(社福)筑水会 特別養護老人ホーム 筑水苑
被害を最小限に抑え利用者を守り、施設自身が早めに立ち直る ~床上64センチの浸水被害を受けた施設が再開するまで~
掲載日:2018年3月26日
ブックレット番号:6 事例番号:55
茨城県常総市/平成29年3月現在

 

報道機関対応と感染症対策

浸水時に2階避難のために荷物を上げる作業をしていた際に、長尾さんはパネルで足にケガをしました。その後、短時間で化膿しました。「そのくらい汚染された水なのだと認識し報道機関への対応を行った」と長尾さんはふり返ります。また、鬼怒川からあふれた水が筑水苑に到達するまでには、地理的に病院を通過している可能性がありました。薬品汚染の影響も想像できました。感染症対策を意識したのは、2階への避難が完了した11日の午後からです。

まず、外部からの侵入口を2階の廊下につながる非常用の螺旋階段1か所に限定しました。廊下から建物への入口には、感染症予防用に消毒液をしみこませたタオルを敷きつめ、ベランダで新しい服に着替えてから内部に入ってもらうことを徹底しました。報道関係者で着替えない人は施設の内部に入れませんでした。報道関係者の中には、当初からリュックに新しい着替えときれいな長靴を入れて持ってきていた方もいました。おかげで感染症が出ることはありませんでした。

報道機関からの取材依頼に対しては、実情を知ってもらうことがこの先の復旧には欠かせないと考え、無下に断ることはせず冷静に対応していきました。発災直後も、福祉施設であるため逃げる場所や食事の確保が容易であろうと認識されてしまったようで、自ら状況を伝えたりSOSを発信する必要性を感じました。また、自衛隊のヘリによる救助も民間が優先でした。

 

「平成27年9月関東・東北豪雨」は平成27年10月6日に激甚災害に指定すると閣議決定しました。「これが認められなかったら施設の復旧は困難だったと感じている」と長尾さんは言います。施設は、被害を受けたことに伴い事業継続が困難な状況になります。東日本大震災時同様に介護保険の特例措置の対象とならなかった場合、サービス提供の継続も困難となります。今後の復旧に向けた対応指針がないと施設も利用者も守ることができないと考え、筑水苑では「利用者は一時的に避難するが、受入れた筑水苑に戻す」という方針を決めました。家族会では、国に激甚災害と認定してもらうための署名活動しようという話も出ていました。

 

螺旋階段は2階ベランダに続いており、職員の交代と物資の受渡しはここで行った。

また、報道機関関係者は2階の階段踊場で着替え等を行った。

 

横のつながり、連携の大切さを実感

今回の被災経験の中では、「連携」の大切さを実感させられました。「『グループ法人内の連携』だけでなく、『近隣の他法人との連携』、『県との広域連携』という3つの連携が重層的に機能したことで、利用者の安全が確保され、早期の復興につながったと感じている。中でも、『近隣の他法人との連携』が重要であることは今回特に実感させられた」と長尾さんは話します。

近隣の他法人との連携については、平成24年頃から守谷市の「守谷市介護保険施設連絡会」(ふれあいパートナーシップ連絡協議会)(2か月に1回開催)に参加していました。そのつながりで「広域区域パートナーシップ協定」を施設長間で結んでいました。また、顔がつながった施設長と有志で連絡先(LINE)を交換し、普段から研修に関する情報交換など、忌憚のないやりとりをしていました。常総市内には特養が7つあります。市内でケアマネジャーの勉強会はありますが、特養の施設長のつながりはありませんでした。

 

発災後、そのふれあいパートナーシップの施設長のつながりでLINEでのやり取りが始まりました。何が起きているのか、何が必要かをリアルタイムでやり取りすることができました。協定を結んだ施設の中で今回被災した施設は筑水苑だけでした。形式上の関係だったら、支援物資は水と毛布だけだったかもしれません。しかし、堅苦しくないやり取りができる間柄の近隣施設長たちは、近所を回って情報収集し、逐一報告してくれました。「ここの体育館にこんな物資がある」「洋服は?」「水分は?」「化粧品は?」…。筑水苑としても、避難所の状況や地域の物資情報を得ることができ、利用者家族や被災した職員へも情報を伝えることができました。

長尾さんは「施設として周囲にSOSを発信するためには、行政や社協ともう少し距離を縮めないといけないと実感した」と言います。長尾さん自身は3代目施設長として平成24年から筑水苑で勤務していますが、常総市の中での関係性をつくり上げていくことも課題と感じています。常総市は古くからの人と人とのつながりが強く、古くからの施設は行政や社協との付き合いがありますが、新しい施設では関係性がまだ築けていないという実感があります。近隣施設との「パートナーシップ協定」も、常総市周辺の県西ブロック、県南ブロックだけであり、常総市内ではまだ築けていません。

 

 

デイサービス利用者への対応

デイサービスは発災から2か月後に再開しました。1年経っても、まだ完全には復興していないと感じています。家族の被災に伴う転居などにより利用者は半分になりました(25人定員で平均20人だったのが今は15人)。9月12日(土)に全利用者が避難した後、13日(日)は施設を閉じ、14日(月)には県職員の視察が入りました。15日(火)には筑水苑の玄関にデイサービスを休止する旨の張り紙を出しました。休止の状況を報道機関の映像で知って問い合わせてきた家族もいました。

デイサービスの休止の連絡は、家族が避難していて連絡が取れないこともありましたが、居宅のケアマネジャーが在宅の方に伝えてくれました。在宅の方の安否確認については、常総市の“人のつながり”が活きました。避難所を歩いてまわる知り合いのケアマネジャーと携帯で連絡を取り合いました。「○○さんどこにいるか知っている?」と尋ねたり、「○○さんが●●の避難所にいるらしいけど行ける?」「△△さんは、ここにいた!」等の情報が得られました。

 

また、避難所でも「この方どこかで見かけなかった?」と聞くと近所の人が把握していることも多く、「親戚のところへ行った」と聞けば、連絡があるまで確認作業を保留にする対応を取ったりしました。どうしても状況が把握できない方へは、自宅へ行き、張り紙と自分の名刺をおいて「連絡ください」とメモを残しました。デイサービス利用者は、当初は自宅避難が多く、その後、ショートステイを利用する方もいました。筑水苑でのショートステイ利用者は、災害直後は1ユニット位の利用人数でしたが、現在は災害前と変わらない2ユニットの利用人数となっています。

 

取材先
名称
(社福)筑水会 特別養護老人ホーム 筑水苑
概要
(社福)筑水会 特別養護老人ホーム 筑水苑
http://www.tikusuien.jp/
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