NPO法人パープル・ハンズ
事務局長 永易至文(ながやすしぶん)さん
パープル・ハンズは、性的マイノリティや多様なライフスタイルを生きる人々を対象に、学び合い、仲間づくり、相談、コンサルティングの場を設けることで高齢期も助け合うコミュニティづくりをめざす団体で、2013年に設立しました。
事務局長で自身もゲイの永易至文さんは「20~30代の頃は性的マイノリティである自分を受け止めるために活動してきたが、時の流れとともに見えてくる老後は避けては通れない事実だった。当時は結婚することが当たり前で、多くの性的マイノリティの当事者は30~40歳で家庭を持ち、異性愛者のライフスタイルをとったため、高齢期の性的マイノリティの暮らしについては語られてこなかった。性的マイノリティとしての自分に誇りを持ちながら老後を暮らしていくためには、自分たちで知識を身につけ、モデルをつくっていく必要があると思った」と、設立時の想いを語ります。
高齢期における性的マイノリティの課題
結婚しないことを主体的に選択する非婚化の選択肢が広がりつつある昨今、「おひとりさま」の老後における生活やお金の問題は、性的マイノリティに限らず共通の課題となっています。しかし、当事者は性的マイノリティであることを話すことができないために、相談や援助を求めることが難しく、孤立する場合があります。また、同性パートナーがいても法律に規定がないために親族と認められず、相続や医療の場で締め出されることも少なくありません。
永易さんは「同性パートナーが入院した場合、親族でないことを理由に医者が説明を拒む、最期に立ち会えないというケースがある。しかし、個人情報保護法によると、本人の許諾がある人へは個人情報を伝えても良いとされている。そして、それは『親族に限らない』と、厚労省のガイドラインでもいわれている。知識があれば法律上対応できることもあるため、目の前の課題をどう乗り越えていくかを具体的に考えることが必要」と語ります。
そういった問題意識から、ファイナンシャルプランナーと行政書士の資格を持つ永易さんが中心となって「同性愛者のためのライフプランニング研究会」を2010年に立ち上げ、必要な法制度に関わる情報を収集し、その活用について理解を深めてきました。3年後、コアメンバーが増え、対象も性的マイノリティ全体に広げ、「パープル・ハンズ」としてNPO法人化しました。
暮らしに関するさまざまな知識を共有・提供
パープル・ハンズでは「性的マイノリティとしての自分に誇りを持ちながら、安心して老後を過ごす」ことを目的に、暮らしや老後に役立つ勉強会や電話相談、40代以降の友だちづくりの場としてのサロン開催などを行うほか、同性パートナーシップ保証のための公正証書の作成などの斡旋もしています。
勉強会では、お金・入院時・終活などについて性的マイノリティ版(単身者、婚姻ができない同性ふたり、性別移行、有障害など)の正確な情報を紹介し、質疑応答で受講者相互の経験もシェアしあい、情報の少ない当事者にとって貴重な学びの場となっています。また、老後に役立つ社会資源の現場を訪ねる「おとなの社会科見学『キャラバントーク』」も勉強会の柱となる活動の一つです。これまで、社協や地域包括支援センターなどへ見学に行きました。参加者からは「地域との関わりを持たずに生活していくことに不安があった。地元の地域包括支援センターや社協の情報を調べたいと思った」「市民の一人として、待つだけでなく、自分でアプローチしたいと思った」などの声が聞かれています。
永易さんは「これらの活動が性的マイノリティの当事者の老後の安心した暮らしを守り、地域の社会資源に目を向けるきっかけとなれば良いと思っている」と話します。
一方で「地域の相談窓口が性的マイノリティに理解があるとは限らない」と永易さんは言います。パープル・ハンズでは2016年に『介護や医療、福祉関係者のための高齢期の性的マイノリティ理解と支援ハンドブック』を作成しました。この冊子は、介護、医療、福祉従事者が高齢期の性的マイノリティを理解する上で知ってほしい6つのポイント等を分かりやすく紹介しています。永易さんは「調査や講演などの社会発信活動を通して当事者の状況や課題を伝えていく必要がある」と語ります。
『介護や医療、福祉関係者のための高齢期の性的マイノリティ理解と支援ハンドブック』
※団体ホームページからダウンロードすることができます。
必要な方が必要な時に利用できる「社会教育団体」
現在、新型コロナの影響により、キャラバントークの活動は休止、勉強会やサロンはオンラインと会場のハイブリッド型で実施しています。永易さんは「キャラバントークは、近く再開したい。また、急遽導入したオンライン化であったが、全国からの参加者が増えたという点は良かった。コロナ禍により受けた影響をチャンスと捉え、必要な方が利用できるしくみをつくっていきたい」と話します。続けて「あくまでも私は教える立場ではなく学ぶきっかけづくりをする立場。フラットな関係の中で、必要な情報を学び合うための場を提供しているというスタンス。パープル・ハンズは支援団体ではなく『社会教育団体』として情報や知識を必要とする方が必要な時に利用できる団体でありたい。今後は今までの活動に加え、成年後見や死後事務受任にも取り組みたい」と語ります。
http://purple-hands.net/