(公社)日本社会福祉士会
第二期成年後見制度利用促進基本計画で求められる視点
掲載日:2022年6月7日
2022年5月号 NOW

 

あらまし

  • 2022年度から2026年度までを工程期間とする第二期成年後見制度利用促進基本計画が本年度から実施されています。
  • 今号では、計画に関する検討を行う成年後見制度利用促進専門家会議の委員でもある社会福祉士の星野美子さんに、第二期計画の概要や第一期計画から新たに盛り込まれた視点等についてご寄稿いただきました。

 

 

成年後見制度利用促進基本計画(以下、基本計画)は、2016年に制定された成年後見制度利用の促進に関する法律(以下、利用促進法)に基づき2017年度から2021年度までを最初の計画の期間として、全国どの地域でも、成年後見制度を必要とする人がみな安心して利用できるような体制を目指して策定されたものです。これに沿って今日まで、各地域で中核機関を設置するなどの体制整備がすすめられてきました。

 

しかし一方で、「後見人等が意思決定支援や身上保護を重視しない状況であっても、後見人等を簡単に交代してもらえない」「制度や相談先等の周知が未だ不十分である」というような指摘もあります。権利擁護支援の地域連携ネットワークなどの体制整備の取組みが、小規模町村等において大幅に遅れている実態もあります。

 

高齢化はいよいよ本格化するとともに、地域では「8050問題」といわれるように高齢者や障害者に対する支援だけでは解決できないような複合的なニーズへの支援体制が求められ、国は重層的支援体制整備事業を創設し、各地域で取組みがすすみ始めています。このような課題に丁寧に対応し、全国どこに住んでいても、「支援を必要とする人が、地域社会に参加し、共に自立した生活を送る」ことが当たり前となるような、権利擁護支援の地域連携ネットワークの一層の充実を図る必要があります。

 

そうした趣旨で、2022年度を始期とする第二期基本計画に何をどう盛り込むかについて、成年後見制度利用促進専門家会議(以下、専門家会議)で検討がすすめられ、2022年3月25日に第二期基本計画が閣議決定されました。この計画は、2022年度から2026年度までの5年間を工程期間とし、中間年度にあたる2024年度には専門家会議において各施策の進捗状況をふまえ、個別の課題の整理・検討を行うことになっています。

 

1 第二期基本計画の概要

第二期基本計画のサブタイトルは、「尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加を図る権利擁護支援の推進」とされました。そして、基本的な考え方として、以下のようにまとめられました。

 

(1)地域共生社会の実現に向けた権利擁護支援の推進

第二期基本計画では、地域共生社会について、「地域共生社会は、制度・分野の枠や「支える側」と「支えられる側」という従来の関係を超えて、住み慣れた地域において、人と人、人と社会がつながり、すべての住民が、障害の有無にかかわらず尊厳のある本人らしい生活を継続することができるよう、社会全体で支え合いながら、共に地域を創っていくことを目指すものである。」と記述されました。

 

〝成年後見制度利用促進〟という言葉から、利用促進法を「成年後見制度の利用者を増やすこと」、「首長申立を活性化させること」と捉えている方は少なくないと思われます。しかし、基本計画の基本的考え方として、地域共生社会を実現するために、権利擁護支援を推進していくこと、成年後見制度はその中のしくみの一つであることが、明示されたことは大きなことです。成年後見制度を使うことが目的ではなく(成年後見制度ありきではなく)その人のめざす暮らしを支えるひとつのしくみとしてこの制度が役割を果たすことができるよう、地域の体制を整備することが目的なのです。

 

(2)成年後見制度の運用改善等

権利擁護支援のひとつのツールとして、また、先述の目的を達成するために制度が活用されるためには、現在の成年後見制度の運用をさらに改善させていくことが大事であり、基本計画では運用改善等について、以下のことに取り組むとされました。

 

① 本人の自己決定権を尊重し、意思決定支援・身上保護も重視した制度の運用とする。
② 成年後見制度を利用することの本人にとっての必要性や、制度以外の権利擁護支援による対応の可能性についても考慮し、連携体制を整備する。
③ 成年後見制度以外の権利擁護支援策を総合的に充実する。
④ 任意後見制度や補助・保佐類型が利用されるための取組みをすすめる。
⑤ 不正防止等の方策を推進する。

 

(3)司法による権利擁護支援などを身近なものにするしくみづくり

権利擁護支援が必要となる対象者には、本人を中心にした支援・活動である意思決定支援が前提である一方、重篤な権利侵害(虐待、消費者被害等)への回復支援をすすめる上では家庭裁判所や法律専門職の迅速かつ強力な関与が求められます。その実質が担保されることによって、本来求められる尊厳のある本人らしい生活の継続と、地域社会への参加が図られると考えます。(※)

 

2 第一期基本計画からさらに強調されたこと、新たに盛り込まれた視点

 

(1)意思決定支援のさらなる浸透

権利擁護支援の重要な要素として、第二期基本計画では「意思決定支援」が明確に位置づけられることとなりました。単に成年後見制度の利用につなげるため、ということではなく、「尊厳のある本人らしい生活を継続することができる社会の実現にも適う」と、普遍的価値を絡めて、普及・浸透の必要性を強く訴えるものとなっています。

 

施策としては、後見等の担い手にとどまらず、保健、医療、福祉、介護、金融等幅広い関係者や地域住民に意思決定支援の重要性や考え方が浸透するように、研修等を通じた継続的な普及・啓発を行うこととされたほか、「権利擁護支援総合アドバイザー」の育成と活用に取り組むことも盛り込まれました。このアドバイザーは、後見事務に精通した専門職を対象として養成され、都道府県による市町村への「多層的」な支援体制の一翼を担い、市町村に対する必要な助言を行うことが期待されています。

 

(2)適切な後見人等の選任・交代の推進

意思決定支援の浸透がすすめば、後見人等による不適切な事務は相当解消されることが見込まれます。その際には、家庭裁判所においても意思決定支援をふまえた後見事務について理解が深まり、認識が共有されて、「本人にとってふさわしい後見人等」を選任するために、中核機関等で検討された結果を尊重して後見人等が選任されることや、選任後もモニタリングの場面において、後見人等に対する解任や辞任以外の理由による交代がスムーズにすすむようになることが、大いに期待されます。

 

(3)権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりの具体化

第一期基本計画では、7つの場面を上流・中流・下流と分けて整理されたものが、第二期基本計画では3つの場面に整理されました。すなわち、「①権利擁護支援の検討に関する場面=成年後見制度の利用前」、「②成年後見制度の利用の開始までの場面=申立ての準備から後見人等の選任まで」、「③成年後見制度の利用開始後に関する場面=後見人等の選任後」とし、それぞれを「支援機能」のあり方から、「権利擁護の相談支援機能」、「権利擁護支援チームの形成支援機能」、「権利擁護支援チームの自立支援機能」とされています。

 

これは、成年後見制度ありきで相談を受けるのではないこと、また、従来マッチングといわれてきた受任調整について、後見人等が選任されればよいのではなく、後見人等を含んだチームの形成を支援すること、モニタリングにおいては、チームが自立することを支援すること、と具体的にその機能が示されています。いずれの場面においても、社会福祉士や福祉関係者による福祉的視点からの関与が、大いに求められているものと考えられます。

 

(4)都道府県の役割

新たに盛り込まれた視点として大事なことは、これらの中核機関の役割を区市町村が遂行していくために、都道府県・都道府県社会福祉協議会が果たす役割と責務について強調されていることです。(1)で述べた権利擁護総合支援アドバイザーも、都道府県(都道府県社会福祉協議会)に置かれることが想定されています。

 

3 福祉関係者に求められる意思決定支援とチーム形成

このように、第二期基本計画は、その理念をそれぞれの地域で実現させていくためのさまざまな施策が盛り込まれたものとなっています。社会福祉士や福祉関係者には、これらを実践していくにあたり、意思決定支援やチーム形成ということに取り組む促進者となることが求められます。

 

わが国でこれまで公表された意思決定支援に関わるガイドラインは、複数存在しますが、意思決定支援のプロセスのあり方について、「本人が意思決定の主体であり、支援を行う前提としての環境整備、チーム支援、適切な情報提供等が重要である」という点で共通しているといえます。

 

第一期基本計画を受け、2019年5月以降、最高裁判所、厚生労働省および専門職団体(日本弁護士連合会、成年後見センター・リーガルサポート、日本社会福祉士会)をメンバーとしたワーキング・グループで、意思決定支援に関わる指針の策定に向けた議論が始まり、私も社会福祉士の一人として参加させていただきました。「本人を中心に置くということは、単に物理的なことではない」、「本人の意思決定は、後見人等を含めた支援関係者の関与のあり方から大きな影響を受け、支援関係者自身も本人とのやりとりから影響を受け、本人のみならず支援者自身の変化も促される」、「チームとはただ関係者が集まることではない」、「本人を含めたチームによる話し合いの準備で大切なのは、本人自身の準備である」といった視点を伝え続けてきました。そして、2020年10月に『意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン』が公表され、第二期基本計画はこのガイドラインを含め、これまで複数提示されてきた意思決定支援に関わるガイドラインを整理、周知していくことを施策として打ち出しています。

 

本人の意思決定を支援するチームの構成メンバーは、公的なサービス提供事業所や提供者だけではなく、本人を支える親族はもちろん、本人の友人・知人、インフォーマルな立場で本人に関与している人々です。すなわち、本人をよく知り、理解すること、コミュニケーションの方法を工夫すること、家族関係や支援者との人間関係、話しやすい環境設定などに配慮すること、本人が理解できる形での情報提供を行うこと、意思や感情の引き出し方を工夫することなどに力を発揮できるメンバーが必要になります。決して、後見人一人でできることではありません。また、親族や本人の近くで本人を長く支えてきた支援者がいたとしても、これらを実行するためには、一人では不可能であり、チームとしての関わりが求められるのです。「意思決定支援は支援者側の支援力によっても、その結果に大きな影響を及ぼす」ことを忘れてはならないと思います。

 

意思決定支援の場面において、支援を受ける対象が本人であることは皆が共有していることですが、その本人が客体ではなく主体であると視点を切り替えると、気づかされることがあります。

 

【図】の左側では周辺の支援者だけがチームを構成しており、本人のためによかれと思って支援をしているのですが、本人がその場にいても本人の気持ちに寄り添えず結果として本人不在、支援者本位になってしまうことを表しています。どうしてそのようなことになってしまうかといえば、本人が参加していても「課題を抱える本人」つまり、「課題=本人」と見てしまっていて、本人に変化を促すことで課題を解決しようとしてしまっている可能性があります。つまり、課題の捉え方が支援者主体となっていることが多いといえます。

 

【図】の右側では、チームの一員、チームメンバーとして本人を捉え、位置づけを見直し、支援者とともに同じテーブルにつき、課題を本人から切り離し、課題だけではなく状況や状態も中心において、共にそれについて話し合っていきます。そうすることによって、本人は課題に対して意向をもち、どうしたいか、どうしたくないかを考え、表現する人として存在することになります。

チームとは、ただ単に本人に関係する支援者が集まることだけでは構築できません。本人とともに共通の目的に向かって共同作業を行う集団がチームであり、初めからチームができているわけではないのです。本人も一緒に意見を出し合い、時にはぶつかり、認め合い、協力してやり遂げる過程を通してチームとして成長していくのです。

 

4 第二期基本計画実現に向けて職能団体や関係機関、地域に期待される役割

職能団体や関係機関は、その地域における重要な社会資源としてその役割をそれぞれの地域での実践で果たしていくことが求められます。そのために必要なことを一言でいえば、この基本計画を理解し実践に取り組む人材を育成することでしょう。

 

社会福祉士の専門性は、実践をふまえて意思決定支援への理解を本人や周囲の関係者に伝達すること、そして本人主体で支援の方針を検討することを促進することです。その専門性が活用されるためには、成年後見制度が必要と判断された後から関わるのではなく、早期の相談の段階から第三者的・客観的立場で関わることが重要で、このような実践を行う専門職は、制度につながった後にも定期的にモニタリングを行う際に参画し、方針の変更の検討を促していくことができることになります。

 

後見人等の担い手を育成している専門職団体は、チームの一員としての後見人等を養成・支援しているのだという意識変革を持ち、地域の中核機関等とともに対応する体制をつくっていくことが重要です。これまで専門職は後見人等を受任するというミクロレベルの実践に注力してきました。これからはミクロレベルの実践を活かし、地域というメゾレベル、国の政策というマクロレベルにつなげていくことが大いに期待されています。また、地域においても専門職の役割を固定化したものととらえず、地域づくりの一員と捉え直していくことをお願いしたいものです。

 

公益社団法人日本社会福祉士会理事

厚生労働省成年後見制度利用促進専門家会議委員 星野 美子 さん

取材先
名称
(公社)日本社会福祉士会
概要
(公社)日本社会福祉士会
https://www.jacsw.or.jp/
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