江戸川区立さくらの家
障害への理解啓発のため、福祉施設が小学生向けのDVDを制作
掲載日:2021年6月15日
2021年6月号 TOPICS

江戸川区立さくらの家「キャラバン隊~チーム千本桜」の皆さん

 

江戸川区立さくらの家(以下、さくらの家)は、平成21年4月に開所した、障害者総合支援法及び江戸川区立施設条例に基づく生活介護を行う施設です。重度の知的障害者を主な対象とし、陶芸などの作業活動、機能訓練、生活・余暇活動等を行っています。(社福)東京都手をつなぐ育成会が運営を受託しています。

 

さくらの家では、令和3年3月に小学校高学年向けの障害理解の啓発DVD「障害ってなんだろう」を制作しました。荒川沿いの「小松川千本桜」の間近に施設があることから「キャラバン隊~チーム千本桜」と名づけた職員8名のチームが、すべて自分たちの手でつくりました。

 

DVD「障害ってなんだろう」パッケージデザイン。背景はさくらの家の利用者の作品です。

 

職員による「キャラバン活動」を試行

 

制作のきっかけは、施設長の中村和人さんが、法人の母体である「東京都手をつなぐ親の会」の「キャラバン活動」の実演を見て感銘を受けたことです。「キャラバン活動」は、東京に限らず、全国各地域の知的障害児者の親の会が実施している、障害に関する理解啓発の活動です。差別や偏見をなくし、誰もが暮らしやすい社会をつくる目的で、対象者に応じて障害の特性を分かりやすく紹介し、障害者への具体的な接し方等を伝えています。表現を工夫しワークショップ形式で行われています。

 

中村さんは、まず職員研修で、全職員が親の会のキャラバン活動を受講することを計画しました。同時に、自分たちも伝える活動に取り組んでみようと考えました。「地域の行事等に参加してきたが、施設があまり知られておらず、障害理解もすすんでいないと感じていた。この活動が地域との関わりを深めるきっかけになると思った」と中村さんは言います。

 

2年8月に職員研修で実際にキャラバン活動を体験すると、チームによる取組みへの機運が一気に高まり、具体的な検討がすすみました。小学校の授業等にも今後関わっていくことを想定し、活動の対象者を小学校高学年に定めました。しかし、コロナ禍で、学校への訪問や学習会等の開催が難しいことが予想されたため、DVDの制作を決めました。

 

伝えたい内容と分かりやすさを追求

 

DVDは約24分間で、7つのパートから成り立っています。「さくらの家の紹介」、「障害って『何』」、障害者が持つ特徴等の理解を深める「ワーク」、障害者との接し方をクイズ形式で伝える「接し方のヒント」、当事者の「メッセージ」等です。

 

「障害って『何』」の一場面

 

担当パートごとにグループで作業し、親の会のキャラバン活動の内容を参考に、さくらの家の利用者を意識して特に伝えたい内容を絞り、アニメーションや実演を交えるなど手法にも多くのアイディアを盛り込みました。障害の知識だけでなく、障害者への接し方を具体的に考えてもらえるよう伝え方を工夫しています。

 

撮影後はテロップや効果音の入れ方等にもこだわり、修正を重ねました。区教育委員会からは小学校での活用を想定した助言ももらいました。

 

例えば、「ワーク」では、手作りの絵や道具を使った実演を通じ、気になるものだけに焦点化し周りが見えにくくなる「シングルフォーカス」の特徴を持つ人がいることを紹介しています。また、手先の不器用さがある人の特徴を伝えるため、軍手を着けた人(障害者役)と素手の人がシール貼りの作業をする実演もしています。うまくシールを貼ることができない人に対し、あえて「早く」「どこに貼っているの」などの嫌な声かけをする音声も入れ、「こんなことを言われたらどう思うか」と見る人に投げかけもします。

 

「ワーク」の「どんなふうに見ているの?」の一場面

 

このパートを担当した職員の鈴木悠さんは「説明に使った絵は4、5回描き直し、セリフや声のトーン、カメラワーク等も何度も試し、分かりやすく伝えられるよう工夫した」と制作の苦労と楽しさを語ります。

 

「ワーク」の「どうしてうまくできないの?」の一場面

 

当事者からも小学生へメッセージ

 

「当事者のメッセージ」には、さくらの家の利用者とその親が出演しています。親の立場からは、子の障害が判明した時の気持ちなどが話されています。「避けるのでなく、声をかけて」「皆が顔見知りで声をかけ合えるコミュニティであってほしい」等のメッセージを寄せています。

 

また、利用者の一人からは、小学生頃の思い出や現在の楽しみのほか、「町で困っている障害者がいたら、助けてあげて下さい」というメッセージが語られています。この方はDVDへの出演を「緊張し、恥ずかしかった」と振り返ります。「工事現場を通りかかった時に『障害者が通ります』と大きな声で言われて嫌な思いをした」ことがあり、自分より重度の障害がある方の様子も日頃見聞きしていることから、DVDを通じて「少しでも私たちのことをわかってもらえれば」と言います。中村さんは「当事者のメッセージは絶対に伝えたいと、出演してもらった」と語ります。職員だけでなく、当事者や家族の思いも詰まったDVDになっています。

 

3年3月中旬、DVDが完成しました。小学校教員免許を持つ職員が学習指導案も作成し、DVDとともに区立小学校69校へ配布しました。

 

中村さんは「区の報道発表の影響で、多くの反響があり驚いている」と言います。今後は作成したDVDの活用促進を図りつつ、親の会とのコラボや未就学児対象の活動も検討中です。また「職員のキャラバン活動はおそらく今回が初めて。法人内の他施設・事業所にも活動を広げ、各地での理解啓発の取組みをすすめたい」と抱負を語ります。

 

●DVDについては、さくらの家ホームページから(http://www.ikuseikai-tky.or.jp/~iku-sakuranoie/index.html

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