(社福)天童会秋津療育園
職員体制を再編し、感染症対策を強化する
掲載日:2021年3月24日
2021年3月号 連載

秋津療育園 施設長 大石勉さん

 

あらまし

  • 秋津療育園(以下、園)は、東村山市にある児童福祉法に基づく医療型障害児入所施設及び障害者総合支援法に基づく療養介護事業を行う施設です。施設入所の対象は医療管理や生活介護を必要とする重症心身障害児者の方で、園には医師と看護師が勤務しています。令和3年2月現在178名が入所事業、短期入所事業を利用しています。内訳は、入所事業の利用が175名で、うち18歳未満の障害児が7名、短期入所事業の利用が3名です。長期利用者が多く、利用者の33%は60歳以上です。

 

平時から徹底した感染症対策を実施

園では、新型コロナが流行する以前から、感染症対策を徹底しています。施設長で医師の大石勉さんは「感染症は年間を通して流行するため常に緊張感をもって対策をしている。感染症を持ち込む可能性が高いのは職員や来園者。始業時の体調チェックは特に力を入れている」と話します。職員や来園者には手洗い、手指のアルコール消毒に加え、発熱や鼻水などの症状がない場合もマスクの着用を徹底しています。職員に発熱や体調不良がある場合は出勤停止とし、職員の同居家族に症状がある場合は医師が状況を確認し、職員の勤務が可能かどうかを判断します。その際「感染状況報告書」に詳細な病状を記録しておきます。

 

利用者に対しては、CDCガイドラインの標準予防策(※1)に基づき、平時でも直接支援する際は手指消毒とマスク、エプロン型のガウンの着用を必須としています。利用者に感染症が発生した場合、例えばインフルエンザでは、園内で検査し、診断に基づいて適切に対応します。同時に、関連する職員や利用者にも検査を実施し、必要に応じてタミフル等を予防投与します。

 

※1:米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)が公表したガイドライン。接する利用者の感染症の有無にかかわらず、分泌物、排せつ物、傷のある皮膚や粘膜はすべて感染源とみなして予防策をとることを標準予防策という。近年、介護分野を含め、感染の可能性があるものを取り扱う場合に必要な『基本的な感染予防策』とみなされるようになってきている(厚生労働省老健局 令和2年10月『介護現場における感染対策の手引き 第1版』)

 

家族へは綿密な情報提供を通して不安を軽減

令和2年2月から3月、新型コロナの感染が拡大し始めた頃、職員の出退勤時や家族、外部からの来園者に検温を実施して記録することにしました。また、手指消毒やマスク着用等の平時の感染症対策も今までより徹底して行いました。

 

大広場での日中活動は中止し、各部屋で少人数での活動に切り替えました。また、特別支援学校の訪問学級対面授業も中止しました。面会や、月に1回約30組の家族が参加していた家族会も中止しましたが、家族会役員3名とは園の状況や国内の感染状況、罹患した場合の症状などについて、綿密に情報交換をしていました。加えて、月に1回程度、家族に園や全国の新型コロナに関する対応や状況をお知らせする便りを発送しました。家族からのコロナ等に関する問合せに対しては丁寧に応じることを意識していました。

 

大石さんは「平時から感染症対策を徹底していたため、大きな混乱なく感染症対策を強化することができた。また、家族会役員との情報交換をはじめ、お便りを通じて園の状況を定期的に家族に発信していた為か、家族からの不安な声は多くは聞かれなかった」と話します。

 

当時、手袋やマスク、アルコール等の衛生用品は、供給がなく、先の見通しが立たない状況でしたが、備蓄しているものを使用し、乗り越えることができました。また、普段は利用者の衣服をつくるために使用している縫製室で、職員1人あたり3枚の布マスクを製作し、職員全員に配布しました。

 

職員体制を再編し、新型コロナ対応マニュアルを作成

園には、医療的ケアを必要とする方の医療病棟が2棟、身体介護が主体の療育棟が2棟あります。令和2年4月上旬、緊急事態宣言の発令にあたり、職員間で今後の対応について協議を重ね、新型コロナ陽性者の発生を想定した新型コロナ対応マニュアルを作成しました。また、エリアの消毒や接触者などに迅速に対応できるよう職員のロッカールームや休憩室、出入口を職種別から病棟別に変更するほか、これまで病棟を掛け持ちしていたリハビリスタッフは病棟専属配置とするなど、職員体制を再編しました。現在2名体制で従事している薬剤師には、どちらかが感染してしまった場合を想定し、可能な薬は1か月分調剤してもらう等もしました。

 

そのほか、注意喚起のため、手洗いや消毒、換気などを促す全館放送を毎日昼に行いました。中止していた面会は、緊急事態宣言解除後リモート面会として再開し、令和3年2月までに約30組の家族が利用しました。

 

大石さんは「利用者は、平均年齢が高く、呼吸器系の疾患がある方が多いことから、罹患した場合、生命に影響を及ぼす可能性がある。徹底した感染対策は利用者の命を守ることにつながる」と強調します。

 

感染症対策の強化と病棟別の職員体制は緊急事態宣言解除後も継続しました。

 

早期発見、感染経路の遮断が新型コロナクラスター対策の基本

令和2年12月10日から16日にかけて、職員1名、利用者4名が新型コロナに罹患しました。判明後、直ちに都と保健所に報告し感染症治療と流行の拡大阻止対策を実施しました。陽性者が出た病棟は閉鎖し、感染リスクがある区域をレッドゾーン、個人用防護具を着脱する区域をイエローゾーン、感染リスクがない区域をグリーンゾーンとし、棟内をゾーニングしました。利用者4名のうち、3名は専門病院に転院し、1名は転院先が見つからず園内で隔離しました。園内倫理委員会で承認を得た「アビガン」を投与し、治療を行いました。また、新型コロナに罹患した利用者が使用する食器はすべて使い捨てにし、直接支援する職員は防護服等の着用と、一介助毎に手袋と防護服を交換するといった衛生管理を徹底しました。病棟の利用者と職員全員にPCR検査を実施し、全員が陰性と判明しました。その後、新たな感染者のないことから、令和3年1月1日、新型コロナウイルス感染症クラスターは収束と判断しました。軽快帰院した利用者の観察期間を経て、1月27日には病棟閉鎖を解除しました。が、利用者4名のうち1名は転院先で肺炎により逝去されました。

 

大石さんは「ご逝去された利用者様には心よりご冥福をお祈り申し上げます。重症化を想定し、都に早めに転院申請を行ったことで、翌日には転院できた利用者もいる。可及的早期の転院申請は、その後の感染拡大防止にとても有効であった。行政や保健所と密接に連携を図っていくことが重要だと感じた。また、陽性者が判明した際、全職員が重圧に耐えながらも強い使命感を持って一致団結して職務を遂行したことや、関係施設から温かい励ましの言葉、貴重な支援物資を頂いたことは感謝に堪えない。厚くお礼を申し上げます」と話しました。

 

病棟閉鎖時は個人用防護具を着用して勤務

 

ナースステーション周辺のゾーニング

 

介護職員の人材確保は急務の課題

令和3年1月7日、緊急事態宣言が再発令されました。大石さんは「一度目の緊急事態宣言の発令の際に作成したマニュアルや、変更した職員体制を継続していたため、混乱なく再発令を迎えた。今後も感染症委員会で検討を重ね、マニュアルを充実していく予定である」と話します。続けて「今回は入所者の療育や感染予防、治療に関して職員で対応し、乗り越えることができたが、さらに感染拡大がすすめば厳しい状況になることが想定された。介護職員の人材確保は急務の課題である」と話します。

取材先
名称
(社福)天童会秋津療育園
概要
(社福)天童会秋津療育園
http://tendoukai.net/
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