多摩児童相談所フォスタリング機関二葉学園・東京都福祉保健局少子対策部育成支援課
継続性と一貫性のある里親支援に向けて~都内におけるフォスタリング機関事業の取組み状況~
掲載日:2022年6月28日
2022年6月号NOW

 

あらまし

  • 2016年の児童福祉法改正により、都道府県が行うべき包括的な里親支援業務(フォスタリング業務)が明記されました。東京都では、20年10月から多摩児童相談所を皮切りにフォスタリング機関事業が開始されています。
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  • 今号では、フォスタリング機関事業が必要とされる経緯と受託している施設の取組みを紹介します。

 

フォスタリング機関事業とは

2016年の児童福祉法改正により、子どもの家庭養育を優先する原則が明記され、より質の高い里親養育を実現するために、都道府県が行うべきフォスタリング業務が具体的に位置づけられました。

 

フォスタリング業務とは、里親のリクルート(開拓)やアセスメントをはじめ、里親への研修、児童と里親家庭のマッチング、未委託時および里親家庭への委託前後の支援、自立後のアフターケア等、一連の里親支援事業のことを指します。

 

東京都では、20年10月から多摩児童相談所、22年度からは、立川および江東の両児童相談所でフォスタリング機関事業が開始されています。

 

委託児童をチームで育てる

これまで、里親への支援は児童相談所を中心に、児童養護施設や乳児院に在籍する里親支援専門相談員等と役割分担して行われてきました。特に東京都では、18年1月から『チーム養育体制』として、委託児童を養育するチームの一人に里親を位置づけ、地域の多機関で支援するしくみをすすめてきました。都福祉保健局少子社会対策部育成支援課里親調整担当課長代理の三角瑞穂さんは「これまでは重層的な支援ができる一方で、里親目線では誰に何を相談したら良いか分かりづらかったり、多機関での情報共有が行き届かない部分があったりした。フォスタリング機関事業は、チーム養育体制をさらに強化し、一つの機関が一貫性と継続性を持って対応することができることが特徴」と、フォスタリング機関の強みを話します。

 

必要とされる継続的で一貫性のある支援

19年度時点で、何らかの事情により実親による養育が困難な子どもは都内に約4千人おり、そのうち、里親やファミリーホームに委託される子どもの割合(里親等委託率)は14・3%といいます(※1)。東京都社会的養育推進計画では、里親等委託率を29年度までに37・4%に引き上げることを目標としています。

 

より多くの子どもが家庭的な環境で過ごすために、「里親制度の普及や、里親への興味、意欲のある方を登録につなげていくこととあわせ、登録された里親が児童の委託を受け、委託児童に応じた適切な養育ができるようになることも重要」と、三角さんは話します。委託児童の中には、障害や発達特性のある子どももいるため、里親が養育にあたって不安を感じることがあります。また、家庭復帰をめざしている事例では、実親交流への里親自身の抵抗感や、交流により不安定になる委託児童のケアなどに心的負担を感じる里親は少なくないといいます。

 

同課里親調整担当課長代理の関口麻美さんは「フォスタリング機関を利用した里親へのアンケートでは、『これまでは都全体で研修が行われていたため、会場が遠いこともあったが、会場が近くなったことで参加しやすくなった』『同じ職員に継続的に相談にのってもらえることで安心する』『里親・委託児童、両者に役立つ進学や就職に関わる学習会が定期的にあったため、情報を得やすく不安が解消された』といった肯定的な声が多く、手応えを感じた」と話します。

 

三角さんは「地域に根ざしたフォスタリング機関によって包括的かつ継続的な関わりができることで、里親と伴走しながら委託児童にとってより良い環境を整えていけるだろう」と期待を話します。

 

里子、里親のため工夫して伴走する~多摩児童相談所フォスタリング機関二葉学園(調布市)~

都内で初めて設置された多摩児童相談所のフォスタリング機関は20年10月に東京都から社会福祉法人二葉保育園に委託され、児童養護施設二葉学園が業務を行っています。

統括責任者の丸山隆康さんと里親リクルーターの青木貴志さんに、取組みや思いを伺いました。

 

里親支援の工夫した取組み

もともと法人として地域支援、里親支援に力を入れてきた歴史もあり、フォスタリング機関を受託することにしました。

 

多摩児童相談所フォスタリング機関二葉学園(以下、たまふぉす)の職員は8名で、多摩児童相談所と二葉学園に分かれて勤務しています。物理的に離れているため、毎朝や週に1回、オンラインも活用しながらミーティングを行い、密な情報共有を心がけています。

 

たまふぉすでは、多摩児童相談所管内の児童養護施設、里親支援専門相談員、学校、保育園、市役所、子ども家庭支援センターなどとも連携、情報共有し、チームで里親支援にあたっています。

 

設置から約1年半が経過し、たまふぉすではより良い里親・里子支援のため、日々試行錯誤を続けています。オンラインや各市で開催する制度説明会では、参加者にリアルな声を届けるため、里親に実体験を話してもらっています。

 

また、これまでは里親に仕事を調整して時間をつくってもらうことが多くありましたが、支援機関として可能な調整をするようにしました。例えば、通常、平日に児童相談所で行われる実親交流を、たまふぉすでは施設の部屋を活用することで土日祝日も今後は対応していき、これにより、より家庭に近い雰囲気の中で実施することが可能になると思われます。

 

そして、有効な手段となっているのがLINEを使ったアフターケアです。「今の若い世代は電話やメールでの相談はハードルが高い。LINEは使い慣れているし、書き方が分からない書類を写真で送ってすぐに自立支援相談員に相談ができる。通知が鳴ることも多く、夜間帯等を除いて相談員も迅速に対応するようにしている。措置解除後の7~8割の子どもがLINEでつながることができている」と青木さんは話します。

 

フォスタリング機関の意義

これまで、里親からは児童相談所以外にも支援機関があると良いとの声があがっていました。また、措置解除後の子どもたちへの対応は制度化されていなかったことなど、里親制度に関する課題があります。

 

これに対し、フォスタリング機関の強みを「里親・里子にとって身近な支援機関ができたこと、里親登録からマッチングまで一貫性、継続性のある里親支援が可能になったこと、スピード感のある対応ができるようになったことだと思う」と丸山さんは話します。青木さんは「児童相談所とは異なる立場から、時には里親の愚痴や相談を受けつつ、里親と共に子どもの成長を見守り伴走する機関として意義がある」と話します。

 

ほかにも、たまふぉすでは、二葉学園の資源を活用して育児家事援助事業を実施しています。施設職員も里親と接する機会が増え、施設全体にも地域支援の取組みが広がりつつあります。

 

青木さんは「『子どものために』ということを常に心がけている。里子の安心のためには里親の安心も欠かせない。そのため、児童相談所と互いの強みを生かした協働のシステムづくりを行っていくことが今後の課題だと思っている。また、時代のニーズの変化にあわせ、『地域の子育て支援の一環としての里親』という社会的意義を伝えていきたい」と話します。

 

(※1)東京都「東京都社会的養育推進計画」(令和2年3月)

 

多摩児童相談所
フォスタリング機関二葉学園のロゴマーク

 

 

 

学習会の様子

 

体験発表会の様子

取材先
名称
多摩児童相談所フォスタリング機関二葉学園・東京都福祉保健局少子対策部育成支援課
概要
多摩児童相談所フォスタリング機関二葉学園
https://www.futaba-yuka.or.jp/int_gak/fosterparent_blog/2121/

東京都福祉保健局少子対策部育成支援課
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/joho/soshiki/syoushi/ikusei/index.html
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