東京ボランティア・市民活動センター
コロナ禍における児童養護施設退所者の支援 ~アウトリーチ・プロジェクトから~
掲載日:2021年6月11日
2021年6月号 NOW

 

あらまし

  • 令和2年、東京ボランティア・市民活動センターはゴールドマン・サックス社からの資金提供を受け、全国児童養護施設協議会とNPO法人NPO STARSの協力のもと、全国の児童養護施設の退所者に支援を届ける「アウトリーチ・プロジェクト」を実施しました。支援物資等を届ける具体的な支援のほか、退所者や施設への調査も行い、状況把握に努めました。取組みから見えてきたコロナ禍における退所生の厳しい現状と、これから求められる支援について考えます。
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  • 「アウトリーチ・プロジェクト報告書」は、以下のサイトでご覧いただけます。
  • https://www.tvac.or.jp/kigyo/tvac/project/index.html
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施設を通じた退所者支援プロジェクト

アウトリーチ・プロジェクトは、新型コロナウイルス感染症の影響で経済的にも精神的にも厳しい状況に置かれている児童養護施設の退所者たちに対して、出身施設とのつながりを強化し、施設によるアフターケア(退所後の支援)を支援することを目的に実施されました。

令和2年5月、一次支援として、食品や日用品などの救援物資や支援情報等をまとめたケアパッケージを退所者へ送る際の資金を助成し、全国607か所の児童養護施設の約30%にあたる187施設の参加・協力を得て、2千509名に支援物資を送ることができました。同封したアンケート調査の回答率は74・6%、このうち、施設による個別支援が必要な方へのアフターケア経費を追加助成することで、761名の退所者支援を行うことができました。

 

一次支援の結果、生活に困窮する人が多数いることが分かり、緊急支援金として一人上限10万円を助成する二次支援を決定。64施設の130名に緊急支援金を施設経由で助成し、生活再建のサポートを行いました。

 

10月以降には、現状をより深く理解するため、支援を受けた退所者や同プロジェクトに参加した施設職員を対象にヒアリング調査を実施。退所者の現状や思い、施設におけるアフターケアの実際や職員の願いなどを聞き取っています。

 

3年1月以降には、三次支援として施設によるアフターケア経費の追加助成を実施するなど、必要な支援を次々に行ってきました。東京ボランティア・市民活動センターの山崎美貴子所長は「コロナ対応で大変な状況にありながら協力いただいた施設や退所者、関係者の方々に感謝したい」と話します。

 

東京ボランティア・市民活動センター 山崎美貴子所長

 

退所者のおかれている現状

これらの取組みから見えてきた退所者の状況について、アンケート調査結果の分析とヒアリング調査を担当した法政大学現代福祉学部教授の岩田美香さんは「退所者が置かれている生活の不安定さが、コロナ禍によってより強く、より見える形となって表れている」と捉えています。

 

法政大学現在福祉学部教授 岩田美香さん

 

アンケート調査結果によると、就労している退所者のコロナ禍以前の月収は、8割以上が20万円未満でした。コロナ禍においては、就労している退所者であっても、雇用形態を問わず生活が悪化しており、業種ではサービス業や製造業、医療・福祉領域への影響が大きくなっています。全体の4割が減収している中、コロナ禍以前の収入が低い人ほど、より減額されている傾向がありました。学生や主婦は、大部分がサービス業におけるパート・アルバイト就労を行っており、半数以上の人が生活の悪化を感じています。

岩田さんは「働きたいけど働き口がない、仕事があってもサービス業の非正規雇用しかないなど、労働市場も含めた社会構造の問題が退所者にも表れている。非正規雇用が増加する中、経済情勢が悪化すると彼らが最初にダメージを受ける」と言います。あわせて、学生や主婦の問題は子どもの貧困やひとり親家庭の貧困でも見られるものであり、「教育や子育ては家族で何とかしなさいという家族主義は、家族に頼ることができない退所者にとって、より重くのしかかってくる」と指摘します。

 

また、退所者の主な困りごとは図1の通りですが、自由記述では金銭面や仕事の不安が具体的に記されており、仕事や残業が減ったことによる収入減や、学業と仕事の両立、学費の工面、奨学金返済の負担、頼れる家族がいない中で感染リスクを気にしながら飲食店で仕事を続けることの不安など、厳しい状況が分かりました。

 

 

困っている時ほど施設に相談できない

 

今回のアンケート調査は施設を通して回収していることもあり、施設と連絡を取っていると回答した退所者が9割以上、困りごとを相談する相手として「施設の職員」をあげる退所者も半数以上いました。しかし、ヒアリング調査においては「うまくいっている時は職員に話ができるが、困った時にはなかなか話せない」という声も聞かれました。

プロジェクトに協力したNPO STARSのメンバーで児童養護施設の杉並学園施設長の麻生信也さんは「退所者には、忙しい職員に卒業後に負担をかけられないという思いが強いのだと改めて感じた」と話します。また、退所者は困りごとがあっても施設に迷惑をかけたくないからと連絡をしなかったり、あるいは自分が困っていることに自覚的でなく支援に拒否的な場合もあるといいます。今回のプロジェクトでは、支援物資の送付という理由で施設側から連絡ができ、コロナ禍で誰もが困っている時だからこそ、これまで施設と疎遠だったり、支援を受けることに消極的だった退所者もつながりやすかったのではないかと麻生さんは見ています。

 

「『応援してくれる人がいる』『もし次に何かあったら相談してみよう』といったつながりや支えを、どう実感してもらうかが大事だと考えている。『退所して何年も経っているのに気にかけてもらえるなんて』という退所者の声は、裏を返せば何かあった時に言い出しづらいということ。ただ単に『大丈夫?』と声をかけるのではなく、各施設の職員が退所者一人ひとりの状況に応じた生活物資を送れたことが、『相談していいんだよ』という一つのメッセージになったのでは」とプロジェクトの効果を語ります。

 

杉並学園施設長 麻生信也さん

 

求められる取組みとは

 

施設では従前からアフターケアを担当する職員の配置がすすんでおり、令和2年度には職員配置に関する費用が国で予算化されたところです。しかし、アフターケアに関する経費や資源は十分ではなく、職員自身の持ち出しなどで対応することもあったそうです。今回のプロジェクトでは、施設のアフターケアの経費として通信費や面会時の交通費、退所者との食事代等を助成していますが、こうした経費や具体的な支援内容をしくみとして位置づけていくことが必要です。

3年4月には、厚生労働省が社会的養護経験者を対象にした初めての実態調査の結果を公表し、生活や支援の状況などが明らかになってきています。岩田さんは「退所者の支援が幅広く、長く、丁寧に行われるためには、退所後の彼らの状況を多くの人に知ってもらうことが大事。現状や課題が知られていき、支援の必要性について社会的な合意が得られるようになると、制度やサービスとして確実に位置づいていくのではないか」と話します。

 

公的制度の充実が期待される一方、各地域における取組みにもさまざまな可能性があります。麻生さんは「今回はゴールドマン・サックス社から資金提供いただき、全国に支援を届けることができたが、規模に関わらず地域単位で施設と企業がつながることもできるのではないか。また、子ども食堂や無料塾などの取組みも広がる中、社会的養護が『子ども支援』というキーワードでどのように地域社会とつながっていけるか、施設としても工夫が必要」と言います。そして、「取組みをすすめるには、パートナーとして地域住民や民間企業の力が大切。施設もいろいろな機会で発信をしているので、関心を持っていただけたら」と語ります。

 

山崎所長は「地域住民や企業の人たちは課題を発見し、気づき、社会資源とつなぐことができる。施設を出て自立した後、つまずいた時にちょっと立ち寄れるような居場所づくりや、社会的養護の状況をふまえた就労支援など、当事者を真ん中に置いた社会資源をみんなでつくっていくことが必要」と、施設と地域社会の力を合わせた退所者支援のしくみづくりの大切さを強調しています。

取材先
名称
東京ボランティア・市民活動センター
概要
東京ボランティア・市民活動センター
https://www.tvac.or.jp/
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