熊本県熊本市/平成29年3月現在
社会福祉法人熊本県社会福祉事業団が運営する「熊本県身体障がい者能力開発センター」(以下、「能力開発センター」)は、自立訓練事業(15人)、生活介護事業(25人)、施設入所支援(30人)を実施する指定障害者支援施設です。身体障害者を中心に、知的障害者、精神障者が利用しています。平成28年熊本地震では、熊本市との協定に基づき福祉避難所を8月15日まで開設しました。能力開発センターでは入所している施設利用者の生活を守りながら、福祉避難所で25人(家族4人)を受入れました。
能力開発センターは、熊本市東区にあり、同じ建物内で次の施設が活動しています。
①熊本県身体障がい者福祉センター
(設置:熊本県、運営:熊本県社会福祉事業団)
②熊本県聴覚障害者情報提供センター
(設置:熊本県、運営:熊本県ろう者福祉協会)
③熊本県点字図書館(設置:熊本県、運営:熊本県視覚障がい者福祉協会)
能力開発センターが設置した上記の福祉避難所と別に、①~③を活用した福祉避難所も設置されています。そこでは、①で肢体不自由の方、②で聴覚障害者、③で視覚障害者の避難者をそれぞれ受け入れています。こちらはもととは福祉避難所の指定は受けていなかったものの、ニーズに応じて設置したものです。そこでは避難者を支援する人的な体制がなかったため、6月30日まで在宅福祉を展開するふくし生協からの人的な支援を受ける形での福祉避難所となっています。
熊本市内の福祉施設の被災状況と被災者支援
平成28年4月14日(前震)・16日(本震)に発生した熊本地震で福祉避難所を開設した熊本市では、同年9月に協定を結んでいた186か所の福祉施設等を対象にアンケートを実施しています。そこでは、福祉避難所の有無に関わらず全体の31.5%の施設が「建物の一部が使用不可になった」としており、74.8%の施設が「断水」、33.9%の施設が「停電」となる被害を受けています。そして、半数以上の59.8%の施設が「(職員が被災し)、一部に人手不足が生じた」と答えています。
また、半数以上の53.5%の施設が「一般市民を受入れた」という状況がありました。そうした中で、67.7%にあたる86施設が「要援護者」を受入れています。
要援護者を最初に受入れた時期は「3日以内」が34.6%。それ以降で4月中に受入れた施設の22.1%を合わせると、半数以上の56.7%の施設が「4月中」に受入れています。
発災直後の「3日以内」に受入れができなかった理由では、「断水・停電があったため」(27.9%)、「職員が被災し、人手不足となったため」(23.8%)が多くなっています。
図1 熊本市と福祉避難所の協定を結んでいた施設等の被害状況
図2 一般市民・要援護者の受入れ状況
安全な施設に避難する安心感
平成28年4月14日の午後9時26分。前震が発生しました。施設には利用者(入所者)が30人(平均障害支援区分3.9)いました。前震では、夜間生活支援員の2人で対応しましたが、電話が不通のため、施設長、施設の近隣に住む当センター職員2人および社会福祉事業団の職員2人がセンターへ応援に駆け付けました。幸い建物には被害がなく、利用者も落ち着いていたので参集した職員も数時間後には帰宅しました。
そして、4月16日の午前1時25分に本震が発生しました。前震の時とは異なり電話が通じていたので、夜間の生活支援員から施設長へ「利用者に混乱もなく、建物被害もない」ことが迅速に連絡できました。施設近隣に住む職員2人が施設に参集し、夜間支援員とともに、利用者への対応を行いました。
この本震が発生した後、ライフラインでは、ガスの供給が止まったため、倉庫にあった炊き出し用のガスコンロを屋外に設置し、使用しました。このコンロは災害用に備えておいたものではなく、「たまたま施設にあったもので、大変役に立った」と、能力開発センター所長の吉田好範さんは話します。水道も止まりましたが、受水槽と高架水槽の設備があったのですぐに困ることはありませんでした。ただし、入浴は10日間中止となりました。27日に給水車がきて受水槽に給水をした1時間ぐらいあとで、水道が復旧したのですが、断水中の水道管の汚れが一挙に溢れて、せっかく給水車が給水した水が汚れて、一時飲み水には使用できなくなるような混乱も起きました。
本震の翌日の15日には、入所利用者が無事で安全であることを家族の方々に報告しました。また、通所利用者の安否確認を行いました。被害を受けた通所施設利用者には、センターへ避難するよう指示し、16日には、センター通所利用者5人を受け入れましたが、その時点では、まだ福祉避難所を開設していなかったので、5人は自主避難の扱いになりました。
また、施設を日常利用している利用者からの要請もあり、避難者を受け入れました。その後、熊本市からの要請に基づき福祉避難所を開設し、4月26日にはもともとの当センター利用者4人(身体障害者3人、難病者1人)とセンター利用者以外の11人、計15人を受け入れました。余震への不安があり、住んでいた住まいの片づけや改修が必要、または自宅が損壊して新たな住まいを確保しなければならない方々です。
副所長の中畑昭日出さんは「自宅が被災した職員も頑張ってくれた。建物が丈夫にできている安心感からか入所利用者が特に不安はみられず、落ち着いて過ごしていた」と話します。吉田さんも「避難してきた方々も、施設にいることで安全で安心という気持ちがあったのではないか」とふり返ります。
熊本県身体障がい者能力開発センター 所長 吉田 好範さん(左)
副所長 中畑 昭日出さん(右)
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