(社福)筑水会 特別養護老人ホーム 筑水苑
被害を最小限に抑え利用者を守り、施設自身が早めに立ち直る ~床上64センチの浸水被害を受けた施設が再開するまで~
掲載日:2018年3月26日
ブックレット番号:6 事例番号:55
茨城県常総市/平成29年3月現在

 

孤立解消後、全利用者避難

浸水から1日半後の、12日12時頃から水が引きはじめ孤立が解消したため、利用者避難を開始しました。普段、施設の避難訓練では、2階にいる利用者を車いすにのせて、職員4人で1台の車いすを下していましたが、このときは、職員一人が利用者一人をおぶったり抱えたりして1階に降り、車いすに乗せてから車に乗せました。

同グループの福祉施設に依頼していた福祉車両6台でピストン輸送し、家族が引き取りにきたショート利用者などを除いて96人が、浸水から33時間後、近隣の守谷市内の有料老人ホームへ一次避難しました。脱出までには午後2時から午後7時20分まで5時間半近くかかりました。当グループの有料老人ホームは数か月前にオープンしたばかりで、定員の3分の2があいていたため一次避難場所となりました。

その後、14日より県老施協等を通じて受入れを表明してくれた県内13施設に28人を移送しました。その際には、仲の良い人は一緒にする等、利用者の人間関係にも配慮しました。利用者にかかわる書類作成の作業は守谷市の施設で行い、受入れ施設に引き継ぎました。守谷市の有料老人ホームには筑水苑職員ほぼ全員が勤務していましたが、28人の利用者の受入れをお願いした施設には、利用者をお任せするという立場で職員の派遣はしていません。

 

利用者受入れの申し出を複数受けた中で、会いに行ける場所、顔の見える関係での受入れをお願いしたいとの職員の声を採用し、県内かつ面識がある施設に受入れをお願いしました。ただし、医療ニーズの高い方や認知症の重度の方、意思表示が不可能な方は対象外としました。後々、介護報酬の手続き等で調整が生じた際に、受入れ先をこのように決めていたことが活きました。

有料老人ホームに残った利用者についても、筑水苑では個室でしたが、家族と本人の了承が得られた方は広間などで対応しました。

9月12日の一次避難以降、特養部分のみサービス提供を継続し、ショートの受入れやデイサービスは休止しました。

 

避難中の職員と応援職員

長尾さんが筑水苑の事業再開に向けて奔走する一方、高橋さんは守谷市の施設を拠点に、利用者や家族、職員への対応を担当し、避難した利用者が寂しそうにしていると耳に入れば、顔を見に行くこともありました。長尾さんとは毎日連絡を取り合い、時々顔を合わせてお互いの状況を共有していましたが、まるで施設が2つに分断されてしまったようでした。

出勤可能な職員は守谷市の施設に出勤しました。筑水苑のユニット式に慣れている職員は、守谷市の施設での従来型のような広間でのケアに戸惑いもあり、区切りを入れたスペースをつくるなどしてユニット型での対応を試みました。デイサービスやショートステイの職員に関しては、本人の意向を聞いて、特養支援に入りました。特にショートステイの職員に関しては、筑水苑の通常業務においても同じフロアの利用者を夜勤も含め介護していたので、通常業務(早・日勤・遅・夜勤)として勤務していました。デイサービスの職員は、筑水苑で復興の業務を担った方が多かったです。

 

職員自身も被災者であり、疲労も重なり体調不良を訴える職員や救急車で搬送された職員もいました。県看護協会、県介護福祉士会に職員派遣を依頼し、筑水苑職員を休ませる対応もとりました。

後日、筑水苑に戻って1か月目に職員アンケートを実施した際、職員からは「従来型の施設での勤務が経験できた」、「1室に複数の利用者がいても丁寧な個別ケアができることが分かった」など今後の仕事に活きる発見や学びがあった様子がうかがえました。

長尾さんは、職員派遣を受けた中でも、「介護福祉士も看護師も、経験にもとづく見極めや判断ができる人材の派遣がありがたかった」と言います。「利用者の医療ニーズも高くなってきている中、働く環境が変わっても力が発揮できる、特に被災地での経験のある介護福祉士、看護師の存在はありがたかった」と話します。

筑水苑としても人材育成のために、被災地派遣に関心がある職員がいた場合、応援したいと考えますが、その間、自分の施設の利用者をどうするのか、職員を出してしまうと自施設の運営がもたないという悩みがあります。「今回職員派遣に協力いただいた施設にも同様の悩みがあっただろうと推測できるので本当にありがたかった」と長尾さんは言います。

 

そして、今後への一つの提案として、「低血糖や高血圧への瞬時の対応、認知症の方とのコミュニケ―ション、初めての相手ともチームワークが組めるなど、一定の経験のある職員の派遣は被災した施設としては本当にありがたい。一方で、派遣元施設へ人出を補ってくれるシステムやサポートがあると職員を派遣しやすくなるのではないか」と双方の気持ちがわかるからこその提案をします。

 

取材先
名称
(社福)筑水会 特別養護老人ホーム 筑水苑
概要
(社福)筑水会 特別養護老人ホーム 筑水苑
http://www.tikusuien.jp/
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