NPO法人ピアサポートネットしぶや
ピアサポーターの役割と 校内居場所における『ななめの関係』~NPO法人ピアサポートネットしぶや
掲載日:2021年10月13日
2021年10月号 TOPICS

NPO法人 ピアサポートネットしぶや
(右から)理事長 相川良子さん、統括リーダー 石川隆博さん

 

渋谷区にあるピアサポートネットしぶやは、平成21年2月に設立された団体です。都内を中心に、不登校をはじめ、困難や生きづらさを抱える子どもと若者、その家族の自立を、相談事業、アウトリーチ(訪問支援)、居場所・フリースペース等を通して支援する活動を主に行っています。利用者からの利用料や、地域からの寄付等を受け運営しています。

 

理事長の相川良子さんは、中学校での教員時代を振り返り「学力や偏差値などの競争社会の中で、学校は偏差値を上げることを重視する傾向が強くなった。子どもたちにとって学校が居心地の良い場所ではなくなり、それが校内暴力や不登校につながっていった。教員の立場を離れたら、子どもたちのために居心地の良い場所をつくろうと決めていた」と設立の思いを語ります。

 

ピアサポートとピアサポーター

ピアサポートネットしぶやでは、ピアサポーターの募集や研修等も実施しています。

 

「ピアサポート」とは「仲間同士の支え合い」の意味であり、ピアサポートネットしぶやでは、「若者」と「親・家族」を表しています。「ピアサポーター」は、ピアサポート活動の担い手として、本人と直接会い、1対1での対応を行っており、上下の関係ではなく対等な関係での支援を大事にしています。

 

ピアサポーターは、ピアサポートに興味や関心があり、やってみたい意欲がある18歳以上の方であれば、どなたでも応募することができます。書類と面接による選考を経て、座学や実習・面談等の研修を行い、修了証を受けた方が登録されます。大学生など若い世代からの応募が多いのですが、最近は就労移行の作業所の利用者からピアサポーターになりたいという問合わせも増えてきています。

 

統括リーダーの石川隆博さんは「ピアサポートネットしぶやに寄せられる相談は、不登校やひきこもり状態にある方の家族からが大半で、ひきこもりの期間が長いという特徴がある。相談機関に不信感を抱いている人も多いため、対等な関係で支援するピアサポーターの役割に期待があり、不信感を払しょくする上で重要な存在になっている」と話します。相川さんは「ひきこもりの場合は親子関係を再構築するケースがあり、親の立場からではなく、本人である子どもの立場に立って、意見をアドボケイト(代弁)してあげることがピアサポーターの大切な役割となっている」と語ります。

 

校内での居場所活動と『ななめの関係』

新型コロナの感染拡大の影響により、令和2年度には多くの学校が休校になりました。コロナ禍の終息が見えない中、ピアサポートネットしぶやの相談受付、フリースペース利用等の人数制限や時間短縮等、試行錯誤しながら運営を続けていました。石川さんは「どうやったら居場所を開放することができるかを理事長と共に考えた。長期休暇後は不登校や自ら命を絶つケースが増加する傾向がある。休校明けはそれに対する懸念があった」と当時の緊張感を語ります。

 

そんな中、他事業を通して関わりがあった区内の中学校に生徒の紹介を依頼したところ、「ぜひお願いしたい。感染リスクが心配なので、学校内で活動してほしい」という言葉を頂き、校内での居場所づくりを検討し、同年10月から、同中学に通う1年生を対象に、放課後の空き教室を利用した「校内での居場所活動(以下、校内居場所)」を試行的に開設しました。宿題や塾の課題に取り組んだり、絵しりとりやゲームを楽しんだり、一人ひとりが自由に自分の時間を過ごせる場所になっています。

 

スタッフは大学生のピアサポーターや地域の大学生のボランティア等に声をかけて参加してもらい、生徒の学習支援のほか、生活に関する相談相手等を担っています。各クラスの担任から、気になる生徒に声をかけてもらい、保護者の同意を得た生徒が校内居場所を利用しています。

 

石川さんは校内居場所について「クラスでは大人しいと聞いた生徒が、校内居場所で元気に活動している様子を見ると、その生徒にとって、居心地の良い居場所になっていると感じる」と話します。続けて「学校では『ピアサポート学習』と呼ばれており、生徒だけでなく、保護者や先生からも大変好評いただいている。校内居場所をつくったことで、先生が生徒の様子を見に来たり、先生に利用生徒のクラスでの様子を聞いたり、連携が取りやすくなった」と話します。

 

同年11月からは正式に開設し、現在は週に1回を基本としながら、状況を見て柔軟に実施しています。対象者は昨年度からの参加者に加え、今後は新入生も参加できるようにする予定となっています。

校内居場所に参加するピアサポーターやボランティアなどの大学生について、相川さんは「同世代の兄や姉のような『ななめの関係からの支援』は、生徒にとって大きな居心地の良さを生んでいる。『ななめの関係』になれる大学生等の若い人を地域と学校の間に置いて、つなげていくことに大きな価値を持って校内居場所に取り組んでいる」と言います。石川さんは「大学生も私たちも、生徒から学ぶことが多く、お互いにとって良い相乗効果が生まれている。学習支援の場面では、勉強の苦手な生徒がいたら、みんなで伝え方や教え方を考えていくので、大学生にとっても学びの幅が広がっていく」と話します。

 

校内居場所で絵しりとりを行っている様子

 

心を休める隙間のような居場所をつくる

現在、ピアサポートネットしぶやでは、多くの学校が集中する渋谷区の強みを活かして、中学校、高校、近くの大学が連携しやすい地域の学校内に拠点を増やし、「放課後自習教室」として居場所活動を広げていこうと考えています。

 

石川さんは「どうにかしてでも学校に行かなきゃいけないと思い、苦しんでいる生徒が、校内居場所には多い。そういった生徒がピアサポーターの大学生と会話することで、気持ちが和らぎ、前向きになれる場所を増やしたい」と言います。相川さんも「不登校やひきこもりに寛容になり、心を休めることができる隙間のような居場所をつくり、気持ちに寄り添える存在とつながることができる場が地域社会には必要」と活動の意義を語ります。

取材先
名称
NPO法人ピアサポートネットしぶや
概要
NPO法人ピアサポートネットしぶや
https://peersupport.jp/
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