理事・事務局長
楊 淼(やん みゃお)さん
これまでの自身の経験が現在の活動に
アジア人文文化交流促進協会(JII)理事・事務局長の楊淼さんは、日本の人事系コンサルティング会社に勤務しながら、日中両国の政府や企業が、経済や文化について意見交換を行う国際交流会議に、学生の頃から運営や通訳として関わっていました。両国の会議関係者は、中国で反日デモが激化した時期でも、お互いに信頼し合い、友好的な関係を築いていました。楊さんは「会議の様子と、中国で反日デモが起きていた当時の状況とのギャップにショックを受けた。『直接知ること』の大切さを痛感した」と振り返ります。直接関わっていれば、分かり合えることや学び合えることが数多くあり、その機会を提供したい。それがJII設立時の思いです。
仕事と子育ての両立をし始めた15年が大きな転換点となりました。楊さんは「『初めての子育て』と『外国人』という条件が掛け合わさった時、ビジネスの世界では感じなくなっていた『外国人は異質な存在』であることを改めて実感した。例えば、近所の児童館や育児サークルに行っても、周りの人が困惑してしまったり、逆に気を遣われすぎたりと、とても不自然な感じだった」と話します。そして「自分と同じような境遇の人から相談を受けることも多く、『会社員としてではなく外国人だからできることをしたい』と、気持ちが大きく動いた」と言います。勤めていた会社を17年に退職、JIIの活動に専念することを決断し、活動のあり方を模索することにしました。教育や医療、福祉の面で、日本で暮らす外国人がどのような課題を持っているのかを客観的に把握するための調査や、外国人を対象にした相談会を実施するなどしました。楊さんは「その中で、困りごとの多くは日常生活のことで、『疑問に思っていることを気軽に聞ける相手さえいれば、まず多くの問題が解決される』という確信を持つことができた」と語ります。
そこで、19年に始めたのが「おとなりさん・ファミリーフレンド・プログラム(OFP)」です。
日本で暮らす自信につながる
OFPは、日本で暮らす外国人が、地域に住む「おとなりさん=日本人ボランティア」とペアを組み、一対一の交流を通じて、日本での生活に慣れていき、なじみやすくなるためのコミュニケーションサポートプログラムです。日本人ボランティアと外国人、合わせて500人近くが登録しています。日本人ボランティアには、会社員や子育て世帯、学生、シニアの方などが登録しています。参加している外国人住民は、日本語学校や大学、大学院の学生、子育て世帯、会社員の方などで、属性はさまざまです。
ペアのマッチングは、JII事務局のコーディネーターが、外国人と日本人の登録者それぞれの居住地域や家族構成、生活スタイル、ニーズや期待することなどを丁寧にインタビューしながら、さまざまな要素を組み合わせて行います。「一対一の関係性を深めることで、それが生活を広げるきっかけになる。身近で気軽に話せる日本人とつながることによって、その人を通じて日本社会になじみやすくなると考えている」と、楊さんは話します。多くの外国人にとって、地元の「普通」の日本人と直接関わることは、大きな経験となるからです。そして、それが日本で暮らしていく自信につながります。
外国人住民が感じる「暮らしにくさ」について、楊さんは「ほとんどが『日常生活に直結するもののしくみや使い方が分からない』、『自分が困っていることを日本ではどうすれば解決できるかが分からない』といった身近なこと」と言います。また、明文化されていない日本のルールは、異なる環境で生活してきた人からすると疑問やプレッシャーに感じることも非常に多いです。例えば、オフィスカジュアルとはどの程度なら良いのか、道端で食事をして良いのかといったようなことでも戸惑うことがあるといいます。楊さんは「これらは日本での生活経験が浅いことによるもので、一度経験すれば分かるようになる。日常生活での困りごとは、専門家や相談窓口で対応するものではなく、日本で生活している日本人住民と一緒に解決すればいい」と言います。OFPは、外国人が抱える孤立や情報不足、暮らしにくさを解消していく役割を担っています。
「おとなりさん・ファミリーフレンド・プログラム(OFP)」のしくみ(JIIホームページより)
一方的な支援にならない関係性づくりを
「OFPを始めた時は、日本人ボランティアが集まらなかったらどうしようと心配だった。しかし、実際には、多くの人が登録してくれて、外国人とつながりたいと思っている人がたくさんいることを強く実感できた」と、楊さんは言います。日本人がOFPに登録している理由として、「自分が海外で現地の人に親切にしてもらったから同じように外国人に接したい」、「自分と異なる考え方や文化を持っている人のことを知りたい、理解したい」といったことがよくきかれています。楊さんは「これらは、まさに我々の活動で大切にしていること」と強調します。困っている人に手を差し伸べて助けるだけではなく、双方向の関係性やつながりを重視しています。楊さんは「外国人支援という言葉をみると『外国人=困っている人』と思ってしまうかもしれない。もちろん専門的な支援が必要な人もいるが、多くの場合、一方的な関係は成り立たない。これまで接することがなかった異なる文化や価値観を持つ人と関わることで、必ず自分自身に変化をもたらし、相手にも変化を与える。その相互作用を深めていくことが大切」と、活動への思いを語ります。
いつかOFPがなくなるような社会に
現在は、首都圏エリアで活動していますが、今後、日本全国へ広げていき、外国人住民がどこに住んでいても、その地域で「おとなりさん」を見つけられるような未来を、JIIはめざしています。楊さんは「OFPは、これまでの社会の枠組みにあてはめにくいしくみかもしれないが、日本人と外国人両方のニーズに応えているものであり、外国人が日本社会になじみ、一緒に生活していくために必要な、革新的なもの。多くの人に知ってもらい、参加する人が増え、日本に暮らす住民同士の力で社会が良くなっていくことを期待している。そして、いずれOFPのようなしくみがなくても、みんなが自然に関わるような社会になったら嬉しい」と、今後について語ります。
JIIのシンボルマーク。
木や鳥にはさまざまな色が使われており、豊かな共生をイメージさせる
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21年8月号から連載してきました本テーマは今号で終了します。
地域で活動するさまざまな団体を知っていただけたら幸いです。
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