(社福)救世軍社会事業団 救世軍自省館
今住まいが必要な人に~地域のセーフティネットとして~
掲載日:2022年10月3日
2022年9月号 TOPICS

2DKの一室(バストイレ付・洗面所あり)

2DKの一室(バストイレ付・洗面所あり)

1DKの一室(トイレ付)

1DKの一室(トイレ付)

 

◆支援は職員寮の1室から

1977年に清瀬市に開設された救世軍自省館は、生活保護法に基づく救護施設としてアルコール依存症の人に生活の場を提供し、生活支援をはじめさまざまな支援を行っています。2018年に生活困窮を理由に明日の住まいが必要な人の相談を自治体から受けたことをきっかけに、「施設で何かできないか」と地域に向けて一時的な住まい及び日常生活上の支援の提供始めました。それまで施設利用者の生活訓練用として確保していた職員寮の一室(1K・トイレ付)を使用し、対象は清瀬市民、利用期間は原則1か月として地域に開きました。

 

事業開始の18年度は全6件の申請のうち5件の利用。生活困窮等を理由とした20代単身女性やDV被害からの避難先として親子世帯での利用もありました。事業を進めていく中で確実なニーズを認識し、赤い羽根福祉基金からの助成金(※1)を利用し、20年には新たに1部屋(2DK・バストイレ付・洗面所あり)を整備しています。20年度は2部屋あわせて8件の利用。多くは生活福祉資金や生活保護受給までの仮住まいとしての利用でした。単身世帯から三世代世帯までと利用者層は幅広く、利用期間も最短で3日から長期では2か月超となりました。

 

21年度は、事業当初から使用していた1Kの部屋を本来の施設利用者の生活訓練として使用することが多くなり、2DKの部屋を中心に7件の利用となっています。21年度で助成事業は終了したため、現在は地域公益活動として、月々の食費や光熱費、備品購入費等の運営費用を捻出し、地域に向けた支援を継続しています。

 

 

◆住居支援から見るあらゆる課題

 「状況や要件にかかわらず、『今住まいが必要な人』を受け入れることができる」と副施設長の髙橋正隆さんは、施設独自の取組みゆえの強みを挙げます。施設に常時職員がいることも、緊急時の対応含め、安心した利用につながります。三世代世帯から認知症の単身高齢者と利用者層は幅広い一方、利用背景は家賃滞納による強制退去や生活保護、生活福祉資金受給までの居所確保等、生活困窮が中心となります。また、利用者の多くは非正規雇用者で収入面が不安定といえます。

 

生活困窮による利用のほか、DV・ストーカー被害からの避難先としての利用もあります。弾力的な取組みだからこそ、幅広いニーズに対応することができます。行政や関係機関を経て、必要な期間を利用し、退去後はアパートへの入居や施設入所等となります。原則清瀬市民を対象としていますが、必要に応じて市外からの利用も可能としています。

 

一時的な住まいがあることで、利用者は就職先の検討や貯金、必要な支援につながることが可能になります。利用者に対しては住まいの提供や食事支援のほか、必要に応じて定期的な面談も行います。救護施設としてのノウハウを提供することもできますが、あくまで住まいや食事等のハード面の提供をベースとし、相談等の支援は関係機関が継続して介入し、単独で支援するのではなく、地域の関係機関とのネットワーク上での支援を重視しています。

 

 

◆求められる柔軟な支援

 「収入が安定していると住居に危機を感じないが、非正規雇用や低額な年金収入のみといった収入面が不安定な場合はあっという間に住む場所を失う。巻き戻すことができない」と、髙橋さんは事業を通じて再認識しています。20年度の住居確保給付金(※2)の決定件数は前年度比34倍の13万5千件、21年度は3万5千件(厚生労働白書)。長引くコロナ禍により、「今日寝る場所がない」「明日住む場所がない」、そうした緊急的な状況に置かれるリスクが高まっているといえます。

 

職員寮の一室から始まった救世軍自省館の住居支援は、行政や民間団体と連携しながら継続しています。「ひとつの法人でやろうと思わないこと。関係機関と協働して支援していく」と髙橋さんが地域との連携に触れるように、住居支援は常に火事やトラブル等のリスクと隣り合わせのため、地域との関係性が不可欠になります。「ゆくゆくは、住まいが必要な人を24時間いつでも受け入れられるようになれば」と髙橋さんはこれからの施設の取組みの可能性について話します。今後支援の継続や拡大を考える上では、運営費用や体制等の課題に対応していく必要があります。

 

「良い意味で適当な、いろいろなかたちの住居支援が必要」と髙橋さんが考えるように、制度だけでは対応し得ないニーズがあり、さまざまな主体による取組み、それを支える仕組みや制度がいま住居支援において求められています。

 

※1・・・救護施設等のセーフティネット機能強化助成事業

※2・・・生活困窮者自立支援制度の一種で、要件を満たす者へ一定期間家賃相当額を支給

 

 

 

 

取材先
名称
(社福)救世軍社会事業団 救世軍自省館
概要
(社福)救世軍社会事業団 救世軍自省館
http://jiseikan.salvationarmy.or.jp/
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