熊本学園大学
14号館を地域住民に開放するとともに、 「身近な福祉避難所(スペース)」を開設
掲載日:2018年3月26日
ブックレット番号:6 事例番号:60
熊本県熊本市/平成29年3月現在

 

熊本市内にキャンパスのある熊本学園大学は、昭和19年の建学以来、「熊本商科大学」としての歴史を経て平成6年からは「熊本学園大学」に名称を変更するとともに社会福祉学部を新設しました。また、大学とともに附属幼稚園・中学校・高等学校を有し、長年にわたって輩出してきた卒業生の多くが地元で活躍しています。「地域立大学」を標榜する地域に根ざした大学です。

平成28年熊本地震では、前震が発生した4月14日の夜にグラウンドへ避難してきた地域住民や学生を教室に受け入れるとともに、16日の深夜に発生した本震では、教室に避難者があふれる中、ホール内に障害者、高齢者の避難所を開設し、社会福祉学部教員と学生ボランティアを中心に支援を開始しました。

その支援活動は45日間にわたり展開するとともに、学内の避難所を閉鎖した後も、学生たちは益城町の避難所や仮設住宅などで被災者支援に活躍しています。

 

熊本学園大学が学内に避難所を開設できた背景

熊本学園大学社会福祉学部長の宮北隆志さんは、平成28年熊本地震に伴い、被災者と向き合った45日間を次のようにふり返ります。

「本学は、いわゆる『避難所/福祉避難所』として指定されていなかったが、ピーク時には750人を超える避難者を受け入れるとともに、障害者や介護を必要とする高齢者が安心して避難生活を送ることのできる空間を作った。教職員と学生は、一丸となって最後の一人が自宅や地域に戻るまでを支え続けた。これは、本学には『水俣学』の研究などを通じて、被災者に寄り添うという風土があったことが大きいと考えている。それは、『目の前に起きたことに最前を尽くし、それを最後の一人まで』という精神。我々は『福祉避難所』を開設したのではない。地域住民である避難者を受け入れる中で、不十分な点はありながらも同じ地域住民である高齢者や障害者も安心して過ごせる環境を作った活動だったと考えている。まさにその実践を通じて、日常生活の中でも要配慮者が地域の中で共に暮らすことができれば、災害時にも身近な場所で要配慮者が家族や地域の人々と共に避難生活を送る環境を作り得るんだということを学んだ」。

 

熊本学園大学社会福祉学部長 宮北隆志さん

 

多くの避難者を受け入れた「14号館」は、障害者差別解消法にもある「合理的配慮」の考え方にこだわり、平成19年に建てたものです。それは、バリアフリー対応を整えた建物でした。また、大学では、これまでに障害のある学生を積極的に受け入れており、本年度も車いす利用の8人を含む37人が熊本学園大学で学んでいます。

その14号館の高橋記念ホールでは、障害者と高齢者のための避難所(スペース)を作りましたが、その運営に中心的に携わった教員の一人である社会福祉学部講師の吉村千恵さんは、自身も学園大学の卒業生であり学生時代から地域の障害者の当事者団体であるNPO法人ヒューマンネットワーク熊本と長年にわたるつながりがあり、信頼関係も培われていました。

さらに、社会福祉学部では1年生の「福祉環境学入門」で車いす体験の授業を行っています。これは単なる車いす体験ではありません。前述のヒューマンネットワーク熊本の協力を得て、障害当事者と学生が2台の車いすで一緒に街に出ることを体験する授業です。

 

こうした設備面の環境と学内に育っていた人の力、地域との関係が熊本地震で大学が多くの避難者を支援できた背景にあります。

いわゆる「福祉避難所」は、市町村が一般避難所の要配慮者をスクリーニングして協定を結んでいる福祉避難所になる福祉施設等に開設を要請する形になりますが、さまざまな混乱の中ではその流れが円滑に動くとは限りません。熊本市でも震災前から福祉避難所の協定を結び、1,700人の要配慮者の受入れを想定していましたが、実際に福祉避難所を開設できたのは一部です。そうした中で、福祉避難所ではなかった熊本学園大学が要配慮者が安心して過ごせる環境を独自に作り上げました。

 

後方の建物が14号館

フラットな14号館入口

 

バリアフリーな14号館 教室のドアも自動ドア

 

 

 

取材先
名称
熊本学園大学
概要
熊本学園大学
http://www.kumagaku.ac.jp/
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