あらまし
- 令和3年6月26日(土)、(社福)武蔵野会オンラインセミナー「様々な生きづらさを知る~ひきこもり~多様な生き方ができる地域社会の実現」が開催されました。今号では、その様子を報告します。
ひきこもりと対話
第1部では、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授の斎藤環さんによる基調講演が行われました。
平成30年度に内閣府が実施した調査結果では、満40歳から満64歳までの年齢層で61・3万人がひきこもり状態にあると推計されています。斎藤さんによると、若年層が調査対象でなかったことやひきこもる人が見えにくい存在であることを考慮すると、全体の人数はさらに多いといいます。斎藤さんは「ひきこもりに至るきっかけはさまざまだが、長期化すると自力で社会参加を果たすことが困難になる。回復には第三者の介入が必要」と話します。
また、不登校やひきこもりの方への対応においては「常に本人の合意と拒否権を尊重し、本人がすすむべき方向を選択できるまで干渉を控えて、見守ることが必要」と指摘します。家族や関係者が不安を感じて、外出や就労等を強く促すことは、不安や焦り、不甲斐なさを感じる当事者にとってはプレッシャーとなり、逆効果になりかねないためです。再登校や再就職を目標とせず、本人が元気になることを目標に対話を続けることが大切といいます。
ひきこもり状態から回復するためには当事者との会話が不可欠です。斎藤さんは「議論や説得、尋問、叱咤激励ではなく、挨拶や誘い、お願い、相談が対話の回復には効果的。本人の言葉に耳を傾け、『あなたのことを知りたい』という肯定的態度が鍵になる」と対話のきっかけづくりのポイントを助言します。さらに、オープンダイアローグの手法を紹介し、その中でも、プランを立てずにひたすら目の前の対話の過程に没頭する姿勢を重視するという「『不確実性に耐える』原則」が重要といいます。
そうした対話を続けることで、当事者が自分自身の状態を肯定的に受け入れられるようになることが社会参加への第一歩につながります。「主体的に動けるようになり、すすむ方向を自ら見つけるという過程を経て、ひきこもりの出口に至る」と斎藤さんは示します。
求められる支援は「伴走」
第2部では、登壇者自身のひきこもり経験や、支援の経験をふまえたシンポジウムが行われました。
(一社)ひきこもりUX会議代表理事の林恭子さんは「これまで就労や経済的自立をめざすことを第一として支援が展開されてきたが、自己肯定感が失われている当事者にとって、はじめから就労をめざすことはハードルが高く、就労に至っても継続が難しい。実際にはその手前の支援の充実が求められている」と指摘します。(公社)青少年健康センター茗荷谷クラブチーフスタッフの井利由利さんも「ひきこもりの問題は本人を取り巻く家族や社会との関係が非常に重要であり、その喪失を防ぐことを一番考えなければならない」と話します。自ら人間関係を遮断せざるを得ないほど追い詰められた当事者が回復していくためには安心できる環境と身近な存在である家族の肯定的な関わりが不可欠といいます。そのためには家族へのサポートも欠かせません。(特非)KHJ全国ひきこもり家族会連合会の深谷守貞さんは「ひきこもり支援は事態が前進したり後進したりすることが当たり前であり、その過程で本人を置いてきぼりにせず、継続的に伴走することが大切」と支援のポイントを伝えます。家族や当事者を孤立させないよう、地域の理解をすすめ、多様な形の居場所を整えることの必要性について登壇者それぞれから触れられました。
また、10代~80代まで幅広い年代の当事者からのニーズはさまざまであり、一つの支援機関だけでは対応しきれません。林さんは「ワンストップ窓口で受け止め、それぞれの状況にあった多様なつなぎ先を準備することが求められる」と強調します。
課題解決に向けた支援に強みを発揮する専門職や、つながり続ける支援を強みとする当事者団体や家族会など、関係者の連携によって互いの強みが活かされる体制が今後ますます必要となるといいます。
シンポジウムの様子
基調講演の様子
https://musashinokai.jp/