(社福)東京都社会福祉協議会
新型コロナウイルス感染症拡大下、水害時の要配慮者支援・防災対策の充実に向けて〜「新型コロナウイルス感染症等の感染症リスク下での自然災害に対する福祉避難所の備えと取組みに関する調査」結果概要〜
掲載日:2021年4月10日
2021年4月号 NOW

 

あらまし

  • 近年、被害規模が甚大な水害が全国各地で発生しています。また、令和2年に入り、日本でも新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染拡大し、人々の生活に多大な影響を与えています。
    これらの背景から、災害対策においても、従来の地震等を中心としたものに水害対策、感染症対策を加えることが求められます。また、災害時に要配慮者を受け入れる福祉避難所については、多くの自治体で福祉施設が想定されています。現在、福祉施設では、徹底した感染症対策を行い、利用者支援にあたっています。水害対策、感染症対策をふまえた福祉避難所の運営が求められています。
    東京都社会福祉協議会では、令和2年9月~10月にかけて、東京都共同募金会の配分を受け、都内62自治体を対象に標記調査を実施しました。本調査は、各自治体における福祉避難所の整備状況および感染症や水害への備えの状況等を把握し、その知恵や課題、工夫を共有することで東京における要配慮者を守る防災対策の充実につなげることを目的としています。
    今号では、本調査結果の概要をお伝えします。
    ※調査結果報告書を4月中旬頃、東社協ホームページに記載する予定です。
    https://www.tcsw.tvac.or.jp/chosa/index.html

 

本調査は、令和2年9月23日~10月16日の期間、東京都内62自治体を対象に、実施しました。各自治体の防災主管課を通じて配布し、関係部署への協力を依頼しました。多いところでは4部署を通じて回答がありました。回収率は100%でした。

 

以下、調査結果の主な内容を紹介します。

 

1 福祉避難所の整備状況

〔(1) 福祉避難所の指定状況〕

はじめに、福祉避難所の指定状況を尋ねました〈図1〉。「福祉避難所を指定している」と回答したのは、55自治体(88・7%)でした。一方「指定していない」と回答した自治体のほとんどは、条件の厳しい島しょ部でした。このことから、島しょ部を除くほとんどの自治体で福祉避難所を指定していることが分かりました。

 

 

次に、福祉避難所の指定先を尋ねたところ、高齢者福祉施設が49・0%と、全体の約半数を占め、次いで、障害者福祉施設、児童福祉施設と続きました〈図2〉。福祉避難所に指定される施設の約85%が福祉施設という結果でしたが、これは平成28年度に本会が行った調査(※)(以下、平成28年度調査)から変化はありませんでした。このほかには、特別支援学校や小中学校などがありました。

 

※本会が平成28年度に実施した「大都市東京の特性をふまえた災害時における要配慮者のニーズと支援対策に関する区市町村アンケート」調査。配布62自治体、回収58自治体(回収率93.6%)

 

 

〔(2) 福祉避難所についての周知方法〕

福祉避難所の住民への周知方法を、複数回答で尋ねました〈図3〉。約半数の自治体で「防災マップ、防災ハンドブック」、約4割の自治体で「ホームページ」を活用して周知していることが明らかになりました。一方で「二次避難所として位置づけているなどのため、積極的に周知していない」と回答した自治体も約3割あることが分かりました。その理由として、自由回答から「対象でない避難者の避難の助長の恐れから、積極的な周知が難しい」「周知することで、直接避難するケースが発生し、混乱する恐れがある」などがあげられました。このほか、課題として「福祉避難所自体の周知が不足している」「周知の必要性は感じているものの、混乱が生じないようにどのような方法で周知するかが課題」などがあげられています。

 

これらの回答からは、福祉避難所の場所だけでなく、その役割や開設のタイミングなどを合わせて周知する必要があると考えている自治体が複数あることが分かります。

 

 

〔(3) 福祉避難所の設置・運営に関する協定の締結状況〕

「福祉避難所を指定している」と回答した自治体に、「民間の福祉施設と1か所以上、設置・運営に関する協定を締結しているか」を尋ねました〈図4〉。「締結している」との回答は50自治体(92・6%)と、福祉避難所を指定している自治体のうち、約9割の自治体が協定を締結していることが分かりました。

 

 

〔(4) 福祉避難所の設置・運営に関する役割分担の状況〕

民間の福祉施設と福祉避難所の設置・運営に関する協定を締結している自治体に(以下、(5)も同じ前提条件で尋ねています)、設置・運営に関する役割分担の状況について、主に想定される役割ごとに尋ねました〈表1〉。

 

 

区市町村が担い手として多く想定されているのは「必要となる物資の調達・手配」50自治体(100・0%)、「福祉避難所の受入れ避難者の調整」48自治体(96・0%)、「一般避難所から福祉避難所への移送」42自治体(84・0%)となっています。平成28年度調査でも同様の項目を調査していますが、特に「一般避難所から福祉避難所への移送」を、「区市町村」が担うと回答した割合は、平成28年度調査の48・3%から84・0%と、35・7ポイント増えています。

 

施設が担い手として多く想定されているのは「福祉避難所の設置に必要なスペースの提供」45自治体(90・0%)、「福祉避難所における介護・見守り」34自治体(68・0%)、「食事の提供等日常生活維持のための支援」30自治体(60・0%)でした。

 

「現時点で役割分担はしていない」との回答で最も多かったのは「介護・福祉等の専門職ボランティアの手配」11自治体(22・0%)でした。平成28年度調査では同項目は25・9%と、今回の結果と大きく変わりませんでした。

 

東京では、平成29年度から「東京都災害福祉広域支援ネットワーク」ができています。発災時、区市町村からの要請に基づき、ネットワークを通じて専門職が派遣されることが想定されており、この活用が期待されます。

 

なお、平成28年度調査では、各役割ごとに「現時点で役割分担はしていない」との回答の割合が、最も低い「福祉避難所の設置に必要なスペースの提供」で10・3%、最も高い「一般避難所から福祉避難所への移送」で32・8%でした。平成28年度調査とは母数が異なるため、単純な比較はできませんが、全体としては約3年で役割分担がすすんできていることが窺えます。

 

〔(5) 設置・運営のために事前に取り組んでいること〕

選択肢から複数回答で尋ねました〈図5〉。

 

全体に回答が過半数を超える選択肢はなく、最も多く取り組まれていたのが「設置・運営に関するマニュアル等を整備している」で24自治体(44・4%)でした。一方で、今回調査において回答が少なかった項目は「福祉避難所を運営するための人材の確保に関する協定等を結んでいる」5自治体(9・3%)でした。今後「人材確保」に対する独自の取組み、工夫の共有が期待されます。

 

2 災害時の要配慮者支援における感染症、水害への備え

〔(1) 福祉避難所における協定内容、施設数・定員数の見直し状況〕

今回の調査では、新型コロナ感染拡大の影響や近年多発する水害に対する備え等を調査するため、感染症対策としての協定内容や、運営等の見直し状況について尋ねました。なお、2では、福祉避難所を「指定している」と回答した自治体に尋ねています。

 

感染症対策をふまえ、協定の内容の見直しを「行っていない」と回答した自治体は35自治体(63・6%)と、6割強でした。一方、協定内容の見直しを「検討予定」と回答した自治体が16自治体(29・1%)と約3割であることが分かりました〈図6〉。

 

 

感染症対策をふまえて、福祉避難所の設置か所数、定員数の見直しを「行った」との回答は6自治体(10・9%)でした〈図7〉。見直し内容の自由回答からは「定員数が減少した」「新たに福祉避難所を増やした」等の記載がありました。全体では、見直しを「行った」6自治体のほか、「検討中」21自治体(38・2%)、「その他」の回答5自治体のうち2自治体が「検討中」の内容の回答でした。したがって、29自治体(52・7%)と、約半数の自治体が今後定員数を見直す方向で検討をすすめていることが分かります。

 

 

〔(2)感染症対策や多発する水害をふまえた災害時における要配慮者支援上の課題〕

自由回答で尋ねました。「感染症対策のため、収容可能人数の減少や福祉避難所の不足とそれに伴う新たなスペースの確保」「浸水区域や浸水の危険性がある立地に福祉施設があるため、避難場所や避難が可能か検討する必要がある」「二次避難の難しさ」などがあげられました。災害時の要配慮者支援において、新たに感染症対策を追加したり、水害への対策を見直したりした結果、これまでとは異なった対応をする必要があると認識している自治体が多いと考えられます。

 

3 各地域の関係機関・福祉施設等のネットワークづくり

地域により、民間の福祉施設等が、さまざまなネットワークをつくり、活動に取り組んでいます。それらのネットワークや活動と自治体が接点を持っているかを尋ねました。回答は「把握していない」が最も多く、36自治体(63・7%)でした。一方「接点を持っている」と回答したのは16自治体(25・8%)でした〈図8〉。

 

 

「接点を持っている」自治体に、具体的な連携先を自由回答で尋ねたところ、高齢や障害などの種別や職種ごとの連絡会などがあげられました。接点の内容としては「連絡会や研修会の定期的な開催」「福祉避難所運営訓練等の実施を通して、情報共有や意見交換を行っている」という回答のほか、「社会福祉法人の区市町村ネットワーク」との回答(2自治体)も見られました。

 

災害時には平時からの連携、顔の見える関係が重要と言われており、自治体と福祉施設をはじめ、社会福祉協議会や民生児童委員など、地域の関係者同士の一層の連携が求められます。さらに、コロナ禍においては、福祉避難所の運営・要配慮者支援には感染症対策のため医療との連携も不可欠です。医療も含めた、行政と民間の協働による災害対応のためのネットワークづくりも期待されます。
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今回の調査により、福祉避難所の設置・運営のための人材確保、平時からの関係機関とのネットワークづくり、感染症や水害をふまえた対策強化の必要性などの課題が明らかとなりました。

 

今後、東社協では本調査から得られた課題をもとに、災害時の要配慮者を守る防災対策の充実に向けた提言を行う予定です。

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会
概要
(社福)東京都社会福祉協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/index.html
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