を被災者向けに発行し、こうした避難者の声やサロン等の様子を随時発信しています。(※3)

 

サロン等での参加者の様子について、地域活動推進課地域ボランティア活動推進員の永嶋春美さんは「被災状況や避難の経緯、地元の復興状況や東京への思いは一人ひとり異なるため、親しい中にもお互いを気遣い、あえて深くは立ち入らず、ほっとできる日常の話をしている」と感じています。そこで、事業のもう一つの柱である戸別訪問で、個々の思いを聞いています。

 

 都内避難者支援に関わる
 中野区社協の皆さん

 

「来らっせしらさぎ」
令和元年12月のクリスマス会の様子

 

(※2)「Smile!サロン」は、上高田団地からの全避難者の退去に伴い、平成30年度で終了。
(※3)情報紙「Smile!」は令和2年12月時点で計79号を発行。

 

戸別訪問で聞く避難者の声と今後

中野区社協では、区による避難者への全戸郵送物に同封したアンケートへの回答や、サロン等の事業を通じて避難世帯を把握しています。そのうち、主にサロン等への参加が難しい世帯に戸別訪問をしてきました。社協が訪問する中には自主避難の方や、年数が経ち避難元地域の状況等により区内に住民票を移した方もいます。

 

戸別訪問では、先の見えない生活への不安や怒り、将来に向けた意見の相違による家族間の関係悪化等について、相談を受けてきました。地元への帰還と東京定住との間で揺れ動き、早めに気持ちを東京定住に切り替えた方もいる一方で、特に福島県の方を中心に「家も仕事もお墓もある地元に戻れず、葛藤を抱えながら、都営住宅に住むためにやむなく区内へ住民票を移す決断をした方は多い」と永嶋さんは言います。

 

今も3月が近づき、震災の報道に触れると精神的に不安定になる方がいます。宮城県出身の方からは「津波が怖くて地元に戻れない」、地元に戻った方からも「以前と違う地域の様子に落ち込む」という相談も受けます。永嶋さんは「長く感情が出せなかった方々から、ここ数年『目の前で家族が津波に流された』『自宅の建て壊しに立ち会い、腰を抜かした』と過酷な体験や喪失感を聞くことが増えた。心の傷は簡単に癒えるものではない」と心情を推し量ります。

 

コロナ禍の現在も、中野区社協では福祉ニーズの高い方を中心に戸別訪問や電話連絡を続けています。また「来らっせしらさぎ」は一時休止したものの、スタッフが話し合って感染予防を徹底し、オンラインも交えて再開しています。地域活動推進課主事の山田瑠理子さんは「休止中に認知症が進行した方や『再開で日常を取り戻した』という方もいた。コロナ禍で、サロンが参加者や地域にとって必要な居場所になっていることを強く感じた」と言います。また地域福祉活動推進課長の黒木俊一郎さんは「サロンは、避難者支援という要素と参加者の主体性を大切に支援していきたい。今後も関係機関と連携を図りながら、避難者であり、地域で暮らす住民でもある方々を支え続けたい」と語ります。

 

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東社協では、今後も各事業や区市町村社協・関係機関等との連携を通じ、避難者の悩みや生活課題への支援を行っていきます。加えて、さまざまな背景を持ちながら東京に住む方々でもあることから、こうした方たちを包摂する地域のあり方や寄り添う支援を模索していきます。

取材先
名称
中野区社会福祉協議会
概要
中野区社会福祉協議会
https://nakanoshakyo.com/
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