ピナット事務局スタッフの山家直子さん(左端)、出口雅子さん(右端)。
「バイリンガル絵本づくりワークショップ」
(2019年開催)での一コマ。
ピナット~外国人支援ともだちネット・・・東京都三鷹市において、1991年のフィリピン、ピナツボ火山の噴火を機に、地域レベルで国際協力・交流活動をすすめる団体として1992年に発足。その後外国人支援や国際理解教育の活動にも取組みを広げ、2015年5月、三鷹・武蔵野地域の在住外国人支援を活動の中心に据えることとし、団体名を現在の名称へ変更。
地域の在住外国人支援を行う「ピナット~外国人支援ともだちネット(以下、ピナット)」の拠点は三鷹市の住宅街の中にあります。市の人口は約19万1千人、うち外国人は約3千500人(約1.8%)※。23区内に比べると、外国人住民の割合はそれほど高くない地域といえます。
事業の柱は①大人対象の日本語教室、②外国とつながる子どもの学習支援教室、③乳幼児を持つ外国人ママの居場所づくり、④寄り添い支援活動の4つです。事業ごとに担当ボランティアのグループがあり、各グループが横につながりを持ち、事務局運営を担うボランティアが全体を支えながら、活動をすすめています。
大人対象の二つの日本語教室
大人対象の二つのクラスの日本語教室は、1994年に開始しました。
月曜夜のクラスでは、技能実習生や留学生等が、日本語能力のステップアップを目的に学習しています。日本語講師の資格を持つ方や学生等がボランティアで教えています。
主婦層の参加が多い水曜午前クラスは、新型コロナの影響で、現在は個別対応の形で実施しています。これまでは主に子育て中のボランティアが、おしゃべりを通じて子育てや生活の困りごとに寄り添い、支援してきました。学校のお便りの読解や学用品のそろえ方、習い事、行政の手続きなどがよく話題にあがります。
参加者との会話から、楽しいイベントも企画しています。ある時はおにぎりについて「美味しくないと子どもに言われた」「中には何を入れたらいいの」という話を受けて、「おにぎり教室」を開きました。塩をつけてご飯を握ることから伝え、さまざまな具材のおにぎりをつくりました。
また、各国料理の「持ち寄りパーティ」も開いています。日本人の家族から言われて、普段は母国の料理をつくる機会が持てない方もいます。各自がなじみの料理をつくって持ち寄り、母国の話題等で盛り上がります。ピナットの事務局スタッフの出口雅子さんは「一人ひとりの経験やできることを活かせる場にしたい」と考えています。
日本語習得と母語での子育ての関連
2005年からは子ども対象の個別の日本語・学習支援を始めました。来日し、編入学した子どもの日本語指導を頼まれたのがきっかけです。当時、市内の公立学校での日本語指導がわずか20時間であることを知り、公的支援の充実に向けた行政への働きかけも同時に始めました。
その後、母国の学校での学習経験や成功体験などがある来日した子よりも、日本生まれの外国ルーツの子をとりまく課題の大きさに目が向くようになりました。2009年に開設した学習支援教室は、現在、日本生まれの子を主な対象としています。
ピナットでは、行政や学校による外国人保護者への支援が十分でないと感じています。翻訳や読み仮名のないお便りなど言葉の壁に加え、宿題や翌日の持ち物の準備を親が手伝うことなど、日本での「普通」を知らない方も多くいます。そのため「子育てに無関心で、非協力的な親」だとみなされ、学校や周囲を避けるようになる方もいます。こうして、親からはサポートを得られないのに勉強ができないと叱られ、学校からは忘れ物が多い、不真面目だと指導されて、学習意欲も自己肯定感も低くなってしまう子も多いのです。学習支援教室は、子どもが安心して過ごせる居場所になるよう心掛けています。
日本生まれ日本育ちで、日常会話はペラペラなのに、なぜ勉強につまずくのか。年少者言語教育等の専門家らから学ぶ中で分かったことは、「抽象概念の理解や教科学習に必要な学習言語は、習得に繰り返しの努力と時間が必要。そうした言語習得の力は乳幼児期からの豊かな言語体験を基に育まれる。親が母語でたくさん話しかけ、やりとりする言語体験が親子関係や言語習得能力の土台となり、日本語の力もついていく」ということでした。「日本では『日本語で育てるべき』という考えが根強い。だが、不自由な日本語だけでの子育てでは、子どもが『ダブルリミテッド(両方の言語とも年齢相応に発達していない状態)』になりうる」と出口さんは実感しています。
そこで、早い段階から親とつながり、子育て言語について一緒に考えたいと、2012年に外国人ママの居場所づくり活動を始めました。
乳幼児ママの居場所づくり
現在、三鷹市元気創造プラザで月1回、外国人ママ・国際結婚ママ交流会を開催しています。市の乳幼児健診の会場と同じ建物で、アクセスの良い場所です。日本語に自信のない方には負担の大きい事前申込み制でなく、当日参加制にし、ガラス張りの室内を覗けるようにしています。
事務局スタッフの山家直子さんは「参加者の国籍はさまざま。参加目的も、情報がほしい、日本語の練習、母語で話したい、同郷の友人がほしいなど、人それぞれ」と言います。SNSを見て遠方から来る方や、唯一、子どもと外出できる場として参加する方もいます。
プログラムは、テーマを決めたおしゃべりとフリートークが中心です。進行は主に「やさしい日本語」で行い、参加者の母語が話せるボランティアがいれば、隣でフォローします。絵本の読み聞かせや手遊び、ダンスや体操等の時間も設けています。少しでも子どもから離れられるよう、室内に保育スペースを用意し、保育ボランティアが子を遊ばせます。
おしゃべりのテーマは「何語で子育てする?」「病気の手当て」「災害への備え」など、生活や子育てに密着した内容です。「幼稚園・保育園」「日本の学校制度」など説明中心の日もありますが、参観者一人ひとりが話せるように気を配ります。日本の子育てを押し付けるのでなく、出身国の文化の違いや、その方が持つ経験や価値観を大切にしています。
山家さん自身が、かつて乳児を連れて海外に滞在し、孤独を感じた経験から「初めての場に勇気を持って参加した方を『よく来たね』と迎え、親身に話を聞くことが力になる。誰もが歓迎されている雰囲気づくりを心掛けている」と言います。
活動の課題の一つが「広報」です。多言語での宣伝と同時に、顔見知りの人に誘ってもらうことが効果的なため、外国人ママに声をかける人が増えるよう、働きかけています。
マスクで「外国人ママの居場所づくり」の一コマ
特別な存在でなく、同じ住民として
ピナットでは、寄り添い支援活動にも力を入れています。公共機関の手続き等に付き添い、難しい用語を「やさしい日本語」で言い換えるなどします。「様子を見た窓口の人が気づき、次から『やさしい日本語』で対応してくれるようになる。そうした経験を各所で広げたい」と出口さんは言います。山家さんは「国際結婚も増え、すでに多くの外国ルーツの人が地域に暮らしている。そのことに慣れる必要があるのは私たちの側だと思う。『高齢者』や『障害者』という人がいないのと同様、『外国人』という人もいない。日本語や日本の習慣を知らないなどの特性のある住民が、あらゆる公共サービスを利用する前提で、社会のあり方を見直していけたら」と語ります。
コロナ禍の今は、一部オンラインに切り替えて活動しています。ピナットでは今後、活動からの学びを発信する場や機会を増やし、多くの人に外国人との関わりについて考えてもらう活動を続けていく予定です。
ピナット制作の紙芝居
(ピナットのホームページで、動画やスライドショーを見ることができます。)
※令和3年10月1日現在。東京都ホームページ「住民基本台帳による世帯と人口」参照。
https://pinatmitaka.wixsite.com/pinat