新型コロナをきっかけに「地域での助け合い」の機運が高まった
掲載日:2021年9月14日

「たまの手」に関わる皆さん

 

「たまの手」は、調布市染地と狛江市西和泉にまたがって位置する多摩川住宅で活動するボランティアグループです。住宅内や近隣の住民の日常のちょっとした困りごとを手助けしています。令和3年3月にグループの活動がプレスタートし、4月より本格始動しました。具体的には、電球の交換作業や家具等の移動、買い物の付き添いや粗大ごみを階下に降ろす手伝いなどを行います。利用者は「たまの手回数券」を1枚100円で購入し、お手伝い終了後に、10分につき100円分を目安に、券を渡します。

 

◆「たまの手」の活動に至るまで

「たまの手」のグループ設立・活動開始には、調布市社会福祉協議会(以下、調布市社協)の地域支え合い推進員(生活支援コーディネーター)の北島正也さんと地域福祉コーディネーターの中村竜さん、市民活動支援センターのコーディネーターの渡邉久美子さんが、多摩川住宅のある地域の担当として関わっています。多摩川住宅は、エレベーターのない5階建てで、昭和39年に着工し、昭和43年に完成した住宅団地です。多摩川住宅には一人暮らしの高齢者が多く住んでいますが「これまでこの住宅からボランティア活動の依頼は少なかった」と渡邉さんは言います。

 

「家族や親族からの手助けはもちろん、住宅の棟ごとに、昔ながらのつながりや助け合いがあった中で困りごとを解決できていたからだと思う。ただ、年齢を重ねるにつれ、そういった関係が負担に感じたり、不安感が出てきたりしていたようだった」と言います。続けて「そういった状況の中で、北島さんや中村さんが住民の方々と上手に関わり、ニーズを拾い上げてくれた」と話します。

 

北島さんや中村さんは、多摩川住宅のある地域の担当ワーカーとして、高齢者が多いことや生活にまつわる困りごとを抱えた方がいることなどを把握していました。北島さんは「『自分たちの住宅の中で十分に助け合えている』という気持ちを持っている方もいたので、時間をかけて関係性をつくっていった」と話します。住民懇親会に参加したり、団地のお祭りに呼んでもらったりして、住民の方々に徐々に受け入れてもらえるようになっていきました。「自然な会話の中で住民の方々の日常を知ることができ、『たまの手』の活動につながった部分もある」と中村さんも言います。また、令和元年に発生した台風19号の時には、団地の集会所や備品を貸してもらえたり、住民の方が差し入れをしてくれたりするなど、よりつながりが強まりました。

 

新型コロナの感染拡大による移動の自粛などで、今までよりもさらに家族や親族からの生活の手助けが得られにくい状況となりました。そのため、地域に関わりを持つ働きかけをしてきた北島さんらにちょっとした困りごとの声が寄せられるようになりました。「困りごとを解決するだけでなく、退職した方が活躍できる場や、高齢者の生活のお手伝いができるしくみがあったら良い」といった声もあり、これらのニーズを包括的に実現することができる活動として「たまの手」を立ち上げることになりました。

 

北島さんは「コロナ禍でできないことも多い状況だったが、住民の方々の思いを傾聴しつつ、今できることにも目を向け、伸びしろを探すよう意識した」と話します。渡邉さんも「あきらめるだけでなく、できることもあるのではないかと、北島さんや中村さん、地域のみなさんでよく話し合っていた」と言います。

 

(右から)

調布市社会福祉協議会 地域支え合い推進員(生活支援コーディネーター)北島正也さん

市民活動支援センター コーディネーター 渡邉久美子さん

調布市社会福祉協議会 地域福祉コーディネーター 中村竜さん

 

◆「たまの手」メンバーの思い

「たまの手」のメンバーは多摩川住宅の住民の方々です。ミーティングでは、活動の振り返りや実際の活動から見えてきた課題の共有などをしています。8月6日でのミーティングでも、手助けできる依頼内容とそうでないものとの区別や、お手伝い後にもらう回数券の枚数の基準などについての活発な意見交換が行われました。

 

「たまの手」について、メンバーのみなさんは次のように話します。

 

井垣弘子さんは「始める前は、これほど多くのお手伝いの依頼が来るとは思っていなかった。需要があることに驚いた」と言います。恩田雅枝さんは「介護保険等のサービスを使うほどではなくても、ちょっとした困りごとを抱えている人のところに手が届き、カバーすることができる」と活動の意義を話します。江沢幸子さんも「年を取ると、今までできていたことができなくなる。それを手助けしてくれる人が身近にいるのはとても心強い」と言います。

 

「たまの手」の役割は、今住んでいる高齢者の日常の困りごとを解決することだけではありません。多摩川住宅は今後、建て替え工事を控えており、新しい「街」に変わっていく予定です。「今は高齢者が多く住んでいるが、これから若者を呼び込み、その若者たちが高齢者になり…というように多摩川住宅でのつながりが続いていく必要があると思っている。そのためにもコミュニケーションを大切にしていきたい」と野崎理人さんは言います。関昭弘さんは「調布市社協のサポートがあるから活動の継続ができている」、続けて「活動資金はじめ、市内外の先駆的な活動、他団体との交流といった情報はとてもありがたかった」と感謝の思いを口にしました。

 

最後に、森原秀夫さんは「住宅内で実施したアンケートに『困りごとがあったら助け合えばいい』という回答が多くあり、感心した。近所付き合いが希薄になったと言うが『助け合おう』という意識があることを知れたのは大きな収穫」と、住民の方々の気持ちを共有しました。

 

また、今回のミーティングには、多摩川住宅近隣の東京慈恵会医科大学の先生の参加もありました。同大学による「まちの保健室」などの既存の活動と協働できるしくみの確立や、学生のボランティア人材の確保に向けた働きかけも積極的に行っています。今後もこの活動をみんなで発展させていく予定です。

 

ミーティングの様子

 

手作りの「たまの手」エプロン

取材先
概要
調布市社会福祉協議会
http://www.ccsw.or.jp/
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