熊本県熊本市/平成29年3月現在
事業継続とあたりまえの状態へ早期に戻す目標
こうした状況でしたが、リデルライトホームは各事業所のサービスが途切れることなく継続するようにしました。
通所介護は、そのスペースに避難していた地域住民に理解してもらい別のスペースに移動してもらった上、本来の利用者で通える方を迎えに行きました。地域包括支援センターも安否確認のため、地域を回りました。
そして、訪問介護も震災翌日からカセットコンロ、ペットボトルの水をヘルパーに持たせて行いました。これらの備品は利用者宅で支障なくサービスを提供するためのものです。ノットホーム施設長の吉井壮馬さんは、「東日本大震災以降、震災があったときに備えて、発電機5個、カセットコンロ20個、ポリタンク20個を買ってあった」と話します。そして、熊本で実際に震災が発生し、吉井さんは「目の前の緊急対応としてできることをした。
理事長からは『4月中には通常に戻そう』と言われた。そんな風に『あたりまえの状態』へ早い時期に戻そうという目標が与えられたのはよかった」と話します。これは、通常事業の再開目標をもつという、福祉施設のBCP(事業継続計画)を考える上で重要な視点といえます。
右から
理事長 小笠原嘉祐さん
ノットホーム施設長 吉井壮馬さん
事務部長 木村准治さん
県内の被災法人を訪ね歩き、支援物資供給フローを作成
震災から2日目には、手分けして他の被災した法人への支援を始めました。まずは被災状況の確認です。小笠原さんと吉井さんは被害の大きかった益城町や阿蘇地域の被災施設へ物資を届けに行きながら、状況を確認してきました。小笠原さんは「早い時期にパッと入って状況を確認し、すぐに必要な支援を届ける。そのことによって、その後もニーズに対応した支援を継続できる。益城町では、殺到するマスコミをかき分けて被災施設に行ってきた。市町村は一般避難者への対応に精一杯で、福祉施設のことには手が回らない状況だった」と話します。
実際に、手分けして訪ね回ることで、熊本市内でたまたま断層の上に位置していたために壊滅的な被害を受けてしまった施設を、まだ行政もどこも把握していない段階で見つけ出しています。こうした被災状況は、熊本県経営協の事務局がFAX等で把握した情報と合わせて、同事務局により一覧にまとめていきました。熊本県経営協の青年会もニーズを訪ね歩くことに力を発揮してくれました。
そして、震災から4日目の4月18日には、全国経営協を通じて全国の法人から集まる支援物資の拠点をリデルライトホームにすることに決定しました。さらに、4月20日には熊本県経営協の10人の役員にリデルライトホームへ来てもらい、全国からの支援物資の受入れ拠点であるリデルライトホームから県内の被災施設へニーズに応じた物資が届くようにするため、県内に6カ所の各拠点法人を決め、次ページの「災害支援物資供給フロー」を作りました。基本的には各拠点法人がリデルライトホームに全国から集まっている物資を取りに来るしくみです。
こうした取組みには、まずは緊急に必要な物資を提供することで、「支援ニーズ」という情報を継続して得る意味があります。これが後に人的な支援のマッチングをすすめる上で具体的なニーズがわかっているという状態につながります。また、6つの拠点法人による対象地域の設定は、既存のブロック割りなどではなく、そのときの被災状況を把握した上で、「効果的な支援を展開するためにその時の状況で決めた」という点もこのフローの重要なポイントです。
さらに、小笠原さんは「支援の申し出を『断らない』ことが重要だ」と話します。実際に水は山ほど来ました。飲料水としてはニーズが充足した後も、それは生活用水として使えました。「『もういいです』と断ってしまうと、そこで支援が途切れてしまう。支援の流れは切らない」と、その意図を話します。それは、具体的な被災施設の状況をふまえ、全国からの「支援したい」という意思を次の段階に別の形で必要となってくるであろう支援へつなぎ止めておこうという視点です。
そして、「その被災施設が必要だと思うものをどんどん持って行ってもらえばよい。『平等に分配しよう』などと考えない方がよい」と小笠原さんは強調します。「しくみ」にこだわってしまうと、そこには滞りが生まれ、支援の効果が損なわれる危険があります。さらに、こうした支援をさまざまな種別協などの会員組織が並行して行う状態を小笠原さんは「それはそれで構わないのではないか。それぞれが会員への想いをもって支援している。被災した施設が自分に必要な物が手に入りやすいルートを選べばよい」と話します。
支援物資は当初、まずは必要と思われる水や米が集まってきました。一方、福祉施設には一般の救援物資と異なり、固有かつ大量に必要な物資があります。おむつ類がその一例です。プラスティックの手袋やマスクなども全国の法人で同じ仕事をしているからこそ集まってくる物資でした。
一方、リデルライトホーム自身も被災法人の一つです。当然、被災状況を尋ねるFAXは当時、たくさん届きました。それに答える立場だった木村さんは、「目の前のことに追われ、書いている時間がないのは事実。それに回答するとどうなるかがわからないと、その時間を割くのはつらいと思う」と話します。具体的な支援につなげるためでこその情報集約であることが大切なポイントになります。
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