あらまし
- 東社協地域福祉部では、令和3年6月に、都内の区市町村社会福祉協議会(以下、社協)に対して標記調査を実施し、全62社協から回答を得ました。ここでは、調査から見えてきた、コロナ禍における地域課題や地域活動の状況と、地域課題を解決するためのしくみである重層的支援体制整備事業の取組み状況を紹介します。
コロナ禍で顕在化した地域課題
8割を超える区市町村社協が、顕在化した地域課題があると回答しました。あげられた課題は大きく4つに分けられます。1つ目は「日常生活の長期にわたる変化に伴う今後の影響」で、高齢者のフレイルや認知の低下、障害者の交流機会の減少、親以外の大人との交流が減った子どもなどが課題となっています。2つ目は「これまで把握されていなかった新たな地域課題」で、ギリギリで生活していた世帯の不安定な状況やその世帯が抱える複合的な課題、親族の手助けが不可欠な子育て世帯、外国籍の居住者の実態、相談が苦手な人の多さなどがあがりました。3つ目は「地域課題の担い手と今後の活動のあり方への影響」で、地域活動停止による活動者のモチベーション低下、地縁関係や一体感の希薄化、中高生のボランティア活動の機会の減少、日中、地域にいる人は増えたのに地域活動につながらないことなどが課題として見えてきました。4つ目が、デジタルスキルの世代間の差や外国籍居住者の言葉の課題に代表される「情報格差への対応」でした。
課題把握の方法や継続的な支援
地域課題を把握したきっかけとして多いものは、「特例貸付の相談を通じて」「地域福祉活動を通じて」「民生児童委員から」でした。ほかにも、特例貸付の貸付終了者への調査、小地域活動や拠点での地域課題の調査、フードパントリーでの困りごと調査などのアンケート調査、通いの場の代表者による参加者への安否確認、子ども食堂連絡会を契機とした困窮家庭の把握など、さまざまな課題把握の方法が見られました。
また、新たな地域課題を把握した区市町村社協のうち、9割近くが継続的な関わりや支援があると回答しています。区内の社会福祉法人と連携した相談支援付きの食料支援、企業の協力を得て実施したスマホ講座から派生した住民による相談会やサロン、地域の企業や大学等の連絡会と連携した食の支援、Zoom井戸端会議やサロン同士の情報交換など、さまざまな取組みが実施されています。
必要と思われる地域福祉活動
顕在化した地域課題を継続的な関わりや支援につなげていくために必要と思われる取組みについては、次の4つがあがりました。
1つ目は、地域福祉コーディネーターによるアウトリーチの強化、関係機関との連携、住民の力を中心とした取組みなどの「地域と連携した継続的な関わり」です。2つ目は、外国人コミュニティなどの新たな課題の実情を把握し、住民や社会福祉法人などの地域の関係機関と地域課題として共有することです。3つ目は、地域活動へ意欲がある方への効果的な情報発信、IT支援ボランティア、新しい形のつながりづくり、大学や企業との連携、動画等を活用した地域活動など、新たな担い手づくりと活動の再開・継続支援です。4つ目は、情報格差を生まないさまざまな媒体による情報発信や外国人に対する「やさしい日本語」の活用などです。
重層的支援体制整備事業の活用
顕在化した課題へ継続的に関わり、地域におけるつながりを高めていくために、重層的支援体制整備事業の活用が考えられます。これは、地域における既存の取組みを束ねつつ、「相談支援CSW」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」を一体的に推進する事業で、既存の相談支援や地域づくりの事業の活用に加えて、「参加支援」「アウトリーチ等を通じた継続的支援」「多機関協働」を実施するものです。
都内では、20の自治体が令和3年度から本事業または移行準備事業を実施する予定です。実施予定の自治体に共通していることは、社協に地域福祉コーディネーター(CSW等を含む)が配置されていることです。本事業の財源を活用し、地域福祉コーディネーターが増員された社協もあります。
現在、想定・検討されているしくみは、地域福祉コーディネーター事業や地域の拠点など、従来から社協で行っている取組みを発展させていくものが多いようです。地域福祉コーディネーターや自立相談支援事業、権利擁護センター機能を活かして一体的に取り組むしくみなどもありました。
重層的支援体制整備事業実施に向けた課題と今後に向けて
アンケートでは、重層的支援体制整備事業を実施するにあたっての課題も寄せられました。
「相談支援」や「ニーズ発見」については、アウトリーチできる地域福祉コーディネーターの配置、ニーズ発見のために地域ネットワークをいかにつくるか、支援につながるまで時間をかけた丁寧な関わりなどが課題です。
「多機関協働」については、どの機関がイニシアティブをとるのか、従来の会議体の整理、調整機能と情報共有のための連携のしくみの構築、長期にわたる支援の進捗管理、個人情報の取扱いなどが課題としてあげられました。
「参加支援」については、新たな社会資源、ニーズと既存の社会資源がマッチングしない際の新たな地域づくり、居場所づくりや就労支援、学習支援、居住支援等との連携、活動の創出への当事者参加などが課題となっています。
そして、これまでの事業との連続性に関する課題として、補助事業が委託事業に変わることの影響、これまで蓄積したネットワークや取組みの発展の必要性、既存の会議体の見直しや相談支援体制の強化などがあがりました。
事業実施予定自治体では、これらの課題に対する協議も含めて準備をすすめています。また、自治体にて実施予定のない社協でも、地域福祉コーディネーターの配置を工夫し、包括的な支援体制をめざしているところもあります。
コロナ禍で顕在化した課題を社協だけで解決することは困難です。重層的支援体制整備事業を活用するなどして、関係機関で課題を共有し、地域全体で継続的に関わりながら、地域生活課題として解決に取り組むことが必要です。
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