(社福) 東京都社会福祉協議会
「東京らしい 包摂・共生型の地域社会づくり」をめざして~生きづらさや孤立に苦しむ人たちを包摂する地域社会のあり方~報告書
掲載日:2021年5月20日
2021年5月号 NOW

 

あらまし

  • 東社協の地域福祉推進委員会では、平成31年度から令和2年度までの2年間において、「生きづらさや孤立に苦しむ人たちを包摂する地域社会のあり方」をテーマに検討を重ねてきました。そして、平成31年3月に取りまとめた「東京らしい“地域共生社会づくり”のあり方について」の進化形として、「東京らしい包摂・共生型の地域社会づくり」のあり方を令和3年3月に提起しました。今号ではその概要をお伝えいたします。
  • 「東京らしい 包摂・共生型の地域社会づくり」をめざして~生きづらさや孤立に苦しむ人たちを包摂する地域社会のあり方~報告書全文は、下記の東社協ホームページをご覧ください。
  •  
  • https://www.tcsw.tvac.or.jp/chosa/index.html
  • 調査・提言ページ

 

前期ワーキングで提起した「東京らしい〝地域共生社会づくり〟のあり方について」

東京の地域特性に応じた地域共生社会づくりに向けて、前期ワーキングでは、区市町村ごとに3層の圏域(小地域・中圏域・区市町村圏域)を基盤とした包括的な支援体制を構築すること、さらに中圏域に地域福祉コーディネーター等を配置し、住民主体の地域活動を支援することや、民生児童委員協議会、社会福祉法人の地域公益ネットワーク、地域福祉コーディネーター等(※1)が協働体制をつくる「東京モデル」等を提起し、東京都地域福祉支援計画(平成30年3月策定)への意見反映を図りました。その後、多くの区市町村において、地域福祉コーディネーター等の配置が進行するなど、各地域の状況に合わせた地域共生社会づくりがすすめられています。

一方で、前期報告書の提起では、「生きづらさ」や「孤立」に苦しむ人たちへの対応や手法を明確にすることはできませんでした。この間、国の検討はさらにすすめられ、生活困窮者の支援を通じた地域共生社会の実現をめざすことを明確化した「生活困窮者自立支援法」の改正、「相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」を一体的に推進する「重層的支援体制整備事業」を定めた社会福祉法改正等が行われました。

 

(※1)地域福祉コーディネーター等・・・コミュニティ・ソーシャルワーカーや生活支援コーディネーター、ボランティアコーディネーター等

 

〝生きづらさや孤立に苦しむ人たち〟を取り巻く「問題の所在」と「対応の方向性」

こうしたことを背景に、今回の後期ワーキングでは、「生きづらさや孤立に苦しむ人たちを包摂する地域社会のあり方」をテーマに全10回の検討を行いました。日本大学 文理学部 社会福祉学科教授の諏訪徹さんを座長に、民生児童委員、ひきこもり家族会、子ども・高齢・障害の施設、社協、教育関係者、学識経験者等の14名の委員構成です。まず、「生きづらさ」や「孤立」に苦しむ人たちに対応しきれていない施策の現状を把握するために、7つのテーマ(①ひきこもり ②不登校 ③ひとり親家庭 ④触法障害者等 ⑤いわゆる80―50問題等、複合課題のある世帯 ⑥児童虐待と社会的養護 ⑦生活困窮者)で、現状と課題、取組み等について、委員やゲストスピーカーからヒアリングを行いました。そして、それをふまえて「問題の所在」と想定される「対応の方向性」を整理しました。

 

4つに整理した「問題の所在」の一つは、ニーズが見過ごされ、適切な支援がなされないことが本人の自己肯定感や意欲の低さにつながり、個人や家族が孤立していることです。この問題への対応の方向性として、地域や社会生活の多様な場面でニーズを発見する機会の確立や、相談しやすく、受援力を高める当事者や家族のネットワークづくりがあげられました。

 

2つ目は、本人に複数の課題がある場合や家庭内に課題がある当事者が複数いる場合など、縦割りの支援では有効に対応できない状況があげられました。これに対応する方向性として、多分野・多機関の協働体制を構築するための制度的なしくみやツールの開発、地域福祉コーディネーター等の配置、専門職のネットワークづくりなどがあげられました。

 

3つ目は、現状の支援は事後的対応が中心で予防的取組みが不十分な点です。「生きづらさ」に対する専門職や住民等の理解不足が予防的な取組みの促進を阻んでいる面もあります。これには、専門職による予防的取組みの強化と共に、住民等による発見とつなぎ、見守り機能の確立の必要性があげられました。

 

4つ目は、これらの課題は緊急的な対応だけでは解決せず、ライフステージを通じた寄り添い、見守りや継続的なケアが必要な点です。これに対応するためには、専門職だけでは困難であり、専門職と地域関係者からなる地域の新たなプラットフォームをつくって連携し、緩やかな見守り、専門的なケア機能も備えた寄り添う体制を構築することの必要性があげられました。

 

「包摂・共生型の地域社会づくり」をめざす7つの提言

こうした問題の所在を整理した上での今後の対応の基本的な考え方として、社会全体が誰も取り残さず、すべての人が社会や地域で安心できる居場所を見出し、ウェルビーイングを高めつつ、尊厳を持って、自分らしく参加、活躍できる「包摂・共生型の地域社会づくり」をめざすこととし、今後の取組みの視点とあり方について、7項目で提言しています。

 

(1)「きずな再生・寄り添い重視モデル」の確立

日本の福祉制度は、専門分化し、課題解決中心に発展してきましたが、課題解決モデルだけでは対応できないことが、「生きづらさ」や「孤立」につながっています。誰もが生涯の中で「生きづらさ」や「孤立」の課題に直面する可能性があります。ライフサイクルに応じた継続的な支援、誰ひとり取り残さないしくみが必要であり、課題解決モデルに加え「きずな再生・寄り添い重視モデル」の確立を提起しています。

 

(2)当事者本位の徹底と予防的アプローチの重視

従来、「支援する側」「支援される側」という固定概念の下で支援が提供されてきましたが、当事者のことをよく知らないために「支援される側」の人を偏見や差別の目で見てしまう人もいます。また、複合的課題に対する制度や支援は未整備であり、家族を含めた視点や家族への支援も必要とされています。こうしたことをふまえ、当事者が他の人を支援する立場で地域に関わる機会を設けることや、家族自身に寄り添うことも含めて、当事者本位を徹底することが重要です。

 

また、当事者・家族ならではの力を専門職や専門機関による支援や地域の活動等に活かしていくことにより、支援や活動の充実が期待できます。特に予防的な観点からエンパワメントを図ることで当事者を支えるとともに当事者の知見を支援や活動の充実に活かすことにもつながり、「予防重視の相互エンパワメントアプローチ」として推進することを提起しています。

 

(3)3つのネットワークの強化と重層型プラットフォームの確立

東京は、狭いエリアにニーズや資源が凝縮しており、一機関が多分野のあらゆる相談支援に対応することは現実的でも効果的でもありません。これをふまえ、3つのネットワークの強化・協働の重要性をあげています。顕在化した個別ニーズに対し、専門性による緊急的な課題解決に強みがある「専門職・機関のネットワーク」。地域の福祉課題を受け止め、早期発見、予防、寄り添い、見守りに強みを発揮する「地域関係者のネットワーク」。そして、当事者や家族の癒しや学びの機会とともに、ニーズを顕在化して、必要な施策や活動を有効に機能しやすくすることも期待できる「当事者・家族のネットワーク」。これは、「専門職・機関」と「地域関係者」の二つのネットワークを接合する重要な位置にあるとしています。

 

 

 

そして、この3つのネットワークの強みを活かし、弱みを補い、つなげることは、多様な分野やフォーマル・インフォーマル、行政区域を超えて連携していくための土台となる「分野横断・重層型プラットフォーム」を構築することになります。これを前回の報告書「東京らしい地域共生社会づくりのあり方」で提起した「東京モデル(民生児童委員協議会、社会福祉法人の地域公益ネットワーク、地域福祉コーディネーター等、三者の協働体制)の発展型として提起しています。

 

 

(4)「〇〇発・地域参加型ミーティング」の開催

潜在する支援課題が見過ごされ、理解がすすまずに深刻な問題へと発展した後、時に特定の分野のみの専門機関による対症療法的な対応に陥り、さらなる無理解や偏見につながる悪循環に陥ることがあります。これを断ち切るために、ライフサイクルの中で、あらゆる生活場面に関わる多様な機関等が支援課題を見過ごさず、必要な人たちと共有し、対応や支援を検討できる場を用意し、つなげられるようにすることが重要です。そこで「〇〇発・地域参加型ミーティング」の開催を提起しています。○○発とは、学校の先生や、コンビニ店主、民生児童委員等、当事者や身近な人など誰でも気づいた人が心にしまい込まずに発信するということで、小圏域を中心として、関わりのある人がミーティングの場を持ち、次の行動につなげていくことを想定しています。これは、③であげた「多機能・重層型プラットフォーム」の下で、個別ケースに応じて開催し、予防、つながりを重視した緩やかで包括的な支援につなげるものです。ミーティングを開催することにより、地域のさまざまな人たちの顔の見える関係性をつくることとなり、それ自体が地域づくりであり、むしろそのための提案ともいえます。

 

 

(5)学びと広報の推進

このしくみが地域で活用されるためには、「〇〇発・地域参加型ミーティング」で明らかになった課題や実情を「分野横断・重層型プラットフォーム」で分析し、分かりやすく広報、発信し、住民と専門職・機関の相互の学びの場をつくることが必要となります。

 

また、当事者自身が自分の力に気づき、自信をつけ、力を発揮できるよう支える、エンパワメント・アドボカシー型(力づけ、権利擁護を図る)の学びの機会の提供や、そのためのプログラムの導入、実施が求められます。当事者の立ち直りや意欲の向上をめざすとともに、専門職・機関が当事者の想いや願いを学ぶ機会としても捉えることを重要な視点にあげ、提起しています。

 

(6)多様な居場所と継続的なケアの拠点機能の確立

小さな出来事を誰かに話す中で、自分の行動を決めたり、困りごとに気づくことがあり、大きな問題になる前に支援につながるなど、結果としてそれが予防となる場合があります。そのような場をつくるため、気軽に立ち寄れる場所、知られたくないから離れた場所、家から出にくいからオンラインなど多様な形で、それぞれの人が安心でき、話を聞いてくれる人がいる居場所をつくることを提起しています。

 

また、寄り添いによる見守りと合わせて、必要に応じて食事や一時的な住まい等の緊急的な支援や専門的なケアの提供が重要であるとして、「困った時に助けを求められる拠点機能」を整備することを提起しています。

 

(7)効果的で効率的な生産性の高いネットワークの運営

地域で活動や支援を広め、定着させていくには、多くの時間と労力が必要です。オンライン会議の活用やアセスメントツールの開発、可視化しやすい記録のデータ化等、ICTの活用を図り「効果的で効率的な生産性の高いネットワーク」を推進し、地域づくりにおいて手間や時間をかける必要があることに集中的に力を注げるようにすることが重要であると提起しています。

 

令和3年4月からスタートした重層的支援体制整備事業等、包括的支援体制の構築に向けて

国においては地域共生社会推進検討会(座長:宮本太郎 中央大学教授)の「最終とりまとめ」(※2)が令和元年1月に公表され、「具体的な課題解決を目指すアプローチ」と「つながり続けることを目指すアプローチ(伴走型支援)」の2つのアプローチを支援の両輪とし、「相談支援」「参加支援」「地域づくりの支援」を一体的に実施する新たな事業創設の方向性が示されました。これに基づく「重層的支援体制整備事業」は、各自治体の任意事業として、令和3年4月から取組みの早い自治体で開始されています。また、令和4年度以降の実施に向けた移行準備事業も含め、各自治体が社協や地域関係者とともに検討や準備をすすめていく大切な年です。この提言による「分野横断型・重層的プラットフォーム」や「○○発・地域参加型ミーティング」は、重層的支援体制整備事業の意義や利点を積極的に取り込み、有効に活かしつつ、さらに地域における多様な主体や取組みを総合的に推進するために提起するものです。

 

誰も取り残さず、包摂される社会をめざしてこそ、真の地域共生社会づくりと言えます。それぞれの地域という舞台で主人公である住民を中心に据えた包括的支援体制を構築していくことが重要と言えるでしょう。その際に本ワーキングによる提言も参考にしていただければ幸いです。

 

(※2)「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会」(地域共生社会推進検討会)最終とりまとめ(令和元年12月26日)

取材先
名称
(社福) 東京都社会福祉協議会
概要
東京都社会福祉協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/
タグ
関連特設ページ