(社福)八王子市社会福祉協議会
八王子市社協における重層的支援体制整備事業の取組み―包括的相談支援を担う各拠点CSWを増員するとともに、 社協本体の支えあい推進課に多機関協働担当CSWを専従配置 ―
掲載日:2022年5月19日

八王子市社会福祉協議会 支えあい推進課

課長 大島和彦さん、主査 大和(おおわ)智史さん

あらまし

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  • 八王子市は令和3年4月から改正社会福祉法に基づく重層的支援体制整備事業を実施しています。同事業は、地域住民の複合・複雑化した課題に対応する包括的な支援体制を整備するため、①相談支援、②参加支援、③地域づくりに向けた支援を一体的に実施するものです。八王子市では、社協の地域福祉推進拠点や地域の相談支援機関による「包括的相談支援事業」と「地域づくり事業」は既存の取組みをベースとしつつ、新たに「多機関協働事業」「アウトリーチを通じた継続的支援事業」「参加支援事業」を社協に委託しました。
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  • 同事業を受託した八王子市社協では、平成26年度から設置をすすめてきた地域福祉推進拠点(現在の名称は「はちまるサポート」)9か所に16名のCSW(コミュニティーソーシャルワーカー)を配置するとともに、「多機関協働事業」を実施する4名のCSWを支えあい推進課に置きました。厚生労働省は多機関協働事業に複数の設置パターンを提示していますが、八王子市では、地域の拠点に複数名のCSWを配置して包括的相談支援機能を強化するとともに、その拠点CSWを後方支援しながら多機関協働事業を実施するCSWをエリアではなく、社協本体の支えあい推進課に置く体制としました。そして、令和3年度に同事業がスタートし、拠点CSWや相談支援機関から複合的な課題をもつケースが多機関協働事業に寄せられ、各ケースの課題整理に取組み始めています。
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  • これまでの実施に向けた経過や取組みの状況について、八王子市社会福祉協議会支えあい推進課長の大島和彦さんと支えあい推進課主査の大和智史さんのお二人にお話をうかがいました。
  • 〔ヒアリング日:令和3年10月21日〕
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八王子市の重層事業における各相談・支援機関の位置づけ

 

八王子市では、既存取組みをベースに、新設された「多機関協働事業」「アウトリーチ等を通じた継続的支援事業」「参加支援事業」を社協に委託し、以下のとおり整理をしました。

 

 

Ⅰ 地域福祉推進拠点とCSWのこれまで

 

(1)最初はCSWが拠点に出向く形から

地域福祉推進拠点は、八王子市社協が平成26年度からの地域福祉推進計画「第2次いきいきプラン八王子」で高齢者あんしん相談センター(=地域包括支援センター)の圏域ごとに開設していくことをめざした拠点です。当時の計画には「地域福祉推進拠点は、コミュニティソーシャルワーカー等による各種相談の場、地域福祉活動推進員との連携調整の場、町会・自治会、関係機関等の関係づくりの場(住民による福祉ネットワークづくりの場)として捉えるとともに、住民の活動拠点-福祉学習・懇談の場、コミュニティカフェ(常設型サロン)等の場、として捉えていきます。拠点の運営にあたっては、できるだけ地域の社会資源を活かし、その地域の人材や関係団体・組織・機関と連携し、コミュニティソーシャルワーカーが全体のコーディネートを行います」と記載しています。相談支援と住民のネットワーク活動の拠点としての機能が期待されました。令和3年10月現在で市内に9つの拠点が設置されるに到り、名称も10月からは「八王子まるごとサポートセンター(はちまるサポート)」となりました。将来的には日常生活圏域ごとに21か所の開設がめざされています。

 

平成26年12月、市内で初めて開設した拠点は「地域福祉推進拠点 石川」でした。市民部事務所に併設されている市民集会所をもっと有効活用できないかという話もあり、広いスペースに市民が運営にかかわるコミュニティカフェを開設することができました。当時は、ボランティアセンターの職員2名が拠点に出向いて相談支援にあたっていました。

一つ目の拠点で実績を作ってからの次の拠点づくりでは、地元と話し合いながらの調整に時間をかけ、平成29年4月に「地域福祉推進拠点 川口」を開設することができました。この時点で、拠点に配置する職員を「CSW」として専従にすることができました。以降は拠点に必ず1名のCSWを拠点に常駐する形で配置しています。

 

また、平成29年度からは、CSWに加えてアシスタントを臨時雇員で各拠点に配置することで、人口が10万人に及ぶエリアでCSWが地域へ積極的に出かけていくことのできる体制を整えました。

そして、その後は市民部事務所に限らず、より市民が訪れやすい市民センターも活用していくことになりました。拠点を開設する際、市民センターのどこのスペースを使わせてもらうか、市民センターを運営する住民協議会とも相談しながら設置をすすめてきました。

 

(2)国の地域共生モデル事業を活用しながら拠点を拡充

平成30年度から市は、国の「地域共生社会の実現に向けた包括支援体制構築事業(=モデル事業)」に取組み始めました。平成30年3月に「地域福祉推進拠点 浅川」「地域福祉推進拠点 大和田」を開設し、モデル事業を活用しながら、同年10月には「地域福祉推進拠点 由井」、平成31年2月に「地域福祉推進拠点 由木」を開設しました。これにより6か所の拠点を開設するに到り、市内の「北部」「西部」「西南部」「中央」「東南部」「東部」の6圏域すべてにCSWを配置することができるようになりました。

 

そして、「東部」「中央」圏域に2つめの拠点となる「地域福祉推進拠点 由木東」を令和元年6月に、「地域福祉推進拠点 台町」を令和2年3月に開設しました。さらに3年目の令和2年度には、「西部」圏域に2つめとなる「地域福祉推進拠点 恩方」を令和2年4月に開設し、拠点は9つとなりました。

 

こうして設置された地域福祉推進拠点では、令和2年度はコロナ禍で4~5月に拠点を閉めざるをえなかったものの、年間に1,201件の相談実績がありました。新規相談の受付件数463件のうち、39.3%は「高齢者に関する相談」です。その内容をみてみると、相談者は困りごとを抱えてはいるものの、どこに相談すればいいのかわからないといった相談が多くなっています。市民センター内の別の窓口を訪れた方からつながってくることもあり、分野や対象を限らない相談をCSWが受けとめています。こうした中、最近、増えてきているのは「貧困・引きこもり」(16.6%)、「その他」(22.5%)の相談です。八王子市では、生活困窮自立支援制度の自立相談支援機関を市が直営していますが、拠点CSWと市の生活自立支援課と連携するケースも多くなっています。モデル事業では、地域にある相談機関が受け付けた相談に対してそれぞれの専門性を発揮しながら、関係する機関との調整を行い、問題の解決を図ることがめざされました。その相談機関とは、①高齢者あんしん相談センター、②成年後見あんしんサポートセンター、③消費生活センター、④障害者生活支援拠点、⑤保健所、⑥保健センター、⑦子ども家庭支援センター、⑧教育支援機関、⑨若者相談センター、⑩生活自立支援課、⑪男女共同参画センター、⑫居住支援協議会、⑬地域福祉推進拠点です。そして、市の計画では、各相談・支援機関が包括的な地域福祉ネットワーク会議等によって連携を行っていくことがめざされています。現在のところ、各拠点では一つひとつの相談を通じた関係機関との連携を深めています。

 

 

拠点CSWへの相談には、次のような事例がみられます。例えば、①民生委員より連絡を受けて、疾病のため急激に身体状況が悪化して生きる気力が低下した50代の方のお宅にCSWが同行訪問し、その後、根気よく関わりながら関わる人たちを少しずつ増やしていったケース、②子ども家庭支援センターからの案内で不登校の児童の母親が拠点CSWに相談し、児童が社協の主催する勉強教室でシニア世代の先生と接するとともに、勉強会以外の地域活動にも参加して前向きな気持ちが芽生えたケース、③近隣の方から拠点に相談に行くよう助言された独居高齢者からの話を丁寧に聞き、生活基盤を整えるとともに、近隣住民にも働きかけることで、近隣との会話も増えて元気になっていったケース、などがあります。

 

(3)拠点CSWを後方支援する統括主任CSW、さらには拠点CSWの複数体制へ

八王子市社協では「拠点CSW」の人数を着実に増やしてきましたが、経験豊かなCSWばかりを確保できません。そのため、拠点でCSWが受けとめた相談を後方支援するべく、令和2年度から支えあい推進課に「統括主任CSW」を配置しました。担当エリアは持たず、個別支援は行わないCSWです。「拠点CSW」を後方支援するだけではなく、地域の課題を全体で共有したり、次の拠点の立ち上げをすすめることも役割となります。エリアごとにCSWの配置がすすむ中、全域から拠点を後方支援するCSWが必要となったのです。

また、平成28年度からは社協で生活支援体制整備事業を受託し、第2層の生活支援コーディネーターが6名配置されました。受託の当初は6名のうち1名は石川でCSWを兼務し、残りの生活支援コーディネーターは拠点ではなく、支えあい推進課に席を置きました。その後、平成30年度に生活支援コーディネーターが12名に増員となった際、スペースの問題もあり、中心部から遠い拠点に生活支援コーディネーターを配置するようになりました。

 

そして、令和3年度に重層的支援体制整備事業が始まると同じタイミングで、市の高齢福祉課から高齢者あんしん相談センターが21か所にできたので、生活支援コーディネーターを社協から高齢者あんしん相談センターへと移したいとの相談がありました。ちょうど、重層的支援体制整備事業で「拠点CSW」の7名の増員が図られたところでした。そこで、従来の生活支援コーディネーターのうち、本人の希望で高齢者あんしん相談センターの生活支援コーディネーターに転籍した者もいましたが、多くの者は「拠点CSW」となりました。そのため、幸いにも増員分を新規に補わずに、生活支援コーディネーターとしての経験のあるCSWを配置することができました。

 

令和3年度からは各拠点にCSWを2名とアシスタント1名の体制をとっています。CSW2名のうち1名が正規職員で、もう1名は嘱託職員です。ともに相談支援は分担しながら、正規職員のCSWが拠点運営の事業計画を立案するなどの役割を担います。ただし、9つの拠点のうち、由井・台町拠点の2か所は拠点スペースの都合でCSWは1名ですが、その不足分は支えあい推進課にいるCSWや近隣拠点のCSWがカバーしています。重層的支援体制整備事業も始まり、今後、拠点CSWにはアウトリーチや継続的な関わりが求められてくることから、こうした複数体制はやはり重要といえます。

このように、八王子市社協のCSWは、平成26年度の最初の拠点づくりに始まり、7年間で拠点に常駐するCSWを複数体制にするに到るとともに、全域から拠点を後方支援するCSWを配置するまでへと発展してきました。

 

取材先
名称
(社福)八王子市社会福祉協議会
概要
(社福)八王子市社会福祉協議会
https://www.8-shakyo.or.jp/
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