常総市市民生活部 安全安心課(当時)、市長公室 防災危機管理課(現在)
市役所が被災したその時、地域の住民で声をかけあい避難
掲載日:2018年3月26日
ブックレット番号:6 事例番号:54
茨城県常総市/平成29年3月現在

 

情報発信と避難誘導の難しさ

当時、市役所には、主に市民から被害の状況や避難所の場所を問う電話が殺到し、本来災害対策本部業務を担うはずの市民生活部安全安心課(当時)は電話対応に追われました。それにより関係機関等とのやり取りが貧弱になり、市内の浸水状況や全体状況の把握が遅れました。

また、鬼怒川の決壊により市内の浸水被害が広がっていった上、市役所自体が被災した状況の中、近隣に住む住民が市役所を頼りにして避難してきました。市ではそのような避難者を断るわけにもいかず、受入れました。さまざまなことが重なり、市役所内は混乱し、住民への情報発信は防災行政無線のみになってしまいました。

 

そのような中でも、地域の助け合いの力が発揮されました。昔から住民同士のつながりが深い常総市だからこそ、近隣住民がお互いをよく知り、災害時においても自然に声をかけ合っていました。地域に暮らす耳が聞こえにくい方や、高齢の方、避難せず自宅に残っていた方に対し、近くに住む家族や近隣住民が声をかけ、避難をすすめたり、一緒に避難所に避難していました。

市担当者は「今回の経験から避難誘導のあり方を考えさせられた。当時は職員も大変混乱していて細かいところまで手が回らず、情報弱者の方への配慮が不足していた。地域の方同士が声をかけあってくれ、それに助けられたとともに、緊急時は対応のすべてを市職員だけで行おうとせず、共助の力も活かすことが大切」と話します。

 

要配慮者の状況

(1)福祉施設の状況

鬼怒川の決壊により、常総市内では特養2か所、グループホーム2か所が被災しました。同じ系列の施設へ避難する等、各施設で対応が取られました。施設の上階などに避難し、後からボートで救助されたケースもありました。また、2つの病院が被災し、人工透析患者等は他の病院へ全員が移動しました。

 

(2)在宅の要配慮者の状況

在宅の要配慮者に対しては、民生委員やケアマネジャーが中心となって、把握している高齢者等に対し早めの避難誘導を行いました。

大雨が降っていた9月9日から、担当している高齢者の家族や近所の方に電話で連絡を入れ協力を求めたり、頼れる人がいない方には緊急ショートステイの利用を斡旋しました。

鬼怒川決壊から5日後、地域包括支援センターの専門職でチームを組み、地域の高齢者の安否確認を行いました。10日目からは県内の保健師が毎日10人が加わり、5日間にわたり協力を得ましたが、要援護者名簿の更新に不備が生じたために、保健師等の訪問活動後に、別にボランティアの協力も得て訪問が必要になった現状でした。

また、近所の方や近くに住む親族の協力により、どのような方にもどこかで誰かが声をかけ、かかわりを持っていました。

 

鬼怒川があふれ、川のようになった住宅地(常総市・忘れない9.10より)

 

避難所の設置・運営

(1)避難所の設置と運営

今回の水害における避難所は39か所(市内26か所)が開設され、最大約6,000人が避難しました。近隣のつくば市等でも常総市の避難者を受入れました。

浸水により市東側の避難所が使用できなくなったことで住民が混乱し、避難所に指定されていない場所に避難者が集まってしまったことや、ひとつの避難所に避難者が集中して物資が行き届かなくなるなどのトラブルがありました。

市内に設置された一般避難所の運営は職員が行いました。対応は各避難所の職員たちがその場で考え、判断していきました。避難所運営を行った職員は「服薬のある方が、普段何を飲んでいるか、いつどのくらい飲むのか、どこの病院に通院しているのかなどを把握し対応することが大変だった。服薬について自分で説明できない方もいた上に、病院も被災していたので情報の収集に苦労した」とふり返ります。

また、避難者に支援者がかわるがわる声をかけてしまうことがあり、市の職員、派遣職員、ボランティアも含めた明確な役割分担と、専門職が不足している状況の中で「本当に支援が必要な方」への支援をどうするか等が実際に避難所を運営した職員たちが感じた課題でした。

 

(2)要配慮者への対応

市内に設置された一般避難所では、要配慮者の方のために福祉避難スペースを設置し、そこに県老人福祉施設協議会、介護福祉士会の派遣職員などの協力を得て、ヘルパーや相談員などの専門職を配置しました。それだけでなく、県内外の保健師の協力、NPOやボランティアの協力も大きな力となりました。

市内にはブラジル系の外国人の方が多くいます。市民協働課の通訳と、ボランティアが各避難所を回りました。市担当者は「言語の違いから、間違ったニュアンスで伝わってしまうことがあった」と話します。例えば、夜遅くに避難所に戻ってきた方に、「もう食料の配布は終了しましたよ」と伝えると、「もうあなたへ食事は出しません」と受取られてしまったことがありました。今後に向け、宗教や文化、国民性の違いにより配慮が必要な方への対応はどうするべきか等、事前に検討しておくべき課題が見えてきました。

今回大きなトラブルはみられませんでしたが、障がいのある方への支援も大きな課題です。障がいのある方が一般避難所において、「避難所で気疲れした」、「避難者同士がフォローしあえる関係がほしかった」と感じていたことがアンケートによってわかりました。

それを受け、常総市では既存のいろいろな施設を有効利用し、できるだけ当事者の方が慣れ親しんでいる場所に避難できるしくみをつくっていこうとしています。

 

鬼怒川が決壊した当夜、避難した市役所本庁舎2階で不安な夜を過ごす市民(常総市・忘れない9.10より)

 

 

取材先
名称
常総市市民生活部 安全安心課(当時)、市長公室 防災危機管理課(現在)
概要
常総市
http://www.city.joso.lg.jp/
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