熊本県熊本市/平成29年3月現在
うちが断ると行き場がないなら…
身体障がい者福祉センターの方に設置された福祉避難所の運営では、ふくし生協の協力もありました。利用者がふくし生協を利用していた関係からボランティアとして日常生活の支援をいただきました。「利用者の地域でのつながりから震災など緊急の事態では、施設が協力を得られることがある」と吉田さんは話します。
能力開発センターに設置した福祉避難所では、8月15日までに計25人の利用者と家族を受け入れました。受入れた避難者は、障害別には身体障害者18人、精神障害者2人、難病者1人と身体障害者の家族の方4人です。すべて熊本市内の方々です。これは、熊本市が県内の種別の施設協会と協定を結んでいたからです。
吉田さんは「能力開発センターが会員となっている熊本県身体障害児者施設協議会が2年前に熊本市と福祉避難所の協定を結び、会員施設である24施設は自動的に福祉避難所となっていた。確かに協議会の会議でその説明を聞いた覚えはあったが、そのための備えができていた訳ではない。市からの要請を受けて『とにかくやるしかない』と、できることを頑張ったというのが実情」と話します。さらに、「熊本市との協定だけで十分だったのだろうかと思う。熊本市よりも被害が大きかった町村からも受け入れるような広域での調整を検討する必要性も感じる」と指摘します。
中畑さんも「熊本市から個々の避難者ごとに受入れの依頼があり受入れをした。当初は身辺が自立していることを条件にしていたが、実際は入浴・排泄等の支援を要する方やてんかんによる救急搬送を数回行うなどの支援が必要な方もいた。『うちが断ると行き場がない』と聞くと、『お受けしましょう』と答えているうちに受入れが25人になった」と話します。
地域で暮らしていた避難者への支援
避難者の方に提供したのは居室(相部屋)、ベッド(寝具)、食事(入所利用者と同じ食事を1日3食提供)、入浴。それと、被災者支援についての情報提供などです。ベッドはちょうど古いベッドが15台捨てずに保管してあったので、それを使うことで15人の避難者を受入れることができました。避難者は身体障害などのため、畳敷きの部屋で布団の生活することは困難なので、ベッドは不可欠でした。
避難されてきた精神障害者2人の方はもともとのセンターの利用者ではなく、本人をよく知るキーパーソンと連絡が取れず、情報がありませんでした。そこで、本人といろいろと会話をする中で、情報を得るようにするなど工夫しました。避難者が震災前にどのような日常生活を送っていたのかをどう把握していくか、被災時の支援では重要な視点になります。
吉田さんは、「避難者の多くはもともと一人で在宅生活してきた方々なので、施設での生活を望んでいるわけではない。その点で避難生活に馴染めなかった面もあると思われる。生活の変化にとまどい、それに対するフォローも必要だった」とふり返ります。
福祉避難所の開設に使った機材
避難者を支える体制
開設した福祉避難所に避難者を受け入れるようになり、夜間の生活支援員2人では対応が困難な状況となりましたが、日中の職員で早出・遅出のシフトを組んで対応することにしました。
「震災後は、職員も被災者で食べ物もなく、家に帰れず何日も避難所に泊まったり、車中泊を余儀なくされた職員もいた。そうしたなか、体調を崩す職員がいなかったのは幸いだったが、厳しい状況にもかかわらず職員は頑張ってくれた」と、吉田さんも中畑さんも職員の利用者と避難者に真摯に向き合った姿勢を自負します。また、従来から付き合いのあったリハビリテーション学校の学生が、ボランティアとして夜間の業務に協力してくれました。
そして、5月9日からは熊本県を通じて要請した夜間職員の派遣が始まり、九州、山口県、静岡県、東京都の障害者支援施設から職員が常時1人の体制で支援に来てくれたので、夜間の職員体制がとれるようになりました。この派遣は7月12日までの2か月間にわたり、この支援職員がいたことで福祉避難所としての機能が維持することができました。ただし、避難者の受け入れ準備や避難者への支援があったため、通常の施設利用者への支援は、一部を休止せざるを得ませんでした。
地域での生活への復帰までの支援
その後、能力開発センターの福祉避難所では、避難して来た人も徐々に在宅へ帰り、7月23日から避難者は4人となり、訓練室の2部屋で2人ずつ生活をされていました。その頃は一日中部屋でテレビを見るなどして過ごされていました。8月から避難者用の部屋としている訓練室を、日頃の利用者の訓練での使用を再開するため、4人の避難者に宿泊棟へ移ることを提案したところ、在宅へ帰ることを希望されました。そこで、センターとしては、自宅へ帰ることができなくなった方のアパート探しなどの支援を行い、8月15日には全員が退去されました。
福祉避難所として避難者を受け入れてその避難生活を支えるとともに、その後の生活の基盤に向けた支援も大切なものとなります。
福祉避難所を運営した経験から学んだもの
吉田さんは福祉避難所を運営した経験をふり返り、災害時の障害者の避難について、次のように話します。「障害者にとって、やはり障害に応じた福祉避難所が必要と考える。能力開発センターは主に身体に障がいのある方を受け入れたが、体の不自由な障害者や高齢者にとってはベッドが必要不可欠であり、建物の段差の有無に限らず、身体障害、発達障害などそれぞれにあった機能をもった避難所がますます必要になってくるだろう」と話します。
そして、「今回の震災を経験して職員が変わり、チームワーク力が強くなった」と、中畑さんは話します。一方で、福祉避難所は夜間も支援が必要な方が避難されることから、マンパワーを確保することが重要となります。
「震災ではとにかくマンパワーの確保が重要である。災害時には避難者を受け入れることで、いつにもまして平常時からの利用者、新たな避難者の心身の支援をはじめ、想定していないマンパワーが必要になる」と、吉田さんは訴えました。
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