墨田区防災課  小金井市貫井南町東自主防災会
避難行動要支援者の円滑な避難支援に向けて
掲載日:2021年7月7日
2021年7月号 NOW

 

あらまし

  • 令和元年台風第19号等の、近年多発する水害では、特に高齢者等の要配慮者に被害が集中しています。これを背景に、国は「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難に関するサブワーキンググループ」等を設置し、避難行動要支援者(※1)の避難について検討してきました。
  •  
  • この検討を基に、令和3年5月に災害対策基本法が改正され、避難行動要支援者の円滑な避難を図ることを目的に、市町村に個別避難計画(※2)作成を努力義務化しました。
  •  
  • 今号では、避難行動要支援者の円滑な避難支援に向けて、町会を通した取組みを行っている自治体と町会の事例を紹介します。
  •  
  • (※1) 避難行動要支援者:要配慮者(災害対策基本法では、「高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者」)のうち、「自ら避難することが困難な者であって、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要する者」と定義されている。平成25年の災害対策基本法改正により、避難行動要支援者の名簿作成が市町村に義務化された。
  •  
  • (※2) 個別避難計画:避難行動要支援者ごとに、避難支援を行う者や避難先等の情報を記載した計画。

 

共助を目的とした個別避難計画 作成のモデル事業を実施
~墨田区防災課~

(左から)

墨田区防災課 主査 秋田勇一さん

       課長 山中淳一さん

       主事 土川翔平さん

 

墨田区における災害時の要配慮者支援

墨田区防災課では、大雨や河川の氾濫など、さまざまな場面を想定し、避難行動要支援者名簿(以下、名簿)の整備や防災への意識啓発などを行っています。墨田区の名簿登載者は、75歳以上のみの世帯や障害、要介護等の要件の人です。令和2年9月1日時点では約2万5千人です。

 

また、墨田区では、平成12年度から要配慮者サポート隊(以下、サポート隊)事業を行っています。これは、阪神・淡路大震災をきっかけに、共助を目的として取り組み始めたものです。町会単位でのサポート隊の結成がすすみ、令和3年4月現在、171町会中145町会で結成されています。サポート隊の役割は、平時には要配慮者の把握やサポート隊の募集、災害時には避難誘導や指定避難所での要配慮者のケアを行うことが主に想定されています。

 

水害を想定した個別避難計画作成のモデル事業

墨田区では、個別避難計画(※3)(以下、プラン)を、町会を通して作成してきました。しかし、本人への同意付けが困難なことや名簿登載者の多さ等の理由により、十分にすすんでいませんでした。そこで、令和2年度より区独自のモデル事業として「個別避難計画」作成事業を開始しました。

 

モデル事業を始める一つのきっかけとなったのが、令和元年台風第19号です。「区内の被害はなかったが、荒川の水位がこれまでにない高さまであがった。これを機に、町会の意見も聞きながら、プラン作成の流れを具体的に見直すため、水害を想定したモデル事業を始めた」と墨田区防災課課長の山中淳一さんは話します。

 

モデル事業の対象地域は、荒川が決壊した時に、流れてくる水と流木等により建物への被害が想定され、早期に立ち退き避難が必要な区の北側の一部地域としました。

 

住民への事業の周知やプラン作成については、町会に協力してもらいました。発災時には地域住民による共助が不可欠だからです。また、名簿に登載されている人の中で、真に避難に支援が必要な人を町会が知っているのではないかと考えたからです。周知は、回覧板や掲示板、ポスティングなど、町会ごとに工夫して行ってもらいました。

 

モデル事業でのプラン作成の対象者は、75歳以上、木造住宅(1~2階)に住んでいる方等の要件にあてはまる人で、作成を希望する本人が申請書を区に返送します。区は本人が住む地域の町会にその情報を提供し、後日、町会員が本人宅を訪問します。避難支援者や避難手段等を聞き取りながら記入し、区に返送する流れです。

 

プランに記載される避難支援者の役割は、電話連絡のみや避難所に同行する等、対象者の状況により変わります。この支援者として前述のサポート隊が主に想定されていることも、町会に協力を依頼した一つの要因です。

 

「個人では責任が重いと考える人もいるため、町会名での記入も可とした。発災時に十分機能を発揮できるか、今後検証が必要である」と防災課主査の秋田勇一さんは話します。

 

令和2年度に作成したプランは85件でした。防災課主事の土川翔平さんは「町会としても支援が必要な人を把握でき『つくって良かった』との声もいただいている」と話します。

 

今後について「3年をかけて、現在対象となっている地域のプラン作成をさらにすすめたい。同じ支援者の名前が何人ものプランに載っているなどの課題や、モデル事業の対象者以外へのプラン作成等、福祉部局との連携も含め一つずつ解決していきたい」と山中さんは話します。

「災害時個別避難支援プラン」

町会員が記入しやすいように最低限の項目にしている。

 

防災力を高め、自分たちの地域を守る取組み
~貫井南町東自主防災会(小金井市)~

(後列左より)

      副会長 大澤則雄さん

災害支援担当副部長 緒方澄子さん
書記 小島芳恵さん
災害支援担当副部長 稲葉敦子さん
(前列左より)
副会長 天野達彦さん
会長 鈴木成夫さん
副会長 大澤利之さん

 

小金井市の貫井南町東自主防災会は、戸建住宅を中心に約400世帯が加入する、貫井南町東自治会区域の自主防災組織です。役員は、消防団の活動経験者や自治会役員等が担っています。区域内に暮らす人をよく知っていることが強みであり、地域への愛着が活動の原動力です。過去の災害の教訓やこれまでの訓練体験から、地域の方に対し、発災時にはできるだけ在宅避難すること、そのため日頃から各戸が必要な備えをすることをすすめています。その方針の下、さまざまな防災活動を積極的に行っています。

 

中学生が自ら考え、動く防災訓練を実施

貫井南町東自主防災会では、夏と冬の年2回、防災訓練を主催しています。夏の訓練は公園で、救命救急訓練や煙体験、消火訓練、炊き出しなどを行います。子ども会の子どもたちが楽しく参加できるよう工夫し、それに付き添う親の防災意識を高めることにも取り組んでいます。

 

冬の訓練は、発災時の一時避難場所となる市立南中学校において、学校や消防署、市の協力のもと、多くの中学生も参加し、実施しています。中学生が自ら考え、一からテント張り、炊き出しの火おこしや調理、救出救護訓練などに取り組んでもらう形にしています。自主防災会会長の鈴木成夫さんは「大災害の際は在宅避難では対応しきれず、避難所運営は困難を極める。子どもは守るべき存在だが、貴重な担い手でもある。大人が『手伝って』と言える、訓練を経験した顔見知りの子どもが多くいることは、地域にとって大きな力になる」と言います。

 

一昨年の小金井市立南中学校での防災訓練の一コマ

 

悪天候時などに日頃から要支援者の安否確認

小金井市の避難行動要支援者名簿には、75歳以上の独居および高齢者のみの世帯のほか、要介護3~5、各種障害者手帳1、2級の方など、一定の要件を満たす方等が登載されます。平成24年1月に貫井南町東自治会と市は、同市初の災害時要援護者情報の共有に関する協定を結びました。翌25年度からは、同自治会・自治防災会が市で第1号の「災害時要援助者(現:避難行動要支援者)支援モデル地区」となりました。

 

貫井南町東自治会内の避難行動要支援者のうち、現在、同意の上で個別避難計画(※4)を作成しているのは19人です。1件の重複もなく、1人の要支援者に対し、支援者2人を指定しています。個人情報を取り扱うことから、民生委員2名を含む役員数人のみで慎重に検討しました。信頼できる近隣の人に「○○さんの支援者として、いざというときに声をかけてほしい」と、1人ずつ了解を取り、コーディネートしました。

 

初めてこのしくみが活かされたのは、平成26年に大雪が降った時です。貫井南町東自治会会長で自主防災会副会長の天野達彦さんが支援者1人ずつに電話連絡し、要支援者の安否確認を依頼しました。実際は、依頼時点ですでに大半の支援者が安否確認を済ませてくれていました。

以来、さらに支援者の意識が高まり、天候悪化時等の要支援者への自主的な声かけが定着しています。令和元年台風第19号の際には、避難準備地域に住む要支援者に避難を促すなどしました。天野さんは「お互い様の気持ちで、できることを自然にやってくれている」と言います。

 

コロナ禍でもできることを着実にすすめる

令和2年はコロナ禍で、例年の防災訓練はできませんでした。しかし、集合しない訓練として、11月の指定の日時に、無事を知らせる「安否確認カード」を各戸が玄関先に掲示する訓練を行いました。カードには、平時の備えや発災時に取るべき行動、対策本部と防災倉庫の場所、避難場所等の地域の防災情報も記されています。このほか、WEBフォームを活用したアンケート回収等、新たな試みも積極的に行いました。

 

今後は、近隣自治会等とも協力し、避難所運営協議会の活動を推進したい意向です。鈴木さんは「マニュアルづくりより、まず始めることが重要。災害時にこの地域から犠牲者を出さないため、皆で着実に取り組みたい」と語ります。

 

(※3・4)「個別避難計画」…墨田区では「災害時個別避難支援プラン」、小金井市では「個別支援プラン」という名称で周知。

町会員が記入しやすいように最低限の項目にしている。

取材先
名称
墨田区防災課  小金井市貫井南町東自主防災会
概要
墨田区防災課
https://www.city.sumida.lg.jp/kuseijoho/kunosyoukai/sosiki/bousai.html

小金井市貫井南町東自主防災会
http://nukui-s.jp/
タグ
関連特設ページ