(社福)八王子市社会福祉協議会
八王子市社協における重層的支援体制整備事業の取組み―包括的相談支援を担う各拠点CSWを増員するとともに、 社協本体の支えあい推進課に多機関協働担当CSWを専従配置 ―
掲載日:2022年5月19日

Ⅱ 重層的支援体制整備事業の実施に向けて

 

(1)財源を含めた庁内の共通理解づくり

国のモデル事業を3年間実施してきた八王子市は、令和3年度からの「重層的支援体制整備事業」の実施に手を挙げました。市の重層的支援体制整備事業の所管課は、社協を所管する福祉部福祉政策課です。市は、これまで市がすすめてきた施策と重層的支援体制整備事業を合わせることで、地域課題の解決がすすみ、地域共生社会の実現に向けた有効な取組みになると考えました。また、地域福祉推進拠点を中心に同事業を行うことが有効と考えたため、社協に委託する方向となり、令和2年度の6月以降に社協に相談がありました。市との協議は福祉政策課との間で行われ、社協からは事務局長と支えあい推進課長が出席し、市の予算編成に間に合うよう、体制や運営方法、予算等について論議を重ねました。

 

この事業は庁内でも多くの所管課が関係しています。そこで重要になってくるのが庁内の共通理解です。令和2年11月には市が厚生労働省の担当者を招き、市の関係所管課や社協、高齢者あんしん相談センターが参加する勉強会を開催しました。特に財源については、新たな機能(参加支援事業、アウトリーチ等を通じた継続的支援事業、多機関協働事業)と既存の事業を一体的に実施していくために、いったんは新たな機能の補助分と既存の財源が「重層的支援体制整備事業交付金」としてまとめられはするものの、既存事業の財源がそれによって削られる訳ではないという理解もすすみました。

なお、新たな機能を社協が受託することで、社協では前述のとおりアウトリーチ等を通じた継続的支援事業や参加支援事業を展開することになる拠点CSWの非常勤7名分、多機関協働事業を担うCSWの常勤1名分、非常勤1名分を増員することができました。

 

(2)多機関協働事業は拠点ごとにではなく、社協の支えあい推進課に設置

厚生労働省は、資料『重層的支援体制整備事業における 各事業の支援フロー』の中で、多機関機能の整備パターン例を以下のような5つで示しています。多機関協働事業をどのようなパターンで設置すべきかになりますが、八王子市では、①のパターンを選びました。

 

 

市との協議でも検討したポイントの一つです。6つの圏域ごとに多機関協働事業の会議体を作る案も検討しました。身近な地域で完結できる点では望ましい案ですが、この場合には、地域の相談支援機関の中で他の機関に対して役割を振る機関が必要となったり、圏域ごとの取組みに差が出てくることも想定されます。多機関協働事業は、重層的支援体制整備事業の中でも特にしっかりと構築していく必要があります。八王子市では、この部分を市として社協に担わせることとし、社協ボランティアセンターの支えあい推進課内に多機関協働事業の専従CSWを配置して実施する体制を選択しました。

これによって、八王子市における多機関協働事業は、以下のように実施していく流れができました。

 

 

(3)マニュアルづくりを通じて、多機関協働事業にかけるケース例を整理

八王子市では、令和3年3月に『重層的支援体制整備事業の実施について【マニュアル】』をまとめました。このマニュアルには、「各相談・支援機関が相談を受け付けた際の流れ」が盛り込まれており、そこでは、窓口の相談受付時に、以下の■相談内容欄を使用し、自らの所管以外の“潜在的な課題”がないかをチェックすることにしました。そのため、相談受付・申込票は、以下のように困りごとの内容を確認する様式となっています。

 

 

多機関協働事業は、支援の方向性の整理を複数の所管で行い、それぞれの役割を明確にし、支援終了まで各所管が関わる意識づけができることがメリットの一つです。各相談・支援機関では、自らが受け付けた相談に「複雑化・複合化した課題があるか」を判断します。「ある」場合には多機関協働事業へ、「ない」場合には各支援機関で対応を行うことになります。

八王子市では、この判断を各相談・支援機関ができるよう、各所管からこれまでに扱った「複雑化・複合化した課題がある」と思われる対応事例を集め、それを次表の①から④の4つに分類しました。主訴が明確になっているか、対応した機関が対応できるか、また、本人以外からの相談であるかなどが分類のポイントとなります。

主に②以下が多機関協働事業の対象となると考えられます。実際には③④の事例、特に③が多いと考えられ、こうした整理を通じて、多機関協働の機能を確認していきました。

 

 

(4)守秘義務をかけた「支援会議」は、市が行政として主催することに

多機関協働事業による相談受付が決まった場合、本人は多機関協働事業への利用申込を行うことになります。本人同意による支援を前提としたしくみだからです。そして、関係機関との情報共有にかかる本人同意を得たケースについて、当該ケースのプランを共有したり、プランの適切性を協議する会議として、重層的支援体制整備事業では「重層的支援会議」が規定されています。一方、地域では関係機関等がそれぞれ把握していながらも支援が届いていないケースについて、潜在的な相談者として支援を届けるため、支援の方策を本人同意のない場合にも検討することが必要となってきます。そのため、改正社会福祉法第106条の6では、会議の構成員に守秘義務をかけた「支援会議」を法定化しました。生活困窮者自立支援制度でも、本人同意を必要とする「支援調整会議」とともに、本人同意を必要としない「支援会議」が法定化されていますが、より複合的な課題に対応していくためのしくみとして設けられたものです。

 

八王子市では、多機関協働事業の支援フローを作るにあたって、本人同意を必要とする「重層的支援会議」は八王子市社協が多機関協働事業者として主催しますが、守秘義務をかけた「支援会議」については八王子市福祉部福祉政策課が行政として主催するしくみとしました。この「支援会議」は庁内の関係機関との調整の必要な会議であり、行政が主催した方が関係機関の確実な参加が得られ、法に基づく守秘義務も順守できることが想定されるからです。実際には、どの機関に参加してもらうべきかなどは社協と福祉政策課で相談しながらすすめています。複雑化・複合化した課題のあるケースが本人以外からの相談で入り、いったんは「支援会議」で受けとめてアプローチを検討し、丁寧な関わりを経て本人同意が得られるようになり、「重層的支援会議」に移行していく、そうした流れも考えられます。

こうしたことから、以下のような相談フローができあがりました。

 

取材先
名称
(社福)八王子市社会福祉協議会
概要
(社福)八王子市社会福祉協議会
https://www.8-shakyo.or.jp/
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