NPO法人glolab(グロラボ)
さまざまな壁に向き合い、乗り越え、自分の力で生きていくことを応援する
掲載日:2022年2月25日
2022年2月号 連載

代表理事 柴山智帆さん

 

特定非営利活動法人glolab(グロラボ)・・・自分の力で未来を切り開く外国にルーツのある若者を応援するコミュニティであり、社会的に自立できることをめざし、進学・キャリアの情報提供、イベント・ワークショップの運営、在留資格の診断や専門家による個別相談を行う。

 

子どもたちに伴走し、学び合える場を

特定非営利活動法人glolab(グロラボ)は、平成30年に任意団体として活動を始め、令和2年にNPO法人化しました。スタッフは12名で、イベントの運営や企画を行うコーディネータ6名のうち、4名が外国にルーツを持つ社会人や学生です。

 

代表理事の柴山智帆さんは、もともとは一般企業で働きながら、外国にルーツのある子どもたちの高校進学支援をする団体でボランティアをしていました。その後、同団体に転職し、働く中で、「高校生になるまでの支援はあるが、それ以降の若者へのサポートが少ない。何かできないか」という課題意識を持っていました。平成29年に、都立高校に通う外国にルーツのある生徒に向けたガイダンスを企画する機会がありました。そこで、現グロラボ副代表理事の景山宙(ひろし)さんと知り合い、「子どもたちに伴走し、継続的な支援がしたい」と意気投合したことが、グロラボ設立の背景です。

 

平成30年に文部科学省が行った調査(※)によると、日本語指導が必要な高校生と日本全体の高校生を比べると、高校中退率は7倍で、大学進学率は29ポイントも低くなっています。グロラボとしても客観的に現状を把握するために、令和2年年に実施したアンケート調査から、主に4つの課題が見えてきました。

 

(※)文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)」令和元年9月27日

 

外国にルーツのある高校生の現状

一つ目は進路選択の課題です。留学生等と異なり、自分の意志で来日した子は少なく、必ずしも日本に対して前向きにとらえているとは限りません。将来の夢や目標が持ちにくい状況の子どもたちについて、代表理事の柴山さんは「どんなに言葉で伝えてもイメージがしづらい。人生のロールモデルとなる先輩の存在が大きいが、出会える機会が少ないのも現状」と話します。

 

また、在留資格等について教職員が学べる場が限られていることも課題になっています。「在留資格の制限もあり、そのままの在留資格では就職ができなかったり、奨学金が受給できなかったりすることがある。高校の先生もそういった課題を学ぶ場が少なく、生徒の状況を把握していないこともある」と言います。

 

二つ目は、孤立・精神面等の課題です。希望を抱いて高校に入学をしても、周りの生徒となかなか友達になれなかったり、同じ国の子が多いと、そのコミュニティの中だけで人間関係が完結してしまうなど、孤独感を感じてしまうケースが多いといいます。

 

三つ目は、教育や進路選択への親の理解不足です。親自身も、進路情報を母語で得られる手段が少なく、子どもたちの相談に乗るのが難しい場合や、生活基盤をつくるために必死に働き、子どもの進路を考える余裕がないことがあります。また、「高校に行けること自体、とても恵まれている」と認識を持っている親も少なくありません。そのため、高校在学中やそれ以降の進路についての十分なサポートが行えないという状況もあります。

 

四つ目は、日本語習得・教科学習の困難さです。高校では、小中学校に比べて学習内容の難易度が上がり、授業が難しくなります。加えて、アルバイトや部活動もあり、勉強時間が確保しにくくなります。柴山さんは「義務教育段階の日本語指導も整っているわけではないが、高校での指導はそれ以上に不十分。この問題に対して、文部科学省は、高校生の日本語指導の制度化をめざしている」と言います。

 

グロラボの取組み

これら4つの主な課題のうち、グロラボは、支援が特に手薄だと考える日本語指導・教科学習以外の3つの課題に焦点をあて、「知る」「参加する・つながる」「診断する・相談する」をテーマに活動を展開しています。

 

日本での進学や就職、在留資格等について「知る」ためのツールとして、やさしい日本語や多言語を用いて説明する動画を制作し、ホームページ上およびYouTubeに掲載しています。情報提供だけでない、自分の将来について考えるきっかけとなり、自己理解につながるような動画も制作しています。また、外国にルーツを持つ先輩の経験や思いをインタビューした記事「ライフストーリー」を順次公開しています。これまでの経験や悩み、壁をどう乗り越えてきたか、外国にルーツのある子どもたちへのエールなどが丁寧に書かれています。

 

「参加する・つながる」では、「知った」ことで自分でも何かしようと思った子が挑戦できる機会をつくっています。さまざまな大人に出会い、自分の将来を考える「みらいチャレンジプログラム」を企画し、次世代育成に注力している北海道十勝郡浦幌町と協力し、実施しています。ほかにも、外国にルーツを持つ高校生が多く通う都立高校の定時制で進路選択等についての授業も行っています。

 

とはいえ、外国にルーツを持つ若者には進路選択にあたって、在留資格等を考慮しなければいけないさまざまな課題があります。そのため、「診断する・相談する」しくみとして、自分の現在の状況を入力し、アルバイトはできるか、就職はできるかなどの回答を多言語で得られるオンラインツールをつくりました。自身の状況を知った上で、相談したい時には、LINE相談ができるようになっています。「相談に答えるだけではなく、周りの力を借りながら、問題解決に取り組めるような力を培ってほしいという思いで、伴走支援ができるよう心がけている」と、柴山さんは活動に対する思いを語ります。

 

進路について分かりやすく説明する動画

 

「みらいチャレンジプログラム」

事前学習時の集合写真

 

都立高校での授業の様子

 

多くの子どもたちに存在を知ってもらう

こうしたツールをつくっても、ホームページ上に置いているだけでは、子どもたちに使ってもらえないという課題も見えてきています。まずは、彼らにとって身近な大人である学校の教職員や支援団体の方に、知ってもらうことが大切だと分かりました。そこで、支援者・教職員向けに、在留資格の課題等について学べるオンライン研修会や、多言語キャリア支援動画を紹介するイベントを実施し、つながりを持つようにしています。グロラボが制作している動画などを授業で使ってもらい、子どもたちに紹介してもらうことで、ツールやグロラボの存在を届けることができるようになります。教育現場で実際に使うことで、新たな使い方や可能性を発見することもあります。今後は使ってもらえる機会を増やし、より良いものに更新していく予定です。

 

外国にルーツを持つ社会人にインタビューをして、ライフストーリーを公開していますが、やさしい日本語を使ってこのライフストーリーのリライト教材を制作し、配信を開始しています。柴山さんは「日本語学習をしながら、ロールモデルとなる先輩の生き方に触れられ、自分について考えるきっかけとなったら」と、今後の活用について話します。ツールだけでなく、さまざまな活動で他団体や企業と連携し、ネットワークを使った「面」でのサポートができるようめざしています。

 

全ての若者にのびしろがある

柴山さんは「外国にルーツを持つ若者は、言葉の壁や進学・就職率が低いなど、課題が注目されやすい。しかし、多くの壁にぶつかってきたからこそ自分の頭で考える力があり、日本の社会の『当たり前』を問い直すことができる。彼ら彼女らは国籍に限らず、あらゆる分野の『マイノリティ』への理解に長けているのではないか」と、活動の中で若者たちの可能性を感じています。

 

「外国にルーツを持つことが壁ではなく、利点としてとらえてほしいという思いがある。課題に対してはサポートをし、周りの若者と同じように学校生活を送り、納得感を持って進路選択ができるような社会になってほしい」と話します。

取材先
名称
NPO法人glolab(グロラボ)
概要
NPO法人glolab(グロラボ)
https://www.glolab.org/
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